迷宮を進むと、当然だが、色々なゴーレムが出てきた。
 土で作られたクレイゴーレムは弱く、ライルは一撃、ブレン氏やアンナですら倒せていた。
 鋼で作られたアイアンゴーレムは、ブレン氏の牙ならばなんとか突き立つが、アンナでは無理。ライルはやはり一撃だ。
 金で作られたゴールドゴーレムは、ライルの剣でなければ倒せないが、落ちる魔晶石も特大だった。
 石を拾い集めながら、先へと進んでいく。と、少し先から、ガガガ、と耳障りな音が聞こえてきた。
「なんでしょう、この音」
「たぶん、他の参加者だろう。ゴーレムはああいう音を出さないから」
「なるほど」
 道を進んでいくと、また開けた場所に出た。
 そこでは、白銀色のゴーレムと、一人の少女が対峙していた。
「ミスリルゴーレムだ! あれは強いぞ」
「ミスリル……、あれが」
 先ほどまでのゴーレムより上背は高く、ほとんど天井にこすりそうなほどの巨体だ。腕も太く、黒崎の腰と比べても倍以上はある。たったひとつしかない目が、少女のことを見据えていた。
 対峙している少女は、少し変わった服装だった。近未来的なスーツとでも言えばいいのか、白い色味が肌にぴったりと張りついて、全身を覆っている。ショートヘアから垣間見える金色のまなざしは、無感動にゴーレムを見上げていた。
「大丈夫か、彼女?」
「さあ、お手並み拝見といったところじゃないか? こんなところまで来るんだ、そう弱くもないだろう」
「……それは、そうだろうが」
 黒崎たちが見ている前で、ミスリルゴーレムが動く。
 巨腕を持ち上げ、たかと思いきや、いきなり振り下ろした。一瞬の早業、鈍重な見た目からは想像できないほどの超スピード。
 だが、少女の方も相当だった。ゴーレムの腕をかいくぐると、懐に飛び込む。
 腕を振り上げ。
「ファイア」
 ガガガガガ、と耳を突き刺すような轟音が響く。少女の腕から火花が飛び散り、ゴーレムの腹部がへこんだ。
「なっ!?」
「な、なんでしょう、あれ!?」
 頭の上の耳をぺたんとさせながら、アンナがおびえる。
 だが、無理もない。野山を駆け巡っていたアンナや、剣で戦っていた勇者のライルでは、あれを見たことがなくて当然だ。
「銃器……? そういう世界から来たのか」
 ファンタジーな外見の人たちばかりだったから思慮の外だったが、よくよく考えてみれば、自分の世界には銃も大砲もあるのだ。そういう世界から来た人など、いくらでもいるだろう。
 とはいえ、不思議に見えるのは――少女の手に銃器がないことだ。あれではまるで、腕から銃弾を放っているような。
 銃弾の乱打でよろめいたゴーレム。少女はその腕をつかむと、思い切り引き寄せる。
 バランスを崩されたゴーレムは、壁や天井をこすりながら、倒れ伏した。土煙が舞い上がるなか、少女は足をゴーレムに乗せる。
「――」
 バキン、と音が響いた。見れば、ゴーレムの腕、その根本が踏み抜かれ、へし折られている。
「なんて……、馬鹿力だ」
 驚くライルだったが、少女は止まらない。
 へし折った腕を持ち上げ、それでゴーレムをぶん殴る。単眼の頭がひしゃげ、どこを見ているかもわからなくなった。
「おしまいです」
 ひしゃげた頭。その隙間に、少女は腕を突っ込む。そして、
「ッ!!」
 また轟音。乱射によって体の中をめちゃくちゃにされたゴーレムは、動作を停止した。
 動きを止めたゴーレムをしばし眺めていた少女は、いきなりこちらを向く。
「何か」
「あ、いや」
 しどろもどろになるライル。黒崎はそんな少女を見返し、
「君は……、銃を?」
「銃を持っているか、というご質問でよろしいでしょうか」
 黒崎が頷くと、少女も頷き返す。
「肯定です。より正確には、自分の中に内蔵されております」
「内蔵? ……君は、いったい」
 黒崎の問いかけに、少女は小首をかしげて返す。
「何かおかしかったでしょうか。自分はエイヴィールシリーズ301号機であります」
「301号……、機? 機械、なのか? 君は?」
「ああ、はい。自分は戦闘用アンドロイドであります」
 そう言って、少女は頷いてみせた。

◇ ◇ ◇


 地下迷宮を脱出し、黒崎たちは近くにある喫茶店へとやって来た。
 今さら知ったことだったが、紅茶が銅貨5枚。日本で言えば、銅貨一枚で百円といったところだろうか。
 ライルの金貨で四人分の紅茶を頼み、席に着く。落ち着いた雰囲気の店内は、外の喧騒と離れているおかげで、話もしやすい。
 黒崎とアンナが並んで座り、対面にライルとアンドロイドの少女が座る。
「……今さらだけど。紅茶は飲める、だろうか」
「問題ありません。自分は人間と同等の食事を行い、そこからエネルギーを摂取することが可能なように作られております」
「そう」
 それは便利だ。
 まじまじと、アンドロイドを名乗る少女を観察する。
 見た目には、普通の人間とあまり変わりはなかった。服は肌に密着したスーツだと思っていたが、よくよく見れば、そういう肌質らしい。頭に乗せている髪飾りも、よくよく見ると、銃口が覗いている。
「君は、アンドロイドというが」
「あのあの。アンドロイドって、なんですか?」
 首をかしげるアンナ。アンドロイドは、
「人型機械の総称です。自分は戦闘に特化しておりますが、中には人間の生活補助に特化した者もおります」
「戦闘に特化、とは」
「自分のいた世界では、戦争をしておりましたので」
「それは……、対人戦、ということか」
「そういうこともありえます。ですが、主はアンドロイド同士の戦闘です。人間とアンドロイドでは、戦闘力が大きく異なりますので。自分は戦車一両を凌駕する程度の戦闘力はあります」
「なるほど」
 戦車一両の戦闘力がどの程度を指すのか不明だが、地上戦において、圧倒的な力を持っているというのは間違いないだろう。
 先ほどのミスリルゴーレム戦だってそうだ。アイアンゴーレムを一刀で斬り捨てるライルをして、ミスリルゴーレムは硬いという。だが、彼女はそんなミスリルゴーレムの腕を、足だけで踏み抜いた。銃火器も内蔵しているようだし、人間では相手にならないだろう。それに、これだけ小型化された的では、戦車の主砲では撃ち抜けまい。
「それが、どうして大会に?」
「自分の所属してた軍が敗戦により、解体されることになりまして。戦闘用アンドロイドも全機破棄が決定していたのですが、博士たちが……」
「博士?」
「自分を造った方々です。彼らが、自分に、生きろ、と」
 生きろ。
 ロボットにかけるにしては、あまりに不適切な言葉だ。そもそもロボットは生きてなどいない。それは、先ほどのゴーレムたちと同じだ。
 だが。
「君は、人と会話が成立しているように思えるが」
「肯定です。口頭による微妙なニュアンスを含んだ命令を受け付けるため、自分には高度AIが搭載されております。また、人間兵とコミュニケーションを取ることも可能です」
「……なるほど」
 ロボットは生きていない。
 だが、彼女に生きろ、と言った科学者たちの気持ちは、わかる気がした。
 会話が成立し、自分でものを考えることができる存在。それは、機械の体を持っているだけの、ひとつの生命だ。
「じゃあ、君は何故、ゴーレム狩りを? 見たところ、魔晶石を集めていないようだったが」
「肯定です、自分は金貨を必要としませんので。単に、暇つぶしです」
「暇つぶし?」
「肯定です。他に何をしたらいいのか、わかりませんので」
「戦闘しかできない、と」
「肯定です」
 三度の肯定。
 戦闘用アンドロイドという彼女は、とてつもない戦闘力を持っている。そんな彼女が、平和な日常を過ごすのも難しいだろう。
「他にやることもないまま放浪していましたら、異空間で大会を行う、と聞きまして。そこでなら戦闘もあるかと思ったのですが」
「実際には、バトルなどない」
「肯定です。それで、やることがなくなりました」
「……」
 悲しい。
 そういう存在である彼女に言うことではないかもしれないが、それは、あまりに悲しいことではないか。人生の楽しいと思えることは何一つ知らぬまま、たた戦うことだけに自分の存在意義を見出している。
 実際、彼女が生まれたのは、人を殺すためだろう。だが、今の彼女は、それだけの存在ではない。なのに、自分でそれを理解できない。すべきことがない。
「それなら」
 何をなすべきかわからないロボットなら。
 何をなすべきか、教えてやればいいのだ。
「一緒に、来ないか?」
「一緒に、とは?」
「夕飯を作ろう」
 黒崎の提案に、アンドロイドの少女はきょとんとしているように見えた。