「城か、ここは」
「いや、家だ」
「……大きすぎやしないか」
「そういうものだ」
 ライルと二人、邸宅を見上げて言い合う。
 サキを仲間にしたことを皆に報告した黒崎は、翌日、皆を連れてサキの邸宅を訪れていた。言うなれば、新しい仲間への顔合わせだ。
「おっきくて、なんだかお掃除が大変そうです」
「清掃方法をインストールします」
「がるっ」
 後ろに控える面々も連れ、黒崎は屋敷の中に入る。
「お帰りなさいませ」
 迎えてくれたのは赤鬼――照柿氏だ。
「ッ!?」
「ライル、敵じゃない。味方だ」
 思わず剣に手が伸びるライルだったが、無理もない。赤鬼は見た目からして、人類と相容れるようには見えない。
「ライル、それにみんなも。照柿氏は、恐ろしげな外見ではあるけど、良い人だ。見た目に惑わされちゃいけない」
「いや、まあ、それはそうなんだが。失礼した、テルガキ」
「こちらこそ。我ら獄卒を見て、武器を手に取るのは、人間の本能みたいなものだろう。間違ってなどおらんよ」
 快活に笑った照柿氏は、ぺこりと頭を下げた。
「ようこそ、皆さん。一応、皆さんが住めるよう、部屋は用意しておいたが」
「あ、えっと、私たちは……。お兄ちゃん、普通に家だと生活しづらいですし」
 そっと手をあげたのはアンナ。その隣で、狼のブレン氏はがるると唸る。
「うむ、それは聞いていた。急ごしらえで申し訳ないが、こちらなど、どうだろう」
 そう言いながら照柿氏が皆を案内したのは、中庭だった。
 庭の端、日当たりのよい場所に、小さな家が置かれていた。三角屋根に、ひとつきりの入り口と、描かれた窓。
「……犬小屋?」
 ミニチュアの家に見えるそれは、どう解釈しても犬小屋だった。首輪を嫌がるブレン氏なら怒るかと思ったが、
「ぐるっ」
 唸りながら犬小屋の匂いをかぎ、周囲をくるりと回り、中に入る。
 しばらく待っても出てこないので、中を覗いてみると、いつの間にか丸くなって寝ていた。
「お兄ちゃんも気に入ったみたいですねっ」
「いいのだろうか……」
 完全な犬扱いだが。まあ、本人が不満を感じていないようなら問題はあるまい。
「では、残る皆さまは……、とりあえず、サキ様のところへ?」
「ああ、頼む」
 黒崎が頷くと、照柿氏は全員を引き連れ、サキの部屋まで案内した。
 相変わらず外とはアンバランスな部屋の主は、寝そべってゲームをしている。今日のゲームはRPGらしい。
「サキ様。黒崎殿が、お仲間を連れていらしたのですが」
「ほう、そうか」
 ゲームの手を止め、サキは振り返った。それぞれの顔を見たサキは、
「なるほどの。なんとも統一感のないメンバーじゃな。おんしにはよう似合っておるが」
 きひひ、と笑うサキは、仲間たちを畳の上へといざなう。
 車座に座った面々は、自然、黒崎に視線を集めた。
 見られることに慣れているわけではない黒崎は、咳払いひとつ、
「と、とりあえず、今後の方策を立てよう。ミレイ、情報収集はできているか」
「はい、マスター」
 ミレイはコードを取り出すと、それを自分の耳に繋いだ。反対側をサキに渡し、サキはコードをモニターに繋ぐ。
 と、画面が切り替わり、何やら円グラフのようなものが現れた。
「現在、参加者の中で、10人以上のレギオンは全部で3つ。10人未満のレギオンは20弱といったところです。大きなレギオンについて解説いたします」
 画面が切り替わる。最初に出てきたのは黒崎の写真。
「まずは、マスター率いるレギオン。チーム名は登録されていませんので、ノーネームとなっております。構成メンバーは27人。ほとんど獄卒の方々です」
「チーム名の登録、とは?」
「センタービルで、レギオンの名前を変更することができます。マスターは参加時に登録しておらず、その後も変更していないため、ノーネームとなっております」
「なるほど」
 名前を変えられることは知らなかったが、さりとて、名前を変更する必要性も感じていない。ならば、ノーネームでも、とりあえずは問題ないだろう。
「次のレギオンですが、レギオン名はユグヴァール、リーダーはシャルロット・エリュアール。メンバーは37人です」
 画面に出てきたのは、見目麗しい少女。耳の形からして、おそらくはエルフか。
「こちらのメンバーは半数以上がエルフで、最初から加入しています。シャルロット自身が高貴な生まれと噂されており、おそらくは彼女の従者かと。残るメンバーは、どうも、自らシャルロットに仕えたいと志望した者のようです。後から参加した者は彼女を女王様と呼んでいるようですが、別段、彼女がどこかの王族という情報があるわけではありません」
「ああ……」
 アイドル的人気、といったところか。まあ、彼女の美しさは、画面越しでも十分にわかる。そういう人気が出ること自体は、おかしなことでもあるまい。
「最後はこちら。レギオン名は不夜帝国。リーダーはヴァルト・ヴァレンシュタイン。メンバーは23人です」
 現れたのは、金髪碧眼の青年。革張りの椅子に座り、ひじ掛けに手をついている姿は、退屈そうにも、不遜にも見える。
「種族は吸血鬼のようですね。他、主要なメンバーは種族が統一されていないようですが、やはりいずれも、初期メンバーを中心に活動しているようです」
 バラバラのメンバー。それはとりもなおさず、得意分野が多いということにもなるだろう。しかも吸血鬼がリーダーというからには、それなりに強いイメージがあるが――それは漫画の読み過ぎか。
「以上が大きなレギオンです。ご要望とあれば、全てのレギオンについての情報を集めてありますが」
「いや、いい」
「ほう、何故じゃ? 人数に勝る相手ならば、くみし易かろう」
 サキは薄笑いを浮かべるが、黒崎は首を横に振る。
「いや、逆だ。今、このタイミングで、可能な限り大きなレギオンを吸収しなければいけない」
「その理由は」
「不利になるから」
 黒崎はひとつ頷き、
「今のところ、僕らはトップクラスに食い込んでいる。だが、これに甘んじ、少数のレギオンをまとめようとすれば、その間に大人数のレギオン同士で食い合う可能性がある。特に、ユグヴァールと不夜帝国が合体すれば、人数は60人。単純に考えて僕らの倍を遥かに超える。相手の方が倍の戦力を持っていては、こちらとの交渉は成り立たなくなる」
「少数勢力を全てまとめれば問題なかろ?」
「それぞれと交渉するには時間が必要だ。その間に、他の勢力に吸収される可能性も高い。そうなると、人数的に優位に立てる機会はこの先、存在しなくなる。少なくても不夜帝国かユグヴァール、どちらかは味方にしないと厳しい」
「なるほどの。それで? どちらを狙う」
「その前に。ミレイ。ユグヴァールと不夜帝国の情報、それに構成員のリストを」
「了解しました」
 黒崎の指示に従い、ミレイは画面に双方のメンバーを映し出す。
 それらを眺めていた黒崎は、
「……ユグヴァール、だな」
 小さな声でつぶやいた。
「その論拠は」
「不夜帝国はメンバーが多様だ。それぞれの得意分野は、おそらく大きく異なる。そうなると、どんな勝負を持ちかけても、対応できるメンバーが出てくる可能性が高い。一方で、ユグヴァールは主要メンバーのほとんどがエルフだ。得意分野が偏るぶん、付け入る隙は残ると思う。こちらの優位を築ければ、交渉する余地すら残るはずだ」
「それだけかの?」
「……? それだけだが」
「きひひ、見目麗しい女子にすけべ心でも働いたかと思うたわ」
「それはない」
「本当か?」
「本当だ」
 黒崎は頷く。
 もちろん、美少女とそういう関係になれるなら、それは男として冥利に尽きるものはあるが、それはそれとして、自分にそんな甲斐性があるはずもないし、そもそも自分がモテるはずもないし。
 それよりも、交渉で済ませられる可能性のある相手ということのほうが、黒崎にとっては魅力的なのだ。
「僕は、なるたけ争いはしたくないんだ」
「そうもいかないじゃろうの。これだけの人数が相手なのだからな」
「そうだな……。それに、相手はエルフなんだろう? 交渉は難しいかもしれんぞ」
 俯いたのはライルだ。
「俺の世界にもエルフはいたが、まあ彼らは人間……、というか、エルフ以外が大嫌いだ。世界によって多少の違いはあるかもしれないけどな。俺が訪れたエルフの村なんか、薬のひとつも売ってくれなかったし、宿にも泊めてくれなかった。一歩間違えばボコボコにされていたかもしれん」
「……それほどに、か」
「ああ。彼女がどこの世界から来たか知らないが、エルフという種族がそういう特性なら、どこの世界出身でも大なり小なり似たようなところがあると思う。交渉で済ませるのは難しいと思うが」
「なるほど」
 頷いた黒崎は、
「それでも。僕は、ユグヴァールと交渉すべきだと思う」
「ほう?」
「エルフならば、言葉は通じるはず。理性はあるだろう。言葉を交わせる相手ならば……、交渉の余地は、絶対にある」
「阿呆だな、おんし」
 そう言って、サキはにやにやと笑う。
「まあよい。何事も、ものは試しという。それに、優勝したいのであれば、どの道、ユグヴァールは味方にせねばならんのじゃ。やってみる価値はあるじゃろう」
「ああ。だから、やってみよう」
 そう言って、黒崎は深く頷いた。