■神々の王

 空が炎に光に包まれていく。神の戦いが、終局に近づく。
 新藤と天原が無意識に放つ魔力はそれだけで周囲の生物を気絶させていく。それほどに重く、濃く、強い戦いの意志を持った魔力。聡がこれに耐えられるのは父譲りの魔力という素質のお陰に過ぎない。
「玄馬。何故それ程の力を持ちながら封印する? どうして使わない? お前は俺が望むカタチに最も近い存在のはずだ。だのに、何故、お前はその事実から目を背ける?」
「マスター。分かっているはずです。この力は使うべきものではない。父もそれを知っていた。自らの世界で、自らの行いのせいで多くの人間を殺し、結果、それが“悪”と呼ぶべきものだと知った。悪の定義なんて人それぞれですが、少なくても人を殺して良い事はそうそうありえない。例え生き返るとしても、ですよ。」
「そいつは分からねぇだろ? 生き返るってのは、ちょっとの間だけ眠るってのと変わらねぇ。問題がねぇとは言わないけどな。ま、もう、後戻りは出来ねぇ。今! 止まっちまったら! 全てが……終わっちまうんだよッ!!」
 互いに空気を弾き、距離を詰める。天原が雷槍で薙払うのを、新藤は剣で受け止め銀色の弾頭を散らす。個々に弾頭は爆発するが、そんなものは常に結界を張っている天原にダメージを与えられない。
 天原は煙を吹き散らすと、手の平を新藤の顔面に向かって突き出した。新藤はこれを紙一重でかわし、天原めがけ剣で突きを繰り出す。
「遅ぇ!」
 天原がギリギリかわしたが、新藤はそれを予想し無謀な手を使った。
「戒めよ。焔の精。」
 新藤の握る剣を模した炎が、その形状を変化させ新藤ごと天原を縛るロープになった。
「村野君! 撃ちなさい!」
 続けて新藤は聡に指示を出す。
 確かに聡は呪文を唱え終わっていた。“ルーンヴォルト”。無制限に魔力を消費し、消費した魔力に応じて威力を上昇させる雷系魔法である。
「先生はッ!?」
「構わず撃ちなさい!」
 新藤の言葉を耳にし、天原は驚きを声にした。
「玄馬……まさか、死ぬ気か? 確かに聡の魔力じゃあ無理だろうが……。」
 聡の魔力は高いが、それは平均値よりは、である。天原や新藤に決定打を与える程ではない。
「甘いですよ。」
 新藤が口の中で呪文を唱えると、新藤の身体が淡い青色の光に包まれた。同時に聡の身体に力がみなぎる。
「ちッ! 魔力供給、かッ!」
 ――これは流石にまずい!
 新藤の残る魔力をそのまま聡に受け渡す魔力供給ならば、新藤と聡の魔力を併せただけの威力がある。それほどの威力ならば、天原が全力で防御結界を張ろうと防ぎきれるレベルではない。
「マスター、私と共に地獄へ参りましょう。地獄の先にこそ、飛鳥さんは待っています。」
 戒めは解けない。天原が全力を注いでも、全身を縛る炎が外れない。
 ――くそ! こんなところで! 退けよ、消えろよ! あいつに会うためには、これしかねぇんだ! これが今の俺の全てだっていうのに!!
「わかった。行くぜぇ! 先生ぇ!!」
 聡は解き放つ。己が全てを込めた一撃を。勝つために。止めるために。想いに報いるために。
 聡の全てを込めた一撃が、新藤もろとも天原を飲み込んだ。

 飛鳥さん、すみません。あなたとの約束はどちらも守れませんよ。
 私にはマスターを立ち直らせる事が出来ませんでした。私の声は届かないと言えば聞こえはいいでしょうね。ですが実態は、私がマスターを守ろうとする意思があまりに薄弱だったからに過ぎない。
 それと……やはり私は、人を愛せません。私の手はすでに血にまみれている。母を、友人を、村に生きる全ての者を、私は殺してしまった。だからもう、私に愛される資格も愛する資格もないんです。
 いや。少し違うかもしれませんね。私はただ怯えていただけかもしれない。失う事を。別れる事を。あなたがいなくなってしまったように。私が皆を殺してしまったように。学園に私が受け入れられる事がなかったように。
 聡君。君は、強いですね。私も君のように……なりたかったのかもしれませんねぇ。もっとも、もう遅すぎますが。
 もしも生まれ変われるのならば、今度こそ普通の生活を楽しみたいものです。
 これで全てを、終わらせましょう。地獄の苦しみ。共に味わいましょうか?



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