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■得意系統
メラメラと、炎が燃える。茜も聡も驚きのあまり一言も口にしない。グランシェスタの狂った笑いだけが響いている。 「はははははは!! 所詮、ロードと言ってもこの程度か! 話にならぬな! さあ、封印師の爺さん! 今度は貴様の番だ!!」 「――まだじゃよ。」 ハイテンションのデーモンに対し、学園長は冷静そのもの。それは、新藤の強さに対する絶対的な信頼がため。 空中で炎は燃え続ける。いつまでも、いつまでも。あまりにも、長すぎる。その事に気づき、デーモンが怪しみだした頃に。炎の中から声がした。 「まさか、私に炎で対抗しようとは。知らないと言っても、愚か過ぎますね。いや。もはや喜劇でしょう。」 炎はだんだんと人の形になり、それは炎から熱気へと変化していく。肌が焼けそうな、呼吸するのすら躊躇するような――圧倒的な、炎気。 すでにデーモンの表情に余裕はない。あるのは、恐怖の色のみ。 「ま、さか……!? 貴様、『氷の神』ではないのか!? あ、ありえない! ありえない!!」 「私がいつ、氷が得意系統だなどと言いましたか? 勝手に私以外の輩がそう勘違いしたに過ぎないのですよ。」 空中に立つ、その姿はすでにいつもの新藤ではない。そこにいるのは、戦いを好み、殺し合いに血を沸かせる、氷の魔導師。 「私は普段、最も苦手な氷系を使います。炎系では強すぎますから……手加減したところで、殺す必要のない相手まで殺してしまう。数字にするならば、私が扱う炎の威力は氷の2〜3倍。」 「馬鹿な……。そんな筈はない! 人間がデーモンを超える魔力も持つなんて? そんな馬鹿な――。ありえない、ありえない! あるはずがないんだッ!」 すでに、勝負は決していた。何をしようとも、グランシェスタでは新藤を倒せない。 さらに言えば、グランシェスタは失念していた。自身を召喚したのが、人間であったという事を。 「終わりです、グランシェスタ。私の炎に焼かれて死ねる事を誇りに思いなさい。」 新藤は久しぶりに、炎を放つ。放たれた炎の矢は紅蓮の光線と化し、グランシェスタを焼き尽くした。後には灰すら残さずに。 教員棟にある学園長室。いつもは学園長が座っている椅子の下の床に、クロウは手を触れた。すると、その魔力に反応し少しずつ床板が動き――やがて、人が通れる位の穴ができた。クロウはその暗闇へと続く穴に、躊躇いなく飛び降りる。クロウが通ってすぐ、穴は塞がれ元通り。何事もなかったように、周囲へ溶け込む。 クロウが降り立った先は、淡い青白い光に包まれた広い部屋。明るくはないのに、全てが見える不思議な部屋。その部屋の奥には、光る玉が置いてある。 正確には玉とは呼べないだろう。形状は不安定で、常にその姿形を変化させる。クロウはその光に近付くと、ゆっくりと手をかざす。 “何の用だ?クロウ。” 「聞きたい事がある。人間の魔力容量を増やす事は可能か?」 “無論だ。だが、せいぜい元の倍程度。異空間召喚術には足らぬ。” 「『神の王』でもか?」 “難しいだろう。もっとも、私の力を使えば話は別だが。” 「では、不死を得られるものか?」 “ああ。その程度、簡単だ。お前もそうだろう?” 「最後に。ヒカルは何を望んでいた?」 “私が誰の目にも触れぬ事。もっとも、新藤だけは別だが。” クロウは黙って手を戻すと、今度は天井を見上げた。そして、独り言を呟く。 「ヒカル。私は、新藤玄馬を助けます。あなたならばそれを望むと知っていますから。あなたは血を最も嫌いましたからね。そして、未来にはその方が良いと知っていても、今を放っておけなかった。そんなあなたに生み出されたからこそ、我はこの学園を――いや、無限の書を護る事を承知したのだから。」 クロウは光に向かって、言葉を紡ぐ。 「我が生み出された時から、我はお前を護る事が決まっていた。お前の力は幸せを生まない。この世界で不可能なものは、どの世界だろうと不可能なのだ。だのに、それを勘違いしている者がいる。我は、どうすべきだ?」 “当然至極。私に触れる事が許されるものは、貴様と新藤だけだ。ああ、神無月もだったか。それ以外が触れる事などあってはならぬ。天原はすでに何か、この世界ではない力を得かけているようだからな。おそらくは、私の欠片だろうな。得た時は、私が会おうぞ。” 「そうか。無限の広がりを内に遇する者よ。感謝する。」 クロウが立ち去り、残るのは淡い光のみであった。 それは、ただそこに在っただけだった。何も望まず、ただ在っただけ。それに気付いた男がいた。男は大切なものを失い、失意の底にいた。 それは男を可哀想だと思い、男に大切なものを取り返す方法を教えた。男はその話に飛びついた。それは、結果としてその行為が男を不幸にさせるとは思っていなかった。 それは男に力も与えた。与えられた力を男は喜んだ。 男の名前は天原聖。それの名前はない。それはそれ。それは、世界を揺るがす程の力を持っている。しかしその事実を知っているのは……それのみである。 |