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■格の違い
学園長が地を蹴り高く飛び、片手をたもとに隠す。『封水の騎士』の、独特の構え。 学園長の前に小さな水球が生まれ、それが巨大な柱のような水流を作り出す。 リュウナは落ちてきた水を腕で切り裂き、学園長との間合いを詰めた。 リュウナと学園長が対峙する、そのタイミングを狙って学園長が空いた手に、水を剣状の塊にして握り締める。そのままその右手を振り下ろした。リュウナは腕で受け止めたが、学園長はそれを望んでいた。 剣を紐状に変化させ、リュウナの腕を絡めとる。そしてそのままリュウナを放り投げた。 「連続で行くぞい。」 地に叩きつけたかを確認する前に、水柱を叩き込む! 水柱は大きく地面をえぐり、周囲は泥沼と化す。しかしその中心で、リュウナは立ち上がった。 「それで全力? たかが知れるね。」 リュウナは学園長の水流を生み出す球と全く同じ水球を2つ作り出した。もっとも、外見上はだが。 「これ、できる?」 「どうかのォ?」 ふふん。リュウナは得意げに笑う。 「無理なものは無理よ。所詮、人間の魔力なんてその程度なんだから。」 「その程度に召喚されたのは誰じゃったかのォ……? 最近はボケて仕方ないんじゃよ。」 ビシリ、と大地がひび割れる。 「死ぬ覚悟は?」 「今更じゃ。」 双頭の水流が弾けたように学園長に向かって突き進む。学園長は空中へと爆動で逃げた。 「だろうね。」 空中へと逃げた学園長の眼前に、リュウナが迫った。リュウナは腕を学園長目掛け振るう。学園長は、リュウナの腕を手の平で受けた。 学園長は弾かれ、地面に激突する。リュウナはそこに炎や雷、氷などの矢を雨のように降り注いだ。得意属性は完全に無視。片っ端から撃ち続ける。なにせ、どれが弱点かは分からないのだ。ひとつずつ、試してみるしかない。 矢が起こした土煙が学園長の姿を覆い隠した。リュウナは攻撃の手を止め、大きく距離をとった。 だんだん土煙が晴れてくると、学園長の姿が見えてきた。 「やっぱりやるね。あんた。」 「ほっほ、お褒めにあずかり光栄じゃよ。」 学園長の周囲を水のドームが覆っている。だが、その中にいる学園長は肩で息をする程に疲れていた。 パチンと水泡の壁が割れた。学園長とリュウナが再び構える。 「さて? そろそろ幕としようかのォ?」 「ふん! いいよ。一撃で終わらせてあげるよ。」 学園長とリュウナが同時に地を蹴り、学園長の手の平とリュウナの腕が交錯する。 その刹那、学園長はたもとに隠した手をリュウナに向けた。リュウナは考えるよりも早く危険を感じ、体をひねって回避する。 ギシリと空間が軋む音が響き、リュウナの腕が肩から消えてなくなった。唯一残った左手が下へと落ちて行く。驚く間を与えず、学園長のかかと落としがリュウナを地面に叩き付けた。 「まだまだ若い者には負けられんからの」 学園長も地に降り、最後の大技を決めるために詠唱を始める。 「封印式ね。私の、負けか。」 ――多分、あいつはあの瞬間に封印の呪を放ったんだろうね。限定空間だけを強制的に別次元に封印する呪文。つまり、空間に封じられた部分だけがえぐり取られる。 片腕でも反撃は可能だろう。だが、無意味。学園長は強い。腕を無くした以上、リュウナに勝ち目はない。否。勝ち目はないと思ってしまった。想えばそれは現実となる。弱気な想いほど、特に。だからもう、負けだ。 学園長の放つ限定空間封印が、リュウナの首と胸を異空間に封じ込めた――。 「念のため言っておく。退け、貴様では我には勝てぬ。」 クロウは構えない。だが、凛はアーティファクトを出し、臨戦態勢。 「今更だな。」 凛は問答する事なく、カードを両手に取る。そして、舞うように回転しつつその力を開放した。 「踏み砕け! 焼き尽くせ! 世界の全てを飲み尽くせ!!」 二重に燃え盛る炎がクロウめがけ放たれる。クロウは高くジャンプし、炎を避けた。だが。 「名乗っていなかったな。『幻想の女神』麻生凛。」 凛はクロウの目前まで迫り、カードの絵柄を向けた。描かれているのは、龍のような氷。 「噛み砕け。超龍の氷牙にて。」 カードから解き放たれた龍はクロウを飲み込もうと大きく口を開く。クロウは両手で口を押さえるが、勢いは龍の方が圧倒的に強い。 「……ちッ!」 「どうした? その程度なのかッ!? 『不死の暗黒』が聞いてあきれるわッ!!」 凛は攻撃の手を緩めない。カードから斧を先端に縛り付けたような槍・ハルバートを取り出す。そして、龍に対応するために両手を使っているクロウを下から突き上げた。 クロウは腹を突き抜かれ、さらに龍に飲み込まれた。 「ふん。口程にもない。」 凛は空中で静止し、埃を払った。 龍はゆっくりと凛のところに戻ってきた。凛はそっと頭をなでてやろうとして、手を噛まれた。 「……!?」 手の平に魔力を集め、爆発させる。龍は頭を吹き飛ばされ、頭があったその場所から六色の矢が飛んで来た。 「六属総矢!?」 六属性の矢を同時に放つ高等技術。攻撃魔法の基礎である魔法矢だが、他属性の矢を同時に放つのは次元が違う難しさがある。まして、六属性を全て同時となると……。 「麻生凛。我の魔力を人間程度の力と同程度と考えておるのか? だとしたら我も舐められたものだ。」 龍の中から、クロウが現れた。確かに腹を貫かれ、龍に噛み砕かれたはずなのに、無傷で。 凛はカードから盾を取り出して矢を防いだが、クロウは拳であっさりと盾を打ち砕く。凛が驚いた表情を浮かべる間もなく、クロウの手が凛の首をつかんだ。 「誠に残念だ。ロードを名乗る者がこの程度とは。」 クロウは凛を下へ投げ飛ばす。地面に叩き付けられ、地は砕け。砂煙が、もうもうと舞いあがった。 |