■平和へと戻れぬ日々

 毎度お馴染み、地下訓練所。今日は5人と新藤が揃っている。
「揃いましたね。それでは、訓練をしましょうか。まず始めに、今後の訓練を教えます。では、宮野さん。」
 茜が一歩、前に出た。少し表情が硬いのは、緊張でもしているからか。
「あなたは魔法剣に少し慣れてもらいます。剣に魔法をかけ、その状態で素振りをして下さい。続いて、神無月さん。」
 今度は神楽が一歩、前に出た。こちらはやる気満々といった面持ちだ。
「あなたはあらゆる魔法に慣れて下さい。アーティファクトを使い、様々な魔法を打ち込む訓練です。最後に、柊さん。」
 由佳は前には出ない。こちらは茜以上に緊張しているらしい。
「あなたはこの本を読み、片っ端から召喚して下さい。綾瀬君は、柊さんが召喚した魔法生物と戦闘の訓練を。村野君は、分かっていますね?」
 聡が頷いたのを見て、新藤は満足そうに頷いた。
「では、始めて下さい。」

 それから数日の間、訓練は続いた。校舎の修復も終わり、授業が再開されて訓練時間は減ったが、それでも誰も弱音を吐く事はなかった。
 月日は矢のように流れ、早くも6月になった。考えてみると、本当に色々な事があった気がするのに。まだ2ヶ月しか経っていないのだ。矢のように流れ、と言ったが、どちらかと言うと亀の歩みよりも遙かに遅い。
 ある日、新藤はいつもの訓練の前にこんな事を言った。
「皆さん、まずはこの書類に目を通して貰います。」
 いつもの訓練の前に、新藤は聡達に封筒と小箱を渡した。
「何ですか? コレ?」
 聡はピラピラと封筒を振る。
「ただの確認ですよ。個別訓練室で読んで下さい。今日は個別の訓練ですからね。」
 そう言って、新藤は訓練室に案内した。

 個別訓練室は、独りで魔法生物や他の生徒と戦う部屋である。広さは一般訓練室より遥かに狭いが、それでもかなり広い。
「え〜と?」
 聡が封筒を開くと、中には一枚の紙切れがあった。
 内容は至って簡単。それ以上もそれ以下もない。
 『死を恐れぬのならば、小箱を開きなさい。』
「んだそりゃあ? ま、いいけどさ。」
 聡は躊躇せず、小箱を放り投げた。煙が沸き立つ中から出て来た者の姿は、見覚えがあった。ないはずがない。その姿は、紛れもなく――。
「……俺?」

「邪魔よッ!」
 茜の剣が、茜の剣を叩き潰す。そして大きく間合いを広げた。
「何なのよ……。」
 剣技の速度も強さも、全く変わらない。だが、ジリジリと押されている。相手が疲れていないからだ。
 同じ実力、同じ戦法、同じ思考。全てが同じで、ただ体力だけが違う。かわし、受け、流し続けるのも限界が存在する。だが、攻められない。決定打を与える隙が、ない。このままでは、本当に、あの紙に書いてあった通りになる。
 茜モドキが、剣を背負って間合いを詰めてきた――。

「苦戦してますねぇ。」
 新藤は訓練室の外で聡達の戦闘風景を眺めていた。皆が各々苦戦していた。
 聡達が戦っている魔法生物は、相手の形態だけでなく戦闘能力や戦いの癖まで模写する。これはアーティファクトすらも模写するという徹底ぶりだ。
「生徒に倒せる力量の敵ではあるまい。」
 突然、新藤の背後から声が飛んできた。普通なら飛び上がりそうだが、新藤は表情にすら変化はない。
「お久し振りです。『不死の暗黒』。」
「久方振りか。『ロード・オブ・フリーズ』。」
 ふっ、と新藤は失笑を漏らした。
「クロウ。私はもうロードではありませんよ。」
「……その事だが、先日の結界日に『ロード』らしき連中に会った。この学園の中で、だ。」
 僅かに、新藤は言葉に詰まった。
「しかしマスターは行方不明のはず。確かに死ぬとは思えませんし、世間で思われている時期よりも後に私は一緒にいました。しかし、それでも……。」
「ありえない、とでも言うつもりか。」
 クロウの鋭い眼光が新藤を射抜く。新藤は僅かに眉根を寄せ、軽く首を振った。
「秀一君ですか? 風峰さんですか?」
「両者だ。村野聡達と交戦していた。」
「……そうですか。」
 新藤の声は、なんだか残念そうだった。
「新藤玄馬。独りで抱え込まぬ事を勧める。」
「クロウ。私は常に独りですよ。」
「そうかもしれぬな。」
 クロウは最早何も言わず、訓練室の片隅に落ちる闇に混じりあった――。



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