■自信の根源

 茜の剣が、魔法光の下で輝く。鉄色の刀身には、茜の強い笑みが浮かんでいる。
「言っておくけど、私も神楽も諦めないわよ。」
 神楽は何も言わずに、ただ頷くだけ。でも、それだけで、強い、折れない意思が伝わってくる。
「まったく。時には諦めも美徳の内ですよ? あなたがそこまで戦う理由がありますか? ないでしょう? マスターが力を得たところで誰かが困るわけでも損するわけでもない。なのに、どうしてそこまでムキになるんですか?」
「私はそこまでしてでも護りたい人がいるもの。あいつが止めるって言った。それだけで十分よ。私が命を懸けるには、ね。」
 神楽は間を空けず、ためらいなく答えられる。一方、茜は。
「……私は。」
 ――神楽のため? そうかもしれない。でも、それだけじゃない。命を懸けるに値する、その理由。それは……。
「私も、神楽と一緒みたいね。何を置いても、助けたい奴が戦地にいる。だから戦う。考えてみれば最初からわかってた。わかっていて、見て見ぬフリをしてた。ごまかすのはもう止めるわ。」
「愛は強しってワケですか? 下らない! 愛だの友情だので勝てるなら苦労はしない! 感情など戦いには無意味で無益! そんなものに左右される奴に苦戦したなんて、ロードの名折れ。早々に殺して差し上げますよ!」
 秀一は刀を構え直す。その構えは、見る者に深い畏怖を刻み込む。
 だが、今の茜や神楽はひるまない。それが秀一は気に入らない。
「死ねッ!」
 秀一が茜に向かって間合いを詰める。茜は黙ったまま。秀一がさらに深く踏み込もうとした刹那、気付く。茜の剣が、目の前にある。
 反射的に刀で受けるが、とっさに防御しただけに過ぎないので後が続かない。
 茜は振り下ろした剣をそのままの流れで逆袈裟に斬り上げる。これはかわせず、秀一は胸を斬られた。
 やった! 茜はそう思った。そのために、攻撃の手が緩んでしまった。
 秀一の胸からは血が流れない。それどころか、大きな傷にすらならない。
 秀一は形勢逆転とばかりに茜に向かって刀を振るう。茜は避けられず、脇腹を裂かれた。鮮血が秀一の刀を真紅に染め上げる。

「全力でいきますよッ!」
「当たり前だろうがッ!」
 新藤が渦巻く火炎を放てば、天原が雷槍で斬り弾く。天原が無数の雷弾を放てば、新藤が銀色に輝く弾頭を投げ放つ。
 爆発が空間を埋め、土煙の中から新藤と天原が飛び出した。そのまま空中で制止する。
「腕ぇ上げたな。玄馬ぁ?」
「お褒めに預かり光栄ですよ。マスター。」
 新藤は軽く手を振った。すると下から聡が飛び出してきた。
「ごほッ、げはッ、先生……。少し手加減……。」
「出来る筈ないでしょう。それより村野君、ルーンヴォルトを唱えて下さい。頼みましたよ。」
 それだけ言い放つと、新藤は聡を下に降ろした。と言うか、落とした。
「玄馬。まさか聡に乱入させる気か? 俺は息子を一時的にしろ殺したくはねぇ。」
「大丈夫です。死にませんから。」
 そう言って、新藤は額に手を当てた。
「……?」
 天原は不審に思いつつも動かない。相手の意図がわからないからだ。
「これを使うのは2度目ですよ。」
「何を使う気だ?」
 天原の問いに、何故か新藤は笑って答えた。
「ズルです。」
 新藤が額に当てた手に魔力を込めると、その僅かな魔力に反応し力が目覚めた。同時に、空気が揺れた――そう思いたくなるほどの、爆発的な魔力が弾けた。
「そいつは?」
 問いながらも、天原は初めて汗が頬を伝わった。この魔力は、互角?
 天原の魔力はすでにこの世界にはない技法で爆発的に増えている。なのに、それに匹敵する程の『力』がある。
「これは、私の父である男が残したものです。父は違う世界の住人で、偶然こちらに来たと言っていました。」
「違う世界の……?」
「ええ。父は私に少しばかりの知識と戦闘能力、それにこの魔力を与え、灰となって消えてしまいました。会ったのはマスターと別れた直後です。」
 新藤の額には緑色に輝くアザがある。それこそが、新藤が手にした時より封印していた“力”。
「父は私に力を渡す直前に言いました。これは、必要になるまで封印しておけと。私はそのもの自体の魔力を使ってこれを封印しました。戦いで使うのは初めてですよ。」
「嘘じゃあねぇ、な。」
 天原は初めて自ら構えた。手に魔力を押し固めた雷槍が握られる。
 新藤も手を前に出し、炎の剣を握り締めた。
「いくぜ。玄馬。」
「お手柔らかに。」



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