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■剣と魔法と召喚と
「覚悟は決まったんですか?」 「ええ。私は、やっぱり聡についていきたい。そのためなら、全てを投げ打つ覚悟があります。」 神楽の決意を、新藤は言葉の端に感じていた。 女子寮の付近。新藤が寝床にしている場所である。新藤は相変わらず自分の部屋で寝泊りは出来ていない。 「あなたが悩み、結果としてその結論になった。そういう事ですか?」 「はい。私は、もう、迷いません。」 その瞳は、覚悟を決めた人間だけが持つ輝きがある。一歩も退かず、己を貫き通す想い――。 「……本当は女性を訓練したくはないのですが、仕方ないですね。あなたは私よりも我が強いようですし。」 新藤は、ちゃっちゃと地面に魔方陣を描いた。 「では、契約を。」 神楽は黙って頷き、契約は僅かな時間で完了した。 「呪文は分かりますか?」 「バース、でしょ?」 神楽の手元に現れたのは古そうな本。 「古代呪文書。面白いアーティファクトですね。あらゆる呪文を全力で放てる能力ですか……使いこなせれば、一級の魔法使いとも互角以上に渡り合えるでしょう。」 魔法には得意系統がある。苦手な系統では、およそ4割の力しか出せない。だが、このアーティファクトを使えばあらゆる呪文を全力で使えるのだ。 ただし、リスクもある。まず、無詠唱魔法では効果がない。おまけに、本を開いたままでないといけないのだ。 「これが……私の、能力――。」 「そうです。その力は、あなたの思い通りになります。他人を護るのも傷つけるのも、あなた次第です。そして……宮野さん、柊さん。」 新藤が草むらに声をかけた。ガサガサと音がして、茜と由佳が顔を出す。 「やっぱりバレてました?」 悪戯がバレたと言わんばかりの、茜の表情。全く悪びれた様子はない。一方、由佳はすまなさそうな顔をしている。 「私を相手にしておいて隠れられると思わないで下さい。まさかと思いたいですが、やはり、あなた達も?」 神楽は何の事か分からず、それよりも茜と由佳が隠れていたという事実に素直に驚いている。 「茜、由佳ちゃん? どしたの?」 「まあ、つまり……あんたを独りで行かせないって事よ。」 まだよく分かっていない神楽に、新藤が付け足した。 「つまり、彼女らも契約をし、戦闘訓練をしたい、と。そういう事でしょう?」 「そゆ事。行人君を問いただしたら吐いてくれたわ。」 ちなみに、行人は今頃ピクピクしながら部屋で横たわっていたりする。何をしたかは推して知るべし。 「茜……。由佳ちゃんまで?」 戸惑う神楽をよそに、茜と由佳はやる気だ。 「私は折れないわよ。」 「お世話になってばかりでは、心苦しいですから。」 神楽は何も言わない。何も、言えない。頬を伝わる涙は決して冷たいものではない。 「全く。何かにつけて面倒を起こしてくれますね、君達は。こちらに来て下さい。契約を、するんでしょう?」 まず茜が、続いて由佳が。新藤と契約をした。 「それじゃあ……バース!」 契約を済ませ、呪文を唱えた茜の手に握られているのは、剣。刀身は茜の上半身ほどもある。片側は全てが、もう片側は切っ先から半分が刃になっている。 「魔封剣。受け止めた魔法を吸収・魔力に戻し、その使い手、すなわち宮野さんに還元する能力があるようですね。」 ちなみに、還元された魔力は茜の本来の容量までしか貯められない。ただし常時、魔力を消費し続ける戦闘中ならば、ほぼ無限大に回復し続ける事が可能だろう。 「カッコいいじゃない。由佳ちゃんのは?」 ひゅんひゅんと剣を振り回す茜。危ない事この上ない。 「ええと、バース!」 現れたのは、筆――。 腕の長さほどの、長い筆である。先端は毛筆だろうか。由佳の髪色と同じ、黒っぽい緑色だ。材質は髪ではないようだが。 「まあ、らしいって言えばらしいけど……?」 はっきり言えば、一番武器っぽくない。もっとも、アーティファクトは必ずしも武器とは限らない。中には非戦闘用のものもある。 アーティファクトは、その者の経験や戦いにおける想いが大きく影響する。茜や神楽のように“戦う力”を欲すれば、それは武器となる。だが、由佳は他者を傷つける事をどこかで恐れていた。それだけに、即物的な武器は出せなかったのだろう。 そういう意味では、戦いを嫌い、絵を描く由佳にはピッタリとも言える。 「ほぅ……? これはすごい……!」 「何がすごいんですか?」 茜の質問に、新藤は本を見ながら答えた。 「召喚の筆。魔方陣に対応した魔法生物を召喚・隷属するアーティファクトです。」 「……?」 イマイチ分かっていない3人に、新藤は詳しく説明した。 「普通、召喚するには召喚したい魔法生物を超える力を持っていなければなりません。そうでないと、魔法生物が呼び主の命令を聞かないからです。ですが、このアーティファクトを使えばどんな魔法生物も召喚し、命令が出来ます。例えるなら、柊さんはこの間のデーモンを呼び出し、使役する事が可能、という事です。もっとも、複数体を同時に使役はまだ出来ないようですが。その辺は練習次第でどうにでもなるでしょう。」 「それって、凄い事じゃないですか?」 「だからそう言っているでしょう。」 ようやく分かりかけた茜や神楽に、新藤は呆れたように言った。 もちろん、由佳のアーティファクトも万能ではない。魔方陣を知らなければ何も出来ないのだから。それに、召喚士はどうしても他人頼りの戦闘になってしまう。それは、由佳自身が弱いままという事。由佳が倒されると魔法生物もこっちの世界にいられないのだから、最強とまでは言えない代物だ。 「訓練は明日から行いましょう。それでは、私はこれで。」 相変わらずの新藤は、さっさと行ってしまうのであった。 |