■ナイトの崩壊

「終わりですッ!」
 秀一の太刀が高く振り上げられ、振り下ろされる。その、直前。
「黒鬼! 護って!」
 茜の懐から紙切れが飛び出し、それはそのまま新藤の黒鬼となる。そして、黒鬼の持つ剣が秀一の太刀を受け止めた。
 その隙に茜は下がり、神楽はおまけに魔法矢を放ちながら茜の横に移動した。
「縮地か。意外だったね。」
 もちろん魔法矢なんかで秀一にダメージとなる筈がない。秀一の顔には、本当に驚きはあったが、恐怖はない。
「僕の……いや、ロードの持つペンダントはマスターのお手製でしてね。多少の物理的なダメージは無効化できるんですよ。」
 秀一は自慢げにペンダントをかざしてみせた。
「そーなのー。だったらそっちを先に壊さないといけないわね。茜、よろしく。」
「簡単に言わないで欲しいわね。ま、やるけどね。」
 茜も神楽も、自身の言葉を曲げない。諦めないと言ったから、諦めない。挫けない。だから、強い。
「いちいちイラつかせてくれますね。僕を倒す? 馬鹿らしい。夢はベットの中だけで十分です。あなた方は僕に勝てない。それは運命のようなものですよ。」
「だったら運命をぶち破るだけよ。偉そうな口ばかりきかないでくれる? たかがロードのガキンチョが。」
「数多の死線を潜り抜き、数々の魔法生物を滅したロードに向かってガキンチョですか。本当にあなたは口だけは達者なようだ。」
 秀一は、刀を片手で持ち、顔の横で構える。茜に切っ先を向け、空いてる手をまっすぐ、まるでボウガンの照準のように伸ばした。
「ロードの意味を知っていますか? 神ですよ。僕は魔剣の神。凡人とは格が違う、天下無敵の戦士です。」
 秀一は気付いていない。自ら、自分が強いのではなくロードだから強いと言っている事に。
「馬鹿らしいわね。あんたが天下無敵の神様なら、私は天下無双のお姫様にしようかしら?」
「茜がお姫様? 冷酷非道な鬼の間違いじゃない?」
 茜達は気付いている。だからこそ、減らず口を叩く。それこそが、勝利のための道筋。
「秀一。あなたは強い。なのに、何故ロードにこだわるの?ロードだろうがなかろうが強い事には変わらないのに。何におびえているの? そんなに『ただの如月秀一』に戻る事が怖いわけ?」
 茜の言葉は、秀一の弱点。心の底に常にあるくせに、見て見ぬフリをし続けた想い。
「……うるさい、うるさいうるさい! 僕は僕だ! 『ロード・オブ・ナイト』如月秀一だ!!」
「知ってるわよ。だから、何?」
 アーティファクトとは、心の結晶。折れぬ心が力となり、弱き心によって小枝と化す。
 茜は折れない。神楽も折れない。だけど、秀一は違う。強い心はない。常にロードだから強いと思う事でアーティファクトを使いこなしてきた。だが、茜に言われて秀一は想像してしまった。ロードでない己を。
 想えば現実となる。そして、秀一はもう、想ってしまった。
「いちいちうるさいなッ! さっさと死ね! 僕の前から消え失せろ!!」
 秀一の繰り出す突きを、茜は剣で弾く。秀一はそのまま回転するように斬り込むが、茜もその斬撃を受け止める。同時に黒鬼も斬りかかり、2対1の殺陣が続く。
 徐々に、秀一の刀が、悲鳴を上げ始めた。だが、秀一は気付かない。己に手一杯であるが故に。
「はああああああ!」
 茜の気迫が剣に伝い、秀一の刀を、断ち切る。秀一のアーティファクトはとうとう耐えきれずに、砕け散った。
「なっ!?」
 秀一に次の手を打たれる前に、神楽が動く。
「打ち砕け! 水帝の太刀!!」
 神楽の放つ剣状の水が秀一のペンダントに打ち込まれた。ペンダントは確かに物理的なダメージを防ぐが、魔法は弾けない。
 ペンダントは僅かなヒビを皮切りに砕けた。同時に秀一は吹き飛ばされ、木に叩き付けられる。
「これが現実よ。わかった?」
 茜は前髪を払うような仕草をした。
「嘘だ……。僕はロードだ。それがこんな……! 嘘だッ!」
 グチグチ呟く秀一に、茜と神楽は同時に・・・まさに同時に、拳を叩きこんでいた。
 鼻血を流しながら気絶する秀一を見下ろしながら、神楽は言う。
「茜、私はやっぱりあんたと一緒で良かったわ。」
「そ。ありがと。」
 茜は素っ気ない。だからこそ、はっきり言える。戦いの最中に思い、確かめたかった事実を。
「茜。今度は、ライバルだからね。」
「……何の?」
「聡の事よ。茜も、なんでしょ? 命を懸けるくらいに。」
 茜は、はっと息を飲む。その言葉の意味を、しっかりと吟味する。
「神楽も、好きなのね。」
「そう。いわゆる三角関係ね。」
 くすくすと笑いながら神楽は言う。実際、なんだか楽しかった。
「私は聡が好き。でも、茜も好き。どっちかなんて選べない。茜は選べる?」
 問われ、茜はゆっくり首を横に振る。
「茜、もう一度言うわね。今度は、ライバルだからね。」
「友と書いてライバルと読むって? うっとうしいわね。」
 神楽は、心の底から笑った。
「それでこそ私が好きな宮野茜よ。」



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