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マリーを帰した後、二人は詰め所に戻っていた。 「……」 お茶を飲むフォスターの隣で、ノークス少尉はため息をつく。 「まさか、強姦なんて。研究所の職員は軍人ですよ?」 「軍人だって人間さ。悪い奴はいる」 「ですけど!」 「まあ落ち着け。仮に殺された三人がその強姦事件に関わっていたとして、最大の動機を持つのは誰だと思う?」 「そんなの当然、マリーさんです。姉を辱められたうえ、殺されたわけですから」 「そう、当然そう考えるな。だがマリーが犯人でないとすると、次の容疑者は誰だ?」 「それは……。当時の事件で、魔女の暴走に巻き込まれて亡くなった人がいますから、その関係者?」 「そうだ。大佐をはじめとする当夜の事故に巻き込まれた人間の関係者。それは動機を持ちうる」 「まさか大佐が」 「それはないだろう。というか、大佐は恨む筋合いはないんじゃないかと見ている」 「……?」 「いいか。魔女を犯すといっても、研究所だぞ。しかも警備員であったコボリアまで巻き込んでいる。ただの研究員に過ぎないテディや、小心者のリトにそんな度胸や才覚があったのか?」 「それってまさか」 「俺は、大佐の息子が主犯だったんじゃないかと見ている。相当などら息子ってお前が調べてきたんだろ? そいつが犯罪行為をして、その時に魔女が暴走した。結果、魔女当人に加え、最も近くにいた大佐の息子も死亡した」 ティーカップを置き、フォスターは続ける。 「当時、研究所は存続について風当たりが強かったと予想される。兵器を作らなきゃいけない時代じゃないからな。その中じゃ、どら息子もストレスがたまるような日常はあったかもしれない。結果、目についた女を強姦した」 「最低ですね」 「俺に言われてもな。さておき、大佐の息子が魔女を強姦したとなれば、当然世間体が問題になる。その事実を隠蔽したくて、大佐は研究所を潰したんじゃないか? 事件の関係者はそれなりに金を掴ませたり、新しい仕事を斡旋したりして口を封じた。殺された三人は、大佐の手足になって隠蔽工作に動いた人間じゃないのか」 「……じゃあ、誰が」 「俺が気になるのは、事故に巻き込まれたもう一人の被害者だ」 「もう一人の被害者?」 「事故で亡くなったのは二人。一人は大佐の息子だろうが、大佐が事件を起こすとも思えないし、そもそも原因となったのは大佐の息子自身だ。だが、巻き込まれた被害者は? そいつにとっては、もちろん原因を作った大佐の息子や、事実を隠蔽した三人組も恨めしいだろう。だが、そもそも殺した魔女自身にだって、良い感情は抱かないだろう」 「それは逆恨みです。正当防衛で巻き添えを喰らった、それだけなんですから」 「理屈はそうだが、感情はどうだろうな。家族を奪われて、実際に手を下したのは魔女。言い換えれば魔法という概念だ。魔法そのものに嫌悪感を抱くんじゃないか?」 「……それは。仮にそうだとして、事件と関係が?」 「今回の事件、犯人はやたらと魔女が犯人であるかのように喧伝している。それは、魔女、ひいては魔法というものに対して否定したいからじゃないのか? 今回の事件がこのまま公になれば、魔法に対する規制は厳しくなるだろう。それを狙っているんじゃ?」 「なるほど……。確かに、魔法を使えば犯罪が可能となれば、魔法そのものに対する使用制限は、今よりも厳しくなることが予想されますね」 「それが犯人の狙いなら、このまま事件を閉じるのは絶対にまずい。犯人の思う壷だ」 「当然、そんなつもりなどないでしょう」 「当たり前だ。俺の考えが正しければ、第一の事件も第二の事件も、誰にでも犯行は可能だった」 「……? 第二の事件も?」 「ああ、お前には言っていなかったな。第二の事件、細工は想像ができた」 「ッ!? どうやって!?」 フォスターは、第二の事件におけるトリックについて、推理を聞かせた。内容を聞いたノークス少尉は、 「なるほど……。その手なら、確かに凶器を消すことができる」 「そうだ。犯人は凶器を消すことで不可能犯罪を演出している。魔女が犯人なら、そんな方法を演出する必要はまったくない。これは第一の事件でもさんざん言っていることだ」 「なら、犯人は……」 「それはこれから調べる。お前は、もう一人の被害者について追求してくれ。おそらくは、その中にーー軍学校の関係者がいる」 「学校の関係者? なぜです」 「第二の事件は誰でも入れる商業施設、第三の事件は路上で起きている。だが、第一の事件はどこだ?」 「それは……。軍務学校の倉庫です」 「そうだ。もちろん軍務学校の倉庫だって誰でも侵入は可能だった。だが、第一の事件における細工を考えれば、他の場所でもよかったはずなんだ。極論、被害者の自宅で殺した方が面倒はなかった」 「まあ、目撃される可能性は低くなりますね」 「そうだ。軍学校に関係する人間だって、必要がない場所をうろちょろしていれば絶対に目立つし、そもそも学校は街中よりも人の密集率が高くて目撃される危険が高い場所だ。だが、犯人はわざわざ、そんな場所で人を殺している」 「それはそうですが」 「俺は、第一の事件は、何も計画性のない……。言い換えれば、とっさに殺してしまっただけなんだと推理している」 「以前も言っていましたね」 「そうだ。だからこそ凶器はその場にあった工具箱から取り出した。他に凶器を持っていなかったんだ。きっと犯人は焦ったことだろう、このまま自体が公になれば、自分は軍人という身分を剥奪されるだけでなく、懲役はまぬがれない」 「そうか……。魔女のせいにすることで、それまで良い感情を持っていなかった魔法そのものに反感を植付けられますし、犯行も他人になすりつけることができる」 「おそらく、犯人にとってマリーだけが当日の不在証明をできなかったのは誤算だったんだ。もっと多くの魔女が不在証明を持っておらず、容疑者が絞れない。そんな状況を望んでいたんじゃないか」 「ですが、そうはならなかった」 「結果的にマリーが容疑者としてあがっている状況ができたから、目標は達成できているがな。そして、そこで犯人は味を占めたんだ。一人を殺し、魔女のせいにすることで、憎い軍務研究所の関係者を一掃する機会を得た」 「だから、第二の事件や第三の事件に及んだ……」 「可能性は高いんじゃないか。だから、俺は軍務学校の関係者に犯人がいると見ている。もっと言えば、容疑者も想像している」 「誰です?」 フォスターが名前をあげると、ノークス少尉は息を飲んだ。 「……まさか」 「だが、一番可能性が高いんだ。ノークス少尉なら、隠れた関係性も見つけられるだろう」 「わかりました。研究所の被害者というだけでは隠されてしまうかもしれませんが、特定の人物と関係しているとなれば、がぜん調べやすくなります」 「頼むぞ。俺はその間に、証拠を見つける」 「証拠?」 「俺の推理が正しかったとしても、それは誰でも犯行が可能であったという証明にしかならない。実際に犯罪を行った証明をするには、物的証拠が必要だ。貴族院の連中に問答させないような、しっかりした証拠がな」 「わかりました」 「適材適所だ。犯人、捕まえるぞ」 「はいっ! アリオスト少尉!」 |