■ロードに抗う者

「あなた方は、何者です?」
 少年が問い、茜が答える。
「あんたこそ名乗りなさいよ。修一だっけ?」
「秀一です。文字でないと解らない冗談は止めて欲しいですね。」
 名乗りつつ、秀一はアーティファクトを構える。
「『魔剣の神ロード・オブ・ナイト』如月秀一。あなた方は新藤先輩の?」
「宮野茜。」
「4年E組の神無月神楽よ。」
 神楽の手には古代呪文書スペル・ブックが、茜の手には魔封剣セリス・ソードが握られている。
「――あなた方がどれくらい強いのかは知りませんが、先輩やマスターに仕込まれた僕の強さは並ではない。さっさと退いてくれません? 僕はこれでも忙しい身でしてね。」
「寝言は寝て言いなさいよ。」
 茜の挑発に乗ったのか、ただ面倒だっただけか。秀一は呪文を唱え、燃え盛る炎を解き放つ。
 しかし茜は慌てず、その炎を横薙に斬り払った。炎は魔力に戻り、剣へと吸収されていく。
「確かに魔法剣じゃ勝てないけど。剣技だけなら、簡単に負けたりはしないわよ?」
「魔法吸収型のアーティファクト? 厄介なものを持ってるなぁ。」
 秀一はイライラした感じで目を細める。
 秀一は禍々しい魔力を放つアーティファクト・賢王の太刀ワイズ・ブレイドを構える。今まで斬り捨ててきた相手の剣技を覚え、模写する能力を持った刀。その刀身は血を求めるようにきらめいている。
「まあいいです。ロードと戦うって事がどういう事か教えてあげますよ。」
 秀一は茜との間合いを詰める。神楽は茜の背後に動き、茜は秀一と斬り結ぶ。
「闇夜を切り裂く雷帝の槌、天を砕く雷王の槍、混ざり盛りて我が敵を屠れ。汝、我が……。」
 神楽が呪文を唱えながら、水矢を放つ。秀一は神楽の放つ矢をかわしながら、茜の斬撃を受け流す。
「飲み砕け! ウルヴ・ヴォルト!!」
「――!?」
 神楽の放った詠唱版の大魔法は、地面を砕きながら秀一に向かう。秀一は大きく後ろに下がってかわしたが、それは目前の茜に隙を見せる事となる。
「らあああああああ!」
 神楽の放った魔法を吸収し、茜の剣が袈裟斬りに振り下ろされる!
「甘いです。」
 しかし、秀一は茜の剣を横から叩きつけるように斬り、そのまま茜の剣を巻き込んで手前に引き寄せる。
 茜がバランスを崩したところで、秀一の斬り上げる斬撃が茜を襲う!
「茜ッ!」
 神楽が無詠唱の魔法矢を打ち込み、邪魔をしようとするが――間に合わない!
 秀一の剣が茜の右腕を斬り裂く。鮮血が飛び散り、茜は苦痛に顔を歪めた。片腕で済んだのは、バランスを崩しながらもギリギリ転がるように避けたためである。
 地に伏した茜にトドメを刺すため秀一は剣を振り上げたが、そのタイミングで神楽の魔法矢が秀一に届く。秀一は舌打ちしながら矢を刀で弾き、仕方なく茜とも神楽とも距離を開く。
「やりますね。ですが、魔法を封じたくらいで僕に勝てるなんて甘すぎる。」
「悪かったわね。」
 茜は歯を食いしばりながら剣を構える。腕を斬られるのは馴れている。
「でも、私達は負けないわよ。少なくとも、先生やマジック・マスターにべったりの坊やなんかにはね。」

 魔力の明かりが柔らかく照らすグラウンド。いつもは運動部が駆け抜ける場所で、対峙する者達がいた。
「あんたら、どういうつもり。」
 桔梗は純白の槍を右手に持ち、行人達を睨みつけた。
「分かってると思ったけど?」
 行人はいつでも戦えるように構え、由佳は後ろに下がってアーティファクトを握り締める。
「ふん。言うね。ただの魔法拳士が私に勝てるとでも思っているわけ?」
「悪いけどさ。俺は、ただの、じゃあない。」
 行人が全身に力を込めた。日々訓練した事で、容易に使えるようになった技術。顔が、身体が、異形の者へと姿を変えていく。
「なるほど。ワーウルフなのね。」
 桔梗は獣化した行人を見ても動揺しない。それこそが、歴戦の兵たる証。
「ますます殺したくなってきたわ。さっさと、死ねッ!」
 桔梗が地を蹴り襲いかかる。行人は得意の獣歩でかわし、横を取る!
「甘いッ!」
 しかし、桔梗はその動きを目で捕らえていた。桔梗は自らを中心に回転し、槍で周囲を薙ぎ払う!
 行人は紙一重で後方に飛びかわした。そこに桔梗の追撃が襲いかかる。体のひねりを利用した独特の突き――死突。
「轟け雷光! 彼方まで打ち払え!」
 そこに、由佳が召喚した稲妻が駆け抜けた。刹那のタイミングのズレが行人に回避の猶予を与える。
「知ってるよ。あんたのアーティファクトについては。」
 行人は桔梗と距離を置き、余裕の表情を見せた。
「『死白槍ディシーズ・ランス』。その周囲での魔法の使用を不可能にする珍しいタイプのアーティファクト。ただし、召喚魔法だけは封じる事が出来ない。」
「そっちの小娘は召喚士だったのね。ウザいわ。」
 真紅の髪が夜風に揺れる。その瞳に宿るのは、深い深い、どこまでも深い、憎悪。
「魔法使いは片っ端から殺す! 殺して殺して殺して殺して根絶やしにしてやるッ! 邪魔なんかさせるものかッ!!」
 大地を踏み砕き、殺意の塊たる槍使いは行人に仕掛けた。



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