スーパーマーケットがあるのはラッキーだった。
 ライルやアンナは慣れていないようだったが、商品を選択し、会計するというシステムは理解してくれたようだった。
 黒崎は、スーパーで商品を選んでいく。
 じゃがいも。にんじん。たまねぎ。厳密には何やら違う名前が書いてあったが、見た目が似ているし、まあ同じようなものだろう。
 それに食器の類。鍋。包丁。おたま。皿。スプーン。
 広大な敷地を持つスーパーでは、欲しいものがなんでも選べた。中には薬草とかハイポーションとかも売っていて心をくすぐられるが、今の自分に必要なものは、そういうものではない。
 それと、肝要なのはスパイス。香りを確かめ、それっぽいスパイスをチョイスし、レジへ。支払いを済ませ、帰路につく。
 自宅には、狭いながらもキッチンがあった。
 素直についてきたアンドロイドの少女も合わせ、みんなで炊事をする。それが少し不思議だ。
「まずは、野菜の皮を剥く」
「皮むきでありますか」
 アンドロイドの少女は手を伸ばす。と、手首のあたりがカチンと鳴り、ナイフが飛び出した。
 左手で持ったにんじんをナイフに近づけると、いきなり手が回転し出した。さらさら、とにんじんの表面がナイフで削がれ、見事に皮が剥かれる。
「これでよろしいでしょうか」
「……やり方は、ともかく。結果は、合っている」
 人間にはできない方法だが、それはさておき。
 じゃがいも、たまねぎと皮を剥き、じゃがいもは乱切りに。にんじんも同じく。たまねぎは輪切りにし、鍋に放り込む。
 具材を炒めたら今度は水を足す。
「火にかけながら……、あくを取る」
「邪悪か!?」
「その悪じゃない、灰汁だ」
「邪悪じゃないのか……」
「なんで残念そうなんだ」
 鍋は火にかけたまま、次の作業に。
 小さい鍋にスパイスを数種類放り込んで炒める。程よく混ぜ合わせたら、粉末状の小麦も混ぜていく。
「本当なら、スパイスは先に炒めたほうがいいんだが。これは香りが強いから、たぶん大丈夫」
「なんだか辛そうな匂いがします!」
「実際、少し辛いと思う。君たちは大丈夫か?」
「私は平気です!」
「俺もだ」
「辛いというのは香辛料でしょうか」
「そうだ」
 冒険主体の勇者はなんでも食べるだろう。ロボットは――味の好みとかあるんだろうか。
 適当に作ったルーに鍋から湯を取って伸ばし、今度は鍋にまるごと戻す。後はゆっくり煮込みながら、調味料を足していくだけだ。
「完成。適当カレー」
 いい加減な手順と食材ではあったが、まあそれっぽいものはできた。
 ライルたちの主食に合わせ、付け合わせはパン。それも割と硬めに焼いた、ビスケットに近いものだ。
 人数分の皿にカレーを盛り、食卓を囲む。今朝より一人増えた部屋は、さらに狭い。
「では、いただきます」
 それぞれの作法にのっとり、食事を始める。
「辛いです!?」
「辛すぎたか?」
「でも美味しいです!」
 幸せそうにするアンナ。その隣ではライルが、
「うむ! スパイシーな野菜の煮込み料理だな。こんなのは魔王討伐の道中でも食べたことがないぞ!」
「日本の料理だからな」
 インドとかだと、もっと違うスパイスとか使ったりするんだろうか。そこまでは、黒崎も知らない。
 そして、アンドロイドの少女は。
「……」
 カレーを一口。驚いたように目を見開く。
「これは、刺激が強いですね」
「大丈夫?」
「問題ありません。美味しいと思います」
「……一応、味もわかるのか」
「肯定です。人間の代わりに毒物検査をすることもありますので」
「まあ、毒は入っていないな」
 食事をしながら、黒崎はアンドロイドの少女を見やる。
「こういうのは、どうだろう」
「こういうの、でありますか?」
「人間と一緒に、料理をしたり、食事をしたり。そういうのが、人間の……、いや。僕の、当たり前の生活なんだ」
 ライルやアンナが視界に入り、黒崎は言い直す。
「平和、という。君の世界では、なかったものかもしれないが。きっと、博士という人たちは……、君に。そんな生活を、望んでいたのではないか、と」
「平和、でありますか」
「そうだ。確かに君は、戦闘が主体の存在なんだろうと思う。銃も、ナイフも、そのためのものだ。だけど、さっき野菜の皮を剥けたように、他の用途もある。誰かを傷つけるためじゃない、誰かと生きるための用途だ」
「……なるほど」
 アンドロイドの少女は、自分の手を見やる。
 誰かを傷つけ、壊すことしかしてこなかった手。
「自分に、そんなことが可能でしょうか」
「君の世界でも……、人間の生活補助をしていたアンドロイドはいたんだろう? ロボットだからといって、人間と生きていけないことはない。君が、そうしたいか、どうかだ」
「自分が、そうしたいか」
「そうだ。君には、ものを考えるAIが備わっている。君は、君の思うがまま、望むがまま、生きていいんだ。望むことは、自分で決める。人間の人生は、そういうものだ」
 望むことは、自分で決める。
 言いながら、何を偉そうなことを、などと思う自分もいる。少なくても、黒崎は、自分で何も決めてこなかった。だから、親にすら見放される存在となったのだ。
 だが。今、自分にも、そしてアンドロイドの彼女にも必要なものとは、そういうものではないのか。
 自分で生きる道を、自分で考え、自分で歩いていくという覚悟。
「……」
 しばし沈黙したロボットは、やがて、黒崎を見やった。
「ひとつ、提案があります」
「何か」
「自分を、あなたのレギオンに加えてもらえませんか」
「……君を?」
 アンドロイドの少女はこくんと頷き、
「あなたの言うこと、意味合いは理解できますが、まだ自分には難易度が高いように思われます。少なくても自分には、望むことがありません。ですが、あなたには未来が見えているように思えます。あなたの見つめる未来、そこに至る過程。そこに、自分の生き様と呼べるものを、見つけられるかもしれません」
「僕の見つめる、未来」
 そんなもの、あるのだろうか。
 頭を振り、黒崎はアンドロイドの少女に手を差し伸べる。
「じゃあ、よろしく頼む」
「了解しました」
 握手を交わす。
 生きる道を重ねること。それも、生きるということだ。
「またレギオンメンバーが増えましたね!」
 喜ぶアンナと、
「これも覇道のひとつだな!」
 何を勘違いしているのかよくわからないライル。
 そんな仲間たちに囲まれ、自然、黒崎の口元も緩む。
「……そういえば、君の名前は」
「名前、といいますか、自分の機体番号は301であります」
「301……、では、ミレイ、というのは」
「ミレイ、でありますか?」
 黒崎は頷き、
「僕の国の言葉だ。301と呼ぶのでは、味気ないから」
「――ミレイ」
 口の中で呟き、アンドロイドの少女――ミレイは、小さく笑った。
「ありがとうございます。ご主人様マイマスター