■仮面の魔戦士

 ここは心魔学園から少し離れたところにある、とある神殿。周囲は山に囲まれ、訪れる人はおろか、そこに神殿がある事すら知らぬ者がほとんどである。
 その神殿の最深部。外からの僅かな明かりだけの暗い部屋。天井は暗くて見えない程に高く、柱は人間の胴回りよりも遥かに太い。
 そこに、4人の男女が立っていた。
 一番小さいのは真紅の長い髪を持つ少女。かわいいと言える顔立ちだが、その全てを恨むような悲しい瞳がかわいさを隠している。
 その隣には金色の長髪を後ろでひとつにまとめた少年が立っている。少女とは対照的に、彼の茶色の瞳は純粋で濁りがない。
 一方、その少年少女と向かい合って立っているのは大人の女性。年齢は20の半ばといったところだろうか。黄金色のショートカットにスーツとハイヒール。キラリと輝く眼鏡がいかにも教師と言わんばかりにきらめく。
 そして、それら男女より一段高いところに立つ男がいる。黒い髪に黒い瞳。その風格は、周囲の者と次元が違う事を示している。
 男は手に持つ紅い宝玉に語りかけた。
「本当に心魔学園にあるんだろうな?」
「我が偽りを述べる理由があるまい。」
 男の問いに、宝玉は低い声で返す。
「この間のヤツじゃあ見つからなかったからな。正確な場所が分かりゃいいんだが。」
 男はバリバリと頭を掻いた。
「残る可能性といったら校長室くらいか?」
「教員棟、生徒寮、各教室棟など。学校生活に直接的に関する建物にはありませんでした。」
 スーツの女性が、男に抑揚のない声で説明した。
「仕方ねぇ。サタンを召喚する。あいつが本気になんなきゃ校長が動くだろうさ。」
「しかし、『不死の暗黒』が動く可能性は?」
 今度は少年が男に問うた。
「クロウはあっちを優先するだろうから無理だな。あいつとは戦う必要がある。」
「新藤先生の方はいかが致しましょう?」
 続けて女性が男に確認する。
「来るなら俺が殺る。可能性があるなら引き込む。そんだけだ。」
「御意に。」
 男は背後の祭壇に宝玉を置くと、振り返った。その瞳には、決意の色がある。何事があろうとも己を曲げない覚悟が。
「作戦決行は明晩、正確には明後日の深夜2時。各自予定の場所より侵入、目標奪取した者は信号弾を打ち上げる。邪魔するヤツは好きにしな。ただ、出来る限り殺さねぇようにしてくれ。」
「「「了解!」」」
 それぞれ肯定の言葉を発し、作戦は始まった――。

「そう、ですか。」
 新藤と学園長はクロウの話を学園長室で聞いていた。
「間違いないんじゃな?」
「今回は、な。」
 学園長が念を押し、クロウが頷く。最悪の事態は回避しなければならない。
「サタンクラスを殺ってからでは、少々苦しいですね。」
 口調とは裏腹に、新藤の瞳には久しぶりにやる気がみなぎっている。
「ふむ。では、デーモンはワシが殺ろうかの。」
 学園長はゆっくりと立ち上がった。
「老いた爺様の出番ではありませんよ。」
 新藤のキツい言葉に、学園長は嬉しそうに笑った。
「優しくなったの。新藤君?」
「なッ……!?」
 学園長は新藤の肩をポンポンと叩き、言った。
「たまには里親らしい事をさせてくれんかの。どうせワシに彼は止められん。君が戦うのならば、せめてお膳立てくらいはしたいんじゃよ。」
「学園長……。」
「さて、と。準備でもしようかの?」
 立ち去ろうとする老人の背に、新藤は声をかけた。
「学園長。私は最初からあなたを責めるつもりはなかったんですよ。」
「――ありがとう。」
 優しく礼を述べ、老人は死地へと向かう。
 扉が閉まり、その余韻も消えてから。新藤はゆっくりと歩き出した。そして、歩調に合わせゆっくりと口を開く。
「クロウ、やはりあなたの力を貸して下さい。」
「新藤玄馬。我は元よりそのつもりだが。」
「――相変わらず愛想がないですね。」
「貴様に言われる筋合いはない。」
 ふっ、と小さく笑い。新藤玄馬も戦地へ向かう。



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