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振り返ると、少し高くなった場所に、ステージが作られていた。スポットライトが当てられ、アイドルのようなキラキラした格好の少女がマイクを握っている。よくよく見れば、あの少女も、普通の人間とは違い、耳が尖っていた。 「はーい、みーんなー。元気してるー? 幽世へようこそ! 私は大会運営委員会の会長やってます! ルナ・パルフェでーすっ。みんな、よっろしくー!」 元気な声に、わあ、と会場が盛り上がる。 「目指すはスーパーアイドル!! みんな、仲良くしてねー」 主に野太い声で、はーい、と声が返る。ルナは満足そうに頷くと、 「はいはーい、それではそれでは、大会のルール確認からいっきまーす。先んじて会場入りしていたみんなは知っていることだと思うから、ごはんでも食べながら聞いてねー」 そう言いながら、少女は何かのメモを取り出し、読み上げる。 「ひとーつ、参加者は全員、いずれかのチームに所属することー。ただし、自らをリーダーとするチームでも問題なーし。 ひとーつ、参加者たちは互いに協議のうえ、ルールを決めて勝負を行うことー。また、敗北したチームは、相手チームに吸収されることー。 ひとーつ、殺しはご法度! 殺さずに、相手に自分を認めさせることー。以上でーすっ」 チームに所属、ただし自分をリーダーとするチームでも可。これは理解できる。黒崎自身はどこのチームにも所属していないので、おそらくは自分がリーダー扱いで登録されているのだろう。 ルールを決めて勝負を行う、これもまあわかった。負ければ相手チームに吸収される――そうやって、最後に残るチームとなれ、ということだ。将棋みたいなものか。 問題は、最後のルール。 「殺しは、ご法度」 それは、言い換えれば、殺す以外のことは何をしてもいいということ? より深く言うのなら、殺してしまえるくらいの能力を持ったものが、それだけいるということ? ……ありえない話ではない。 周囲を見ればすぐわかる。ドラゴンだのエルフだの鬼だの。そんな連中と自分がケンカすれば、即死は確実。 つまるところ、やはり、そういう大会なのだ。そういうメンバーが、集まっている。 「優勝者は副賞として、神様から『力』が与えられます! 神様の眷属になれれば、どの世界でも好き放題できちゃうよ? 好きな世界でカッコいい人を集めてハーレムにしてもいいし、お金持ちになることだって簡単! 自分の住んでいる世界のルールを変えることだってできちゃう!」 そう言って、ルナは空を指す。 「だからこそ! 優勝者はたったの一人!! この空間にいる、あらゆる人に自分を認めさせて!! 自分の思い描く通りの世界を作っちゃってください!!」 わあああ、と歓声があがる。彼女の一挙手一投足で、会場が沸いていく。 「ちなみにだけどもー、この会場にはねー、神様の支配する72の世界、その全てからいろーんな人が集まってます! 見た目からして強い人もいれば、一見すると大丈夫なのこの人? ってな感じの面々まで様々! けどまあ、ここに来た以上、みんな何か思うところはあるんだろうねー」 くすっ、と笑ったルナは、 「そう、いろんな人がいるから、中には悪いことを考えている人もいるかもしれません。でも! 神様は全知です! この会場で、こっそりルール違反をしても、ばっちりバレます! ルナちゃんがお菓子つまみ食いしたのもばっちり感知して、しかもガチ怒りする器のちっちゃい人だけど!」 ……神の威厳とか、そういうものはないんだろうか。 心の中で思うが、あるいは、神ならば、そんな心中の声すら聞こえているのかもしれない。 「とにかく! 自分を、みんなに認めさせること! それがこの大会の全て! みんな、頑張ってねー!!」 わあああああ、と会場が湧く中、花火があがる。 ものすごい熱気だった。それは、黒崎誠一の中にはないもので。 「……」 あらゆる種族に、自分を認めさせる。 父一人にさえ認めてもらえなかった自分。だが、それを成せば。 自分は、きっと、今の自分ではない。 「と、いうわけで、ルールわかりました? あの子、普通にできないんですよねぇ」 まだ隣にいた受付嬢が話しかけてくる。黒崎は頷いた。 「……ええ。よく、わかりました」 「あ、ちなみに生活面のことですけど。大会期間中は、会場から外に出ることはできません。ただし、この会場そのものが神の作った異世界ですから、意外と広いです。どんな種族でも生活が可能なように、センタービルがある都市部を中心にして、森、山、湖まであります。さすがに海はありませんが、海水と同じ塩分濃度のプールはありますから、人魚なんかでも生活は可能です」 人魚は海水魚だったのか。まあ、川にいる人魚というのは聞いたことがない。 「住居に関しても、運営が用意しています。センタービル――あの一番おっきな建物ですねー、そこの1階には無料で使用できるパソコンがありまして、そこから検索と登録が可能です。 町なら一軒家でも集合住宅でも、お屋敷でも。新しい敷地に建築することもできますが、神はめんどくさがりなので、費用を要求されると思います」 「……別に、新築でなくても」 そもそもにして、実家も築60年の建物だった。今さら、古い建物に忌避感などはない。 「そうですか、それはよかったです。それと食べ物ですけど、森とか山なら普通に木の実はあります。鹿とかの生き物もいますので、狩りがお好きならどうぞ」 狩り。ハンティング。鹿は参加者ではない……、ということか。参加者は殺してはいけないルールなのだから、あるいは、大会参加者用の家畜みたいなものかもしれない。 「簡単に手に入れる方法といえば、スーパーマーケットです。日本から参加されたようですし、スーパーはわかりますよね?」 「ええ」 というか、この空間、スーパーまであるのか。 「通貨は参加者全員が理解しやすいように、金貨などを使います。一部の参加者は金貨の持ち運びができないようなので、宝石とかで代用していますが。委員会で運営しているスーパーは金貨のみでの支払いとなりますが、参加者で商売するのは自由なので、そういうところでは宝石での支払いもできるみたいですよ」 宝石しか持ち運べないというのは、あのドラゴンみたいな種族だろうか。少なくても、金貨を財布から出し入れできるような体構造ではあるまい。 「お金を稼ぎたかったら、センターまで来てください。お仕事のあっせんから、稼げる狩場まで、なんでもご紹介しますよ。大規模なイベントをやりたい時もご相談ください。運営委員で協力できることならやります」 「大規模なイベント、とは?」 「多数のレギオンを巻き込むようなイベントの類ですね。あるいは、こういうセレモニーみたいなお祭りでも結構ですが。センタービルには地下もありまして、お遊びのイベントができるように作ってあります。ただ、費用負担は参加するレギオンで行っていただきますよ」 金さえ払えばイベントも行う、企画会社みたいなものか。 「私も、普段はセンタービルにいますから、いつでも呼んでください」 「了解、しました」 「えっと、他に何かご質問は?」 「……とくには」 有象無象が参加しているらしい大会。必勝法などあるはずもない。 否、自分にできることなど、何一つとしてないのだ。ならば、必勝もなにもない、普通に考えればむしろ必敗。 負けたくなければ――仲間を増やすしかない。それも、とびきり強い仲間だ。そんな人が、自分などの仲間になってくれるかはともかく。 そうしなければ勝てない大会だし、そうする大会なのだ。 「じゃ、私はセンターに行きますのでー。ご武運をー」 ひらひらっ、と手を振り、受付嬢は駆け去って行った。そういえば、名前も聞いていなかったが、まあいいだろうと思い直す。 「……」 ここからだ。 黒崎は空を見上げる。どういう理屈なのかは分からないが、空には普通に月が輝いていた。 受付嬢と分かれた黒崎は、会場から離れ、町を歩いていた。 賑やかなところはどうにも苦手だ。コミュニケーション能力の欠如が、こんなところにも表れている。 「……」 こんな調子で、果たして仲間など増やせるのだろうか。 そんなことを思いながら歩いていると、明るい建物が目に入った。センターという看板が掲げられている。なるほど、ここが彼女の言っていたセンタービルなのだろう。 住居の登録はここで、と言っていた。黒崎は建物の中に入る。 そこは、一般的なオフィスビルのエントランスに近かった。受付もあったが、今は見知らぬ顔の女性(何故か目が三つある)が一人、座っているだけ。反対側には衝立が並び、パソコンがある。あれで登録をしろ、ということらしい。パソコンの脇には、角の生えた女性がにこやかな表情で立っている。 「あ、住居のご登録ですか?」 「はい」 素直に頷くと、角女性がにこりと笑う。 「ようこそいらっしゃいませー。私は運営の者で、住居登録の補佐をしています」 「補佐、とは」 「参加者の中にはパソコンとかタッチパネルが使えない人も多いので。ドラゴンとか」 なるほど。確かにあの巨大な手というか爪は、どう見てもパソコン操作には向いていない。 「神様の趣向で、こういうの用意したんですけどねー。こういう装置がない世界の人の方が多いくらいで。確かに管理には便利なんですけどー、参加者には使い勝手悪いんですよねぇ。そのサポートとして、私たちのような運営の者がいるんです」 「では。お願いします」 「はーい。何か条件はありますか?」 「……特別には」 男一人。どんな家がいいとか、そういう贅沢を言える立場でもない。 すると、運営の女性は、かたかたとキーを叩きだす。 「うーん。でも、結構いい家は、すでに取られちゃっているんですよねー」 「アパートで、構いませんが。古くても」 「そうですかー? じゃあ、これなんかどうでしょう」 女性が画面に出したのは、古ぼけた木造アパートの写真。築年数は想像もできない感じのボロ家だ。間取りを見ると、完全なワンルーム。ただしシンクと台所機能はあり。 「これで、結構です」 「あ、そうですか? じゃあこれで登録しておきますねー」 カタカタ、と操作してくれた女性は、ついでに地図をプリントしてくれた。 「はい、こちらがあなたのお部屋です。森林エリアと住居エリアの境くらいですね」 地図で、目的地と現在地を教えてもらい、黒崎はセンタービルを後にした。 |