■Lord of Lord

 月の明るい夜である。魔法の灯がなくても本が読めそうだ。
 そんな明るい夜なのに、道端に闇が広がっていた。その傍らに立っているのは、新藤玄馬。
「新藤玄馬。未だあの子らに『神の王』について話しておらぬのか?」
 腹に響くような重い声で、闇が話しだした。
「彼らを巻き込むつもりは毛頭ありません。したがって、話など何もありませんよ。」
「新藤玄馬。村野聡は『神の王』の子息であろう。それでも話さぬのか?」
「最近、あなたもお節介になりましたね。余計なお世話というヤツですよ?」
「――意地を張るな。貴様独りでは『神の王』は倒せまい。ロードが邪魔をすれば、いかに貴様であろうと勝利できる可能性など皆無に等しい。」
「クロウ。」
 新藤は闇の名を呼び、じっと見つめた。
「あの子達ではそれこそロードに勝つ事すら不可能です。足手まといなど要りません。そのために得た力です。」
 新藤の周囲を、冷気が漂う。触れうる全てを拒絶し、万象を閉ざす氷。
「安心しろ、新藤玄馬。あの男の血を引く者と共に在るべくして在る者達だ。『ロード』の足止めくらいは出来よう。」
「随分とあの子達を買っているんですね?」
「――素直になる事だ、新藤玄馬。」
 そのまま闇は夜の明かりに溶け込んだ。

「皆さん、今日は話があります。時間はよろしいですか?」
 いつもの訓練の後、新藤はそう切り出した。
「構わないですけど、何スか? 今更改まって?」
 聡は汗を拭きながら、新藤に問い返した。他の4人もそれぞれ話を聞く態勢に入っている。
「マジック・マスターについてです。」
 その一言で、ざわりと声が起きた。
「私は以前、マスターと旅をしていました。その頃の話です。」
「――どうして今、なんですか?」
 鋭い質問を飛ばしたのは由佳である。
「先日の結界日、マジック・マスターの魔力を感じたという者がいましてね。もしかしたらマスターはまだ生きているかもしれない。そう思うからですよ。」
 さりげなく本当の理由を隠しながら、新藤は由佳の質問に答えた。そして、更に質問される前に語りだした。
「当時、私はマスターとその連れと共に旅をしていました。各地で魔法生物を倒して回る旅です。」
 新藤は遠くを見るような目をした。過去を思い出しているのだろうか。
「マスターに従う我々はロードと呼ばれ、マスターは自ら『ロード・オブ・ロード』を名乗りました。マスターの強さは尋常ではありませんでしたが、私以外のロードの3人もやはり強かった――。」
 マジック・マスターの強さは今更説明するまでもない。それほど有名なのだ。
 マジック・マスターの称号を得られる者は常に世界でひとりだけ。過去、その称号を得た者は例外なく絶大な魔力を持ち、そしてその力を人々のために使った。彼らの名は学園の教科書にすら載っている。
「1人は『ロード・オブ・ランス』風峰桔梗。魔封じのアーティファクトを持つ珍しい人でした。もっとも、魔法のセンスは全くありませんでしたがね。もう1人は『ロード・オブ・ナイト』如月秀一。私とマスターが戦闘訓練をした子です。その強さは私が保証しますよ。」
「俺らより強いんですか?」
「――ええ。格段に。」
 その言葉に、聡は少し苦い顔をした。
「仕方ないでしょう。風峰さんも秀一君も日々戦闘訓練だけを積んでいますから。次元が違います。」
 どうフォローされても、聡の悔しさが消えるわけがない。聡達も毎日訓練を積んでいるのだ。だのに、まるで届かない。新藤にも、クロウにも、ロードにすら。その道は、未だに遠く険しい。
「焦ってはいけませんね。そもそも、不可能を可能にしようとしているのですから。」
「先生。フォローになってないです。」
 行人はついツッコミを入れてしまった。もっとも、新藤にフォローするつもりはサラサラない。
「そうですね。では、今後は組でロードクラスの戦闘を経験してもらいましょう。」
「――はい?」
「つまり、2人1組で戦闘訓練を行います。あなた方は基礎だけは出来ています。後は応用――すなわち、反射速度や戦いの勘、状況を把握する能力などを鍛えるのですよ。これは経験が全てです。そうですね、私の鬼神と戦えば早いでしょうし。」
 なんとも思いつきとしか思えない過程を経て、茜達は鬼神と訓練するという前代未聞の事態に陥ってしまった。



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