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朝。目覚めた黒崎は、洗面所で顔を洗う。 鏡を見ると、自分の顔は、いくぶんかマシになっていた。 「……仲間の力、か」 この大会に参加して、初めて会った仲間たち。 そんなメンバーが、自分のことを思ってくれた。その事実がたまらなくうれしく、自然、口元が緩む。 洗面所を出ると、 「ああ、黒崎殿。お客人です」 照柿氏の大きな顔が、困惑に彩られていた。 「何か、問題でも?」 「問題といえば問題でしょうな。……エルフの客人です」 その言葉に、残っていた眠気はどこかに飛んだ。 「すぐ案内を」 「では、こちらへ」 照柿氏の先導で、足早に廊下を進む。 「こちらです」 客間の前まで来た照柿氏が、扉を開く。向かい合ったソファ。そのかたやに、尖った耳の少女が座っていた。 「シャルロット」 シャルロット・エリュアール。ユグヴァールの長であり、エルフの隠れ里から絶対に出ないと称していた彼女が、なぜここに。 それだけ常ならぬことが起きたと想像できる。黒崎はシャルロットの対面に座ると、照柿氏に、ハーブティーを頼んだ。自分はよくわかっていないが、なにげにハーブが好きという照柿氏は、色々な種類を知っている。その中でも、気持ちを落ち着ける効果があるものを頼んだ。 「……」 シャルロットはソファに座り。膝の上で拳を握ったまま、口を開かない。 自分から口を開くこともできず、黒崎は待つしかない。 照柿氏は、すぐに独特な香りのするお茶を運んできてくれた。 どうぞ、とシャルロットに勧めながら、自分もお茶を口に含む。まずは、落ち着くことが大事だ。 強いハーブの香りが、鼻に抜けた。 その香りに誘われたのだろうか。シャルロットはお茶を口に含み、 「……なかなかね」 「ありがとうございます」 「あんたじゃないわ。その鬼が淹れたのでしょう」 カップを置き、シャルロットは頭を振った。 「本当は、あんたに頼むことじゃないの、わかってる。でも……、エルフではどうにもできないの。私は、この空間に、あんたの他に話したことのある相手がいないわ。だから、誰にも頼めない」 「つまり?」 「ミカエラが……、さらわれたの」 照柿氏に頼み、客間に皆を集めてもらった。 アンナとブレン、ライル、ミレイ、それにサキ。主要な仲間たちが揃う中で、シャルロットは口を開く。 「昨日、ミカエラは、あんたたちを監視していたの。知っていた?」 黒崎は答えられなかった。当然だが、一般人に過ぎない黒崎が、そんなことに気づくはずもない。 だが、シャルロットは構わず続ける。 「夜のことだったわ。ミカエラに同伴させていた使い魔が、一人で帰ってきたの。聞いたら、ミカエラはさらわれた、と」 「どこの、誰に」 「不夜帝国よ」 ユグヴァールとは別の、多数派レギオンか。 黒崎がミレイに目線で合図すると、 「不夜帝国。リーダーは吸血鬼のヴァルト・ヴァレンシュタインです」 「そのヴァルト・ヴァレンシュタインが、ミカエラをさらったの」 「何のために」 「私に、従属しろと伝えてきたわ」 「……なるほど」 強い絆で結ばれた、エルフのレギオン。そのメンバーをさらい、仲間になるよう伝える。そうすれば、エルフの作戦も打ち破れる。 非人道的ではあるが、立派な作戦ではある。 「それで、君は?」 「君はって?」 「どうするつもりなのか、と」 「……」 シャルロットは沈黙した。 「……エルフの矜持として、脅しに屈する訳にはいかないわ。戦時中にも、こんなことはたまにあったもの」 「その時は?」 「さらわれるようなエルフは殉職として扱われるわ。己の身も守れぬ者に、戦場で生きる資格はない」 「それは、理屈でありルールであり慣習だ。そうではない、君の行動はどうする?」 答えは、すぐに来なかった。 わかっていて問いかける自分はずるいと、黒崎は思う。だが、聞かなければいけないとも思っていた。 シャルロットは俯きながら、 「ミカエラは……、私が小さな頃から従者として仕えてきたの。ずっと、一緒だったのよ。たまに意地悪もするけど、でも、ずっとずっと、一緒だったの」 「それで?」 「ミカエラが殉職なんて……、認められない」 それはそうだろう。そうでなければ、自分のところに来る必要などない。今までの作戦通り、里にこもっていればいいのだ。少なくても、シャルロットが外に出なければ、彼女らの作戦が打ち破られることなどない。 ここに来たということ。それはすなわち――。 「エルフがこんなことを言ってはいけないと、思うけれど。その、お願い。私たちを助けて」 「どうしますか、マスター」 間髪入れず、ミレイが問いかけてきた。 「皆の、意見は」 黒崎が視線を向けると、 「クロさんの言いたいことと同じだと思います」 「がるっ」 「卑怯な真似をする連中だな。許しておけない!」 「マスターの御命令のままに」 「おんしの好きにするといい。まあ、地獄の仕事を増やして欲しくはないがの」 仲間たちの言葉に、黒崎は覚悟を決めた。もっとも、最初から、他に選択肢などなかったようにも思うが。 「わかった。これより僕ら……、『ノーネーム』は、不夜帝国に勝負を仕掛ける。ミレイ、不夜帝国の情報を」 黒崎の言葉にうなずくアンドロイド。そのかげで、エルフの少女は涙を浮かべた。 「……ごめんなさい。ありがとう」 |