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国内にいる魔女は数が限られている。 フォスターとノークス少尉は、そんな魔女たちに順々に会って行くことにした。乗り合い馬車に揺られながら、一人ずつ、過去にあったらしい軍務研究所での何かについて、心当たりを聞いてまわる。 その話が聞けたのは、三人目の魔女からだった。 「あー、ちょっと聞いたことあるかも」 そう答えたのは、30そこそこの魔女だった。肉感的な女性で、不必要に胸元を強調するドレスを着ている。 場所は彼女の自宅近くの喫茶店。テラス席で、三人はテーブルを囲んでいた。 魔女は唇に指を乗せながら答える。 「あたしじゃないんだけど、魔女で、軍の研究に協力している人がいるって噂は聞いたことあるなぁ」 「どういう噂でした?」 「んーとね」 魔女はテーブルに置かれた紅茶を一口。 「そもそもね。魔女同士って、ちょっとした繋がりがあるの。というか、魔女同士でしか繋がりにくいって言うか。やっぱり普通の人と魔女って違うものね」 「違う?」 「それはそうよ。コボルトやドワーフだって、精霊と会話できるわけじゃない。そういう意味で、魔女ってすごく特別で、まあ友達なんて作りにくいわけよ」 「ええ」 「あたしも友達は少ない方だし、懇意にしているのは2、3人の魔女だけ。あとは偏見の少ないドワーフくらいかな。魔女ってみんなそういう感じで、知り合いが少ないから、情報も少ないんだけどねぇ」 紅茶で口を湿らせ、続ける。 「そういう経緯で、しかも伝聞で聞いたから、ちょっとうろ覚えなんだけどね。軍の研究施設って、それなりに資金があって、実用性の低い研究とかもさせてくれるの。だから、理想のある魔女なんかはそういうところで研究したがるのね。で、若い魔女がそこで協力して、誰かを殺しちゃったとかなんとか」 「殺した?」 「危険性の高い魔法ってのはいくつもあるし、魔女しか使わないような薬品の中には劇薬もあるわ。だから、そういう事故そのものは十分に起こりえる。ただ、その時に亡くなった人が、ちょっと偉い人の子供だったらしくてね? それで結構、責任問題になったって聞いたかな」 「魔女の研究そのものは、それほど危険なんですか?」 「それは研究内容によるとしか。ただ、軍の施設で研究するような内容なら、多少なりとも危険性はあるでしょうね。で、そこで事故が起きれば、まあ労災は発生する。その結果で死亡事故になるかどうかは運次第だけど」 「運次第とまで……」 「しょうがないじゃない。もともと、魔法はあたしたち魔女だけの特権よ。精霊は、魔女を認めてくれているから力を貸してくれるの。魔女ではない人間に魔法を、それも攻撃するための魔法なんかを使えるようにさせるには、相応の危険が伴うわ」 たとえば、と魔女は続ける。 「あなたたち警邏隊が持っている風の魔法を付与した剣。それも最初に作った時は出力の調整に苦労したらしくて、建物の崩壊とかも起きたらしいわ。その時は死人が出なかったらしいけど、建物の崩落に巻き込まれれば人は死ぬ。魔法ってそういうものよ」 「……なるほど」 確かに、現行の魔法剣でさえ、扉を容易に破壊できる程度の力は出せる。調整をミスれば、壁や柱だって破壊できてしまうだろう。 「魔法は、その気になればなんでも可能だと言われている。魔法で不可能なことはない、なんて言われていてね。ただ、それは魔女がやればの話よ」 「一般人では難しい、と」 「そういうこと。それに、軍の研究所って焦っていたらしいしね」 「焦り?」 「ほら、今は戦争もないし、魔物もほとんどいないでしょ? 新しい武器なんて必要な状況じゃない。だから、研究施設そのものが不要なんじゃないか、って議論はあったらしいわ。だから、わかりやすい成果が欲しくて、無理をしたのかもしれないわね」 「……ありがとうございます。参考にします」 「いいのいいの。無料でお茶させてもらったしね。ここのお茶、美味しいんだけど、自分で払うにはちょっと高いのよねぇ」 そう言って、魔女は紅茶を楽しんでいた。 ★ ☆ ☆ ☆ ★ 魔女から話を聞き出せたフォスターとノークス少尉は、街道を歩いていた。 そこは道の左右に樹木が植えられた並木道で、近隣の住人は散歩コースにしているという。すでに日差しは強くなり、半袖でも暑いくらいの気候ではあるが、並木のおかげで少しだけ過ごしやすい。 「……軍の研究施設が無茶をしていた、ということでしょうか」 「可能性は確かにあるな。魔女の言う通り、現行は兵器が必要な状況じゃない。研究施設を維持してまで、新しい武器を作る必要はないかもしれない」 「それで成果を焦って、無理な実験をした結果、誰かが死亡したーー」 「しかもそいつが、どっかのお偉いさんの子供とかになれば、問題は大きくなる」 「その誰かが研究所を潰した、ということですね」 「そうだ。そして、軍は研究所を潰した経緯を意図的に隠した。おそらくは、高官の子供を殺したという事実を隠したがったんだ」 「ですが、そのお偉いさんは、そんなこと許すでしょうか? 本来なら、軍そのものの責任を問うのでは」 「王族ならそうだろうさ。けど、死んだのが軍の上層関係者だったらどうだ」 「……なるほど。責任を追求すれば自分のところに跳ね返ってくる。そんな危険な研究をする施設を野放しにしていたのか、と。かといって、子供を殺した部署を存続させるのは我慢がならない」 「もともと不要論があったくらいの施設だ。潰すのはわけなかっただろう。それに、実際に危険な研究をする施設を閉鎖したかった可能性もある」 「高官の子供なら、調べれば出そうですね。ここ数年で家族を失った高官なんて数が限られます」 「そっちはノークス少尉に任せる」 「アリオスト少尉は?」 「俺は第二の事件を調べ直す。絶対に、凶器を消す方法があったんだ」 「わかりました。お任せください」 「ああ」 パン、と手を重ね、二人は丁字路を二手に別れた。 ★ ☆ ☆ ☆ ★ 第二の事件。その事件現場は、今もそのままになっていた。 さすがに遺体はないが、貸し工房の一室は閉鎖されたまま。経営は残った従業員で続けているそうだが、さすがに死体が転がっていた部屋を貸し出すわけにはいかないそうだ。 もっとも、死人が出た工房とあって、人気は低迷しているという。今日もフォスター以外に部屋を使っている人間はいなかった。 静かな工房で、フォスターは室内を見渡す。 「……凶器があったのは、ここ」 壁には剣をかけられるようなフックがある。ここに、木の鞘に収めた剣が飾られていたはずなのだ。 次に目を向けたのは、窯。本来ならばここでぼうぼうと火を燃やし、その熱で鉄を柔らかくして加工する。仮に凶器の剣であったとしても、加工は可能だっただろう。 問題は、事件当日、ここに火を入れた形跡がないということ。 「検知装置は、これか」 窯の中を覗き込むと、煤にまみれ、炎を検知できる回路があった。魔法の刻印が成された金属板で、熱に耐える魔法と炎に反応する魔法が同時に組み込まれている。 ここで炎を検知すると、通信機の要領で、警備室にまで情報が行くという仕組みだ。 「この装置をごまかしながら窯を使った……?」 火の精霊に呼びかける刻印。たとえば、この刻印を壊してしまえば、検知される恐れはない。 「……いや、違うな」 窯で火を使えば、そもそもかなりの高熱になる。それは、火を消してもすぐに冷めるものではない。窯そのものは石で作られており、石にこもった熱はそうそう消えてなくなるものではないからだ。 となると、本当に窯は使っていないのか。 「だが、窯を使わず、金属の固まりを持ち出すなんて……」 剣そのものを持ち出すことは、何もおかしくない。自分で作った剣であれば、だが。 だが、明らかに形状が異なる剣。備品であることは明らかだ。 この工房は、過去の盗難事件を契機に、備品の流出についてはかなり厳密にチェックをしている。その監視網を抜けて出るのは、なかなかに困難だ。 「難しいな……」 たとえば剣を破壊し、粉々の金属片にできれば、持ち出せたかもしれない。だが、窯を使わずにそれができない。さすがにハンマーだけで剣を壊すのは無理だろう。 「……」 煮詰まったフォスターは、隣の部屋を見てみることにした。 そこは斧の工房だった。ここも今日は使っておらず、窯に火が入っているわけでもないので、しんとしている。 フォスターは壁にかけられた斧を手に取ってみた。木製のカバーを取り外すと、特徴的な斧のフォルムが覗く。 円月状の形。果たして、突き刺す方向に手斧の刃が必要な理由はよくわからないが、まあ装飾なのだからそれでいいのだろう。 じっ、と刃を見つめていたフォスターは、 「……そういえば」 ふと、柄を見た。 第三の事件。凶器に使用された被害者のナイフは、被害者の名前が刻印されていた。そのせいか、ここの柄が少し気になったのだ。 「ふうん」 握りは、ごく普通の木だった。刃は特徴的だが、柄に特徴はない。普通の木棒に、金属の刃が鋲で留められている。 その鋲を見ていたフォスターは、 「あ……」 慌てて、壁を見直した。そこに鞘を戻す。 「そう、か。そういうことか」 だから、犯人はわざわざ人目につく恐れのある、この工房で被害者を殺した。他の場所では駄目だったのだ。 この場所だからこそ、不可能犯罪を成し遂げることができた。 「……あとは、証拠を見つけるだけだ」 |