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出頭命令に応じ、マリーは警邏隊の詰め所にやって来た。 聴取室にはフォスターとノークス少尉。フォスターは壁際に立ち、ノークス少尉の聴取を見守ることにした。 「マリーさん。お話を聞かせてもらいます」 「はい」 「今朝、コボリア工房の経営者であるコボリア・サリアール氏が何者かに殺害されました。この事実はご存知でしたか?」 「いえ……。コボリアさんのところが騒がしいな、とは思っていましたけど」 「コボリア工房はあなたの家から歩いて5分ほど。当然、存在はご存知でしたよね?」 「はい。コボリアさんとも面識があります。工房通りの職人は、会合があって。そこでお会いしました」 「なるほど。では率直にお聞きしますが、事件について何かご存知ですか?」 「いいえ。コボリアさんが亡くなったということも、今知ったくらいですから」 「そのわりに驚いている様子がないようですが」 はっ、と魔女は息をのんだ。そして、ほう、と息を吐く。 「正直、ほっとしてしまった面はあります」 「ほっとする?」 「これを言うと私がやったと思われるかもしれませんが、どうせわかることですし……。コボリアさんも魔女嫌いでした」 「ほう。それは会合で何か?」 「ええ。先生ほどではありませんでしたが、やはり魔法という存在は気に入らないとか」 「なるほど。ですが、殺すほど憎んではいないと?」 「当然です」 「……。では、別の質問です。あなたはあの貸し工房を使用したことはありますか?」 「いいえ。自分の工房が歩いて5分のところにあるのに、わざわざ工房を借りたりしません」 「道理ですね。では、あの工房に特徴的な剣が飾られていることはご存知ですか?」 「それは、職人仲間から聞いたことがあります。剣の他にも、槍とか斧とかも変な形をしているって。聞くところによると、コボリアさんの自作らしいですが」 「コボリア氏は、その剣で刺殺されたものと見られています。ところが、凶器である剣はいまだに発見されていません。お心当たりは?」 「ありませんよ」 「ふむ」 動機あり。だが、肝心の凶器消失については、なんとも言えない。 魔女が魔法を使って犯罪行為をしたとしても、魔女ではないノークス少尉には証明しようがないのだ。 「では、私から最後に。昨晩から今朝までの行動についてお聞かせ下さい」 「昨日は家に帰ってから少し仕事をしていたら、食料庫に何もないことを思い出しました。それで遅くまでやっている商店で食材を買って、戻って食事をした後に寝ました。起きたのは朝、外が騒がしくなってからです」 「商店で食材を買った後、どなたかと会いましたか」 「一人でした」 「なるほど、わかりました。私からは結構です。アリオスト少尉は?」 「……少しだけ」 フォスターは壁から背中を剥がすと、ノークス少尉と場所を変わる。 「マリーさん。工房通りの職人に、亜人は多いですか?」 「え?」 予想外の質問だったのだろう、マリーは目をぱちぱちとさせながら、 「えっと、そうですね。他の通りよりは多いと思います。特にコボルトやドワーフの人は力があるので、鍛造職人に多いような」 「なるほど。お知り合いも?」 「ええ。特に意識したことはありませんけど、そういえば、コボルトの知り合いは多い気がします」 「ありがとうございました。結構です」 「は? はあ」 席を立つフォスターを、二人の女が不思議そうに見ていた。 ★ ☆ ☆ ☆ ★ マリーを帰した後、フォスターとノークス少尉は、もう一度現場を確認することにした。 工房まで歩く道すがら、ノークス少尉はフォスターに聞く。 「アリオスト少尉。先ほどの聴取ですが」 「ああ」 「最後の質問はどういう意図が? 今回の事件に亜人が関わっているとでも?」 「いや。特に意味はない」 「……はぁ!?」 「そう猛るなノークス少尉。意味のある質問しかしないと、聴取はこちらの意図が気取られるぞ」 「だからって無意味な質問をしてどうするんですか」 「無意味だが無意図ではないってことだ。それにほら、マリーさんが言ってただろう。ここの通りは比較的コボルトが多い」 確かに、通りを見ても歩いているのは人間よりコボルトだ。ドワーフなどもちらほらいるが、他の通りとは明らかに毛色が違う。 「コボルトは人間より数が少ない分、お互いの交流が多い。コボルト同士の会合があるはずだ。ここならコボルトの数も多いし、コボルト鍛冶屋の会合なんてものもあるはず。そこなら情報が集めやすい」 「それは、そうかもしれませんが」 「それに、もうひとつ気にかかることがある。被害者のことだ」 「被害者?」 「ああ。凶器が消えた事実も問題だが、そこは糸口がないから仮置きするとして。被害者はコボルト、人間より比較的力が強い種族だ。その被害者が、胸を一突きにされている。反撃しなかったのか?」 「それは……」 「可能性は2つ。1、被害者は殺される時、意識がなかった。2、被害者は犯人がまさか自分を殺すなんて思ってもみなかった」 「つまり、被害者と犯人は顔見知りだと?」 「それだけじゃない。自分を殺すとは思ってもみない相手ということだ。魔女を毛嫌いしている人物が魔女と二人きりという状況も疑問が残るが、それ以上に、剣を持った魔女なんて不審人物以外の何者でもない。そんな相手に、被害者は油断したんだろうか?」 「……それは」 「もちろん、被害者が薬か何かを飲まされて意識を失っていたなら分からないでもない。それでも、魔女を嫌っている者が、魔女から貰った飲食物を口にするとは考えにくい。そうでなくても、自分の工房で相手にお茶を淹れさせる奴もいないだろう」 「それは確かに」 「つまり、被害者は顔見知りに殺されたんだ。それも、剣を持っていても自分を殺すとは思わないような相手に」 「どういう関係でしょう」 「それを捜査するのが俺たちの仕事だよ」 |