屋敷に戻った黒崎は、すぐに皆を食堂に集めた。
 ミレイの撮影機能を使い、すぐさま先ほどの光景を上映する。
「ッ……、ミカエラ!」
 エルフの女が出てきたあたりでシャルロットが席を揺らすが、
「落ち着いて。まだ彼女は助けられない。……いや、助けたところで無駄なんだ」
「――どういうこと」
 席に座り直したシャルロットに、黒崎は説明する。
「彼女を取り戻したところで、ヴァンパイアの魔法が解けるわけじゃない。結局は解毒薬が必要だ。けど、里に戻ったところで、すぐに秘術を解毒する薬なんて作れないだろう?」
「それは……」
「だから、あの薬が必要なんだ。けど、ただ彼女と薬をくれ、と言ったところで、連中は乗らない。連中に大きいメリットが必要だ」
「それが、勝負というわけか」
 黒崎は頷く。
「勝負となれば、勝てば僕らを吸収することが可能になる。それに、勝負条件は、一見すると彼らが有利。そうなれば、まっとうな指揮官なら乗るしかない。それにどの道、ミカエラさんを永遠の眠りに落としたところで、連中にはメリットがないんだ。それよりも、利益があるほうを選ぶだろう」
「じゃが、連中は強かろう。映像を見た限りじゃが、映っていた三人はいずれも手練れぞ」
「確かに、サキの言う通りだろうな。映像でも強さが伝わるようだった」
 頷く閻魔と勇者。この二人が言うのだから間違いはあるまい。
 だが、
「だからこそ。連中は僕の仕掛けた勝負に乗った。あとは、連中の取りそうな作戦と、それに対抗する作戦次第だ」
「対抗作戦……。そんなものあるのか? なにせ、連中は明日の朝までに、罠をたんまり仕込んでくるぞ? 俺が魔王城に突入した時もそうだったが、連中はいざとなれば、城を本当の要塞にしてくるぞ」
 そう言うライルに対し、黒崎はまっすぐに答える。
「ある。必勝とは言えないかもしれないが、可能性の高い方法が」
 誰かが、ごくり、と喉を鳴らした。
「ただし、この作戦には、皆の身の危険が含まれる。特にここにいるメンバーは、殺されることこそないだろうが、その直前くらいまでは至っておかしくないと思っている。それでも……、協力してくれるだろうか」
 無茶なことを頼んでいる、と思った。
 それでも、頼まずにはいられない。作戦は、ひとつしか思いついていないのだ。
 すると、皆が互いの顔を見合わせた。
「何を言いだすかと思ったら」
「そんなもの、当たり前じゃろう」
「勝負に危険はつきものです」
「頑張ります!」
「がるっ」
 頷く仲間たち。
 その姿に、黒崎は少しだけ目頭を熱くした。
「……ありがとう、みんな」
 ぐし、と顔をこすった黒崎は、
「それじゃあ、作戦を伝える。みんな、よろしく頼む」
 それぞれが、頼もしく頷いてくれた。

◇ ◇ ◇


 仲間の協力を得られた黒崎が最初にしたことは、運営側を巻き込むことだった。
 久方ぶりのセンタービルにて受付嬢に会い、協力を取り付ける。
「団体戦! いいですねいいですねー! そういうの大好物です。運営側も全力で協力しますよ」
 と、快く請け合ってくれた受付嬢に、黒崎はいくつかのことを頼んだ。
 頼むだけ頼んだ黒崎は、屋敷にとんぼ返りした。屋敷では、皆が明日の戦いに備え、準備を始めている。
 黒崎も同じように準備しようとして、
「……クロサキ」
 シャルロットに声をかけられ、足を止めた。
 屋敷の廊下には、二人の姿しかなかった。それでも、黒崎は近くの空き部屋にシャルロットを誘う。
 本当に何もない、がらんとした部屋。そこで、シャルロットと向かい合う。
「何か」
 エルフの少女は黒崎を見つめ、
「あなた、どうしてそこまでするの」
「どうして、とは」
「助けを求めておいて言うことじゃないけれど、あなたにとって、今回の戦いはリスクの方が多いでしょう。そうでなくても、ヴァンパイアは強敵の筈よ」
「確かにそうだ。けど、メリットも十分にある。何より、彼らと戦うきっかけを作れた。不夜帝国は強敵だ。だからこそ、素直に戦いに乗ってこない可能性も高かった。けど、総力戦なら……、僕らは負けない」
「その根拠は?」
「僕がみんなを信じている、それだけだ」
「……」
 言葉を失ったエルフに、黒崎は続ける。
「僕には何もない。何もできない。君は、知らないだろうが。――だから僕は、みんなを信じる。僕には、それしかできない」
「理由になっていないわ」
「僕には、それが十分な理由だ」
「……わけがわからないわ、人間」
「それはそうだろう。君はエルフだ」
「そういう問題じゃないわ」
 さらりと髪をかきあげたシャルロットは、
「私は、今回の戦いでは何もできない。でも、恩知らずではないわ。あなたが私たちを助けようとしてくれていること。必ず返す」
「そんなものはいい」
「それではエルフとして、義に反するわ」
 だから、とシャルロットは続ける。
「絶対に、負けないで」
「……ああ、もちろんだ」
 仲間の命運すらかかった勝負。
 言われずとも、負けるわけにはいかない。