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ライルとの人気投票戦から一日。 黒崎たち一行は、黒崎の部屋に集まっていた。狭い部屋だけに、三人(と一匹)が揃うと、さすがに少し手狭ではある。 こんな部屋の中にこもっておらず、今日も今日とて情報収集、といきたいところではあるが。 「すみません、クロさん。そろそろ携帯食料が心もとなくなってきました」 アンナが、そんなことを言い出した。 考えてみれば当然のことだ。兄妹二人の食事ならばともかく、低燃費とはいえ、男二人が加わったのだから。 「なんだ、金がないのか」 「ついでに仕事もない」 「はっは、それはそうだろうな」 笑った勇者ライルは、懐から革袋を取り出す。 「パーティメンバーなら、金は分け合うべきだな!」 どしゃっ、と置かれた袋。開いてみると、金貨がじゃらじゃらと転がっている。 「これは、一体」 「ゴーレムで稼いできた」 「ゴーレム?」 ライルは頷き、 「センタービルの横にある建物なんだが、あれは地下に深く広がっていてな。地下は迷宮のようになっていて、そこに主催者側が用意した自動人形が徘徊しているんだ。そいつらを倒し、原動力となっている魔晶石を集めて、換金所に持っていく。そうすると、金貨と交換してくれる。主催者は、集まった魔晶石で、またゴーレムを作る――そういう仕組みさ」 「なるほど」 バトルが得意な者ならば、そうやって戦いで稼ぐこともできる、と。 おそらくは、ライルのような、戦いが普通の世界から来た者に向けた設備なのだろう。日本生まれ日本育ちで、海外に出た経験すらない黒崎からすれば、異次元の世界だ。 「金がないなら行ってみるか?」 「……まあ」 他にやることがあるわけではないのだから、と。 三人と一匹で、地下迷宮に向かってみることにした。 センタービルの横とは言っていたが、たいした建物ではなかった。パッと見ただけでは、ただの観光案内所にも見える。 カウンターがあり、事務員らしい女性が何人か。カウンターの横には、地下へ降りる階段が続いている。階段の横には、茶摘みで使うような網状の背負い籠が置かれていた。 「そこが換金所にもなっているが、目当ては下だ。ああ、その籠は持っていくといいぞ」 ライルに言われるがまま、黒崎とアンナは籠を背負うと、ライルを先頭に、地下への階段を下りて行く。 らせん階段になっているようだ。ひたすら降りて行くと、開けた場所に出た。 不思議と壁全体が淡く光っており、遠くを見渡せるほどではないにせよ、視界に困るほどでもない。全体的にごつごつとした石が壁と床を成しており、高さは4メートルほどもあるだろうか。かなり広い。 少し先では、部屋の出口が通路上に伸びていた。 「ここが地下迷宮だ。それなりに広いぞ」 「君は、何度もここに?」 「ああ。ここは大会開始前から利用できたからな。稼ぎにはちょうどよかった……、ほら、来たぞ」 と、通路の向こう側から、ぎしぎしと音を立てながら何かが歩いてきた。 それは、2メートルほどの上背がある、土でできた人形だった。ゴリラのように手を突きながら、ゆっくりと迫ってくる。 「クレイゴーレムだ。魔晶石が小さいから稼ぎは少ないが、鈍重で、とても弱い。まあ、下級ゴーレムといったところだな。上級のミスリルゴーレムなんかは、とてつもなく硬いぞ」 「……まあ」 どの道、戦いなどできない自分。ミスリルなんたらとかは、出てきたところで、逃げるしかない。ブレン氏ならば戦えるのかもしれないが。 「まあ、見てろ。はッ!!」 ライルは剣を抜くやいなや、電光石火、クレイゴーレムに斬りかかった。 一刀のもとに斬り捨てられたゴーレムは、そのまま土くれとなって崩れ落ちる。後には、指先ほどの小さな石が残されていた。 「すごーい、ライルさんって強いんですね!」 「まあな。これでも勇者だ!」 はっはと笑うライルを尻目に、黒崎は石を拾い上げてみた。これが魔晶石というものなのだろう。紫色に光る石は、禍々しい光を放っている。 「この調子で、石を集めていくんだ。いつもは自分で斬って自分で集めるから効率が悪いが、クロサキたちが集めておいてくれると助かる」 「それくらいなら」 どうせ戦いでは役に立たないのだ。そういう役割分担は必要だろう。 「そうだ、それと」 ライルは腰のポーチに手をやると、そこから小瓶を取り出した。 「これは、俺の神聖魔法で聖別した水……、ぶっちゃけ聖水だ。ゴーレムに通用するかわからないが、振りかけておいて損はないだろう」 「体にかければいいのか?」 「ああ。元はただの水だから飲んでもいいが、体の中を聖別したところで、外にいるゴーレムには通用しないだろう?」 それもそうだ。 ライルから貰った小瓶の中身を頭から振りかける。水そのものは少し冷たいが、不思議と温かく感じるのは、聖別されている証なのだろうか。 「よし、じゃあどんどん狩っていこう!」 「はーい!」 「ああ」 一向は、迷宮の奥へと進んで行った。 |