黒崎、アンナ、ブレン、ライル、そしてミレイ。
 五人(と呼ぶのか微妙だが)で作られたレギオンは、少人数ではあるが、それだけにきっちり役割分担ができていた。
 収入源となるゴーレム狩りは、ライルとミレイの役目。それを、ブレンがサポートする。二人の戦闘力はまさに破格で、ゴーレムなど一瞬でちり芥となっていく。
 本来ならサポートはアンナか黒崎がベストなのだろうが、いかんせん、危険がないわけではない地下迷宮。最低限度の戦闘力もない黒崎では、やはり危険が伴うが――ブレンならば、その心配はない。専用の背負い籠(体の脇で支えるタイプ)を作ってもらったブレンは、口で石を加え、うまいこと放り込むことができる。
 一方で、家庭内の細々した雑事は、アンナの役目。家庭的な彼女は、炊事も掃除もお手の物だ。しかもミレイが人間の生活を学習がてら手伝うので、他の手はいらない。
 そうなると、黒崎の役目は。
「……やることが、ない」
 家の雑事は事足りる。戦闘では無力。
 もともと、たいして何ができるわけでもない黒崎。雑事とサポートをやらないと、本当にできることがない自分。
 その、今さらな事実に落ち込みつつも、だからといって、本当に何もやらないわけにはいかない。
 ということで、黒崎はスーパーへの買い出しを担当することにしていた。
 アンナやライルもスーパーのシステムは理解しているようだったが、いかんせん、慣れていない。その点、日本生まれ日本育ちの黒崎ならば、こういう商品を会計するというシステムにも十分慣れている。
 今日も今日とて、スーパーで日用品の買い出しを終えた黒崎は、両手に荷物を抱え、店を出た。
 と、そこに、何やら赤っぽい一団がいた。
「鬼……」
 そう、どう見ても赤鬼だ。
 筋骨隆々とした上半身はやけに大きく、腰にはトラ柄の布を巻いている。頭には立派な二本の角。さすがに金棒は持っていないようだったが、誰がどう見ても、ごく一般的に想像できる赤鬼だ。こんな存在までいたのか。
 その赤鬼が三人ばかり集まって、何やら通夜のような、悲しげな顔をしていた。
 鬼でも悲しむのだ、などと考えつつ、黒崎は三人の様子を見ていた。
 すると、その視線に気づいたのか、鬼の一人が顔をあげる。
「……? なんだい、君は」
「あ、いえ。通りすがりです」
「そうか。そうだ、君、ひとつ聞いてもいいか」
「なんでしょう」
「ぴよぴよとはどこで買える!?」
「ぴよぴよとは」
 いきなり暗号めいたことを聞かれても。
 というか、自分と鬼たちでは住んでいた世界が違うので、意思の疎通ができていないのでは。そんなことを思うが、
「ぴよぴよとはあれだ、ほら、テレビでピコピコやる!」
「もしかして、ゲームソフトのぴよぴよですか? パズルゲームの」
「そう、それだ!!」
 ……鬼もゲームなんかするんだ。
 というか、あのごつい手で、コントローラー握れるのか。
 まあ、それはさておき。
「ゲームなら、このスーパーでも少しは売っていましたが」
「それを買っていったら怒られたのだ!!」
「ああ」
 確かにこのスーパー、品ぞろえは凄いが、ゲームに関しては、少し古い感じを受けていた。一般受け、とでも言えばいいのか。大作RPGなんかは最新作があるものの、そうではないゲームは、廉価版が主だった。
 ということは、ぴよぴよの最新作が欲しいのだろう。ゲーム雑誌で記憶が正しければ、ちょうど先月位に新作が発売していたはず。
「それならば、専門店で」
「あるのか!? すまない、案内を頼めぬか!?」
「構いませんが」
 頷く黒崎に、鬼たちは歓喜の声をあげた。

◇ ◇ ◇


 通りすがりに、ゲームショップがあることは知っていた。
 日本でも数年前まではよくあった、古き良きゲームショップ。棚にはソフトが並び、隅のガラスケースでは本体の見本が置かれ、さらにはテストプレイできるスペースまである。
 そんなゲームショップを訪れた黒崎と鬼たちは、
「ああ、これだ」
 一本のゲームソフトを手にしていた。
 ぴよぴよ最新作。今までのゲームシステムに加え、オンラインで対戦できるシステムを搭載。しかもCPU戦もやたら強いモードが追加され、一部ファンからは『あれは鬼でも勝てねえ』と評判になっていた。
 それを購入した鬼たちは、
「ありがとう、ありがとう! これで生きて帰れる!」
 涙ながらに喜んでいた。だが、黒崎には、むしろ新たな疑問が生まれていた。
「いえ、たいしたことでは。それより……、そのゲーム。地球の、日本という地域でしか売っていないゲームだったはずですが」
 確かに、どんな世界の文化でも取り入れているこの空間ならば、日本のゲームが売っていてもおかしくはないかもしれない。だが、明らかに異界の住人である鬼たちが、ゲームをやるというのは、よくよく考えればおかしなことではないか。
 そう思って黒崎が首をかしげると、
「ああ、それならば。我らが住まう地獄というのは、君たちの住む地球と繋がっているんだ。だから、君たちの世界のものではこちらでも入手できた。中には、わざわざ地球に行く鬼もいたくらいだ」
「そう、でしたか」
「ああ。私は詳しくないんだが、そう、夏の……、なんとかいうイベント。そこならば鬼の姿でも参加できると、喜んで行く者がいたな」
「……」
 まさか、有明に本物の鬼がいたのだろうか。
「そうだ、君にお礼もしたい。我々の屋敷に来ないか?」
「……いえ。それは、またの機会に」
 手にはまだ日用品を持っている。そもそも、自分は買い物帰りだ。あまり遅くなれば、アンナも心配するだろう。
 だが鬼たちは、
「そう遠慮するな! さあ、こっちさ!」
「あ、ちょっと……」
 鬼の力は強かった。
 それは、当たり前のことなのかもしれないが。