■許されざる者

「――先生。」
 聡達に話を終え、それぞれが帰路についた後。由佳は深刻な表情で新藤に話しかけた。周囲には誰もいない。
「何ですか?」
 特に深刻な風を装うわけでもなく、新藤は問い返した。
「もしかして、この間の結界日……マジック・マスターが?」
 新藤は、ほぅ、というため息にも似た感嘆の声を漏らした。
「あなたは本当に鋭いですね。確かに、その可能性はあります。あれだけのデーモンやドラゴンを召喚する魔力を持つ人はそういませんからね。」
「でも、あのマジック・マスターが――?」
 由佳の疑問はもっともだ。マジック・マスターといえば、聖人君子で非の打ち所がないと言われる人物にのみ与えられる称号。気高く、強く、優しく、そして誰よりも人々を救う者。それが、間違えば――というよりも、明らかに人が死ぬ事件を起こすなんて?
「少なくても、風峰さんと秀一君にはあれを起こせる精神的理由があります。」
「精神的理由、ですか?」
「ええ。秀一君は善悪という感情を知りません。教えても覚えなかったんですよ。故に殺しをためらわない。
 風峰さんは魔法に関してノーセンス。それだけで魔法使いを憎む理由になりえます。誰よりも、深く。」
 魔法に関してノーセンスというのは、近頃は滅多にいない。それだけに、少数派の彼らはやたらと扱いが悪い。
 仕事、学業、はては人間関係まで。差別されない所はない。極端な話、魔法が使えないというだけで国外追放や、殺人の汚名を被る事すらあるのだ。
 彼ら非魔法族は、紅蓮に輝く髪を持つ。紅蓮の髪を持つ子は忌み子と呼ばれ、地方によっては生まれた直後に殺される。むしろ、その方が幸せだろう。彼らは、生きる事すら容易ではない。
 誰が呼んだか、彼らに付いた忌むべき名『穢れた血脈』。それが、彼らの全てを表す。
「そんなに――?」
「これが、現実です。学校では教えませんがね。ある特定の人間は、夢や希望を持つ事すら許されない。あなたなら、よく解るでしょう?」
 新藤の言葉に、由佳は僅かに頷くのであった――。

 という訳で。翌日の訓練は茜と神楽、行人と由佳が組んで新藤の鬼神と戦うものとなった。
 鬼神は、上級の蒼魔法である。一種の使い魔で、普通は犬猫や鳥などを使役する。だが、新藤は戦闘用にわざわざ鬼神と契約したのだ。
 新藤は世にも珍しい紅も蒼も両方扱う魔法使いである。普通はどちらか一方のみを極めるものだから、かなりの変人ぶりがうかがえる。
「先生、なんで俺は組まないんですか?」
 隣で鬼神と派手に戦う行人達を横目に見ながら、聡は未だに魔力を手に集中させる練習をしていた。
「あなただけは基礎が出来ていませんからね。仕方がないでしょう?」
 なんとも明快な答えである。文句の言いようがない。
「魔力集中はあらゆる魔法に通じる基礎中の基礎。これが出来ないうちは他の訓練は意味がないんですよ。」
 もっとも、聡はあまりにも魔力の容量が大きいために他の人間よりはコントロールが難しいのだが。しかし、魔力コントロールを正確に覚えなければ結界日以上に自我を失い、結果――仲間すら失う可能性を秘めている。だからこその訓練なのだが。
 新藤は例によって本を読んでいる。実は集中しないで鬼神を使役するのはかなり難しい技術なのだが、新藤は難なくこなせる。時折、鬼神に書類仕事を任せているとかいないとか。
「つってもこの集中っての、すっげー難しいんですよぉ?」
「分かっていますよ。ですが、その訓練が必要なのも効果的なのもあなただけなんですからねぇ――。」
 新藤は本から目を放すと、聡の方を向いた。
「そうですね。少しコツのようなものを教えましょうか。」
 新藤は左手に魔力球を作った。キレイな球形である。
「まず、手から思いっきり魔力を放出しなさい。そして、周囲からそれを手で押しとどめるようなイメージを持つ。」
 聡が言われた通りにすると、今まで全く変化のなかった手に、歪んではいるものの、球形の魔力が生まれた。
「お。出来た!」
「ふむ。まだカタチは悪いですね。もう少し練習しましょうか。」
「っしゃあ!やってやるぜ!」
 なんともノリやすい男である。その姿に、新藤は僅かに目を細めた。



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