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『さあー! 間もなく夜明け! 優勝候補チーム同士の対決が、今まさに! 始まろうとしております!!』 翌朝。夜明け前。 荒野手前の林に、ノーネーム全員の姿があった。普段は屋敷を守る獄卒たちまで連れての総力戦だ。 荒野には、拡声器越しに、ルナ・パルフェの声が響いている。彼女は実況兼解説。城の中や荒野、それに黒崎たち自身に、運営側の使い魔がついてまわり、それぞれの行動を逐一観察している。言うなれば、生きたドローンのようなものだ。 使い魔たちが見た映像は、運営側の計らいにより、大会に参加していないメンバーもセンタービルで見られるようになっているという。きっと、シャルロットも身を隠しながら、センタービルで見ていることだろう。 ごくりと喉を鳴らした黒崎は、緊張している自分を実感する。 シャルロットにはああ言ったが、実際、うまくいく保証はないのだ。だが、戦いなどそんなもの。うまくいくように全力を尽くす。今は、それしかない。 最後の準備とばかり、懐から小瓶を取り出し、黒崎は一息にあおった。体の芯から温まるような感じを覚えながら、黒崎は仲間たちを見やる。 「みんな。ここから先は、身を隠すところがない。一気に行くぞ」 黒崎の言葉に、全員が頷いて返す。黒崎はブレン氏を呼ぶと、彼にまたがった。走るスピードが最も遅い黒崎は、こうしなければ、みんなに置いて行かれる。 間もなく日が昇る。東の空が徐々に白んでいき、 「突撃!!」 黒崎の合図と同時、全員が駆けだした。 ほとんど間をおかず、城門がゆっくりと開いていく。 「なんだ!? 自分から招き入れる気か!」 「おそらく、来る……、来たッ!」 城門の内側。そこから出てきたのは、ぎしぎしと不気味な音を立てながら動く躯の群れ。 「スケルトンか! ヴァンパイアの魔術だな!」 「あれは参加者ではありません! 破壊して問題ありません!」 姿を見たライルが叫び、データベースと照合を終えたミレイが続ける。 「想定通りだ! 照柿氏!」 「任せろ!!」 黒崎の指示に従い、獄卒たちが前に出た。 今日の鬼たちは、手に手に金棒を握りしめている。先頭を走る照柿氏は、人間大のスケルトンに向かい、 「どりゃあああ!!」 金棒を一閃させた。一撃で骨が砕け、粉々になって吹き飛ぶ。一撃で倒せる、だが、 「数にキリがないぞ!」 そう、スケルトンたちは続々と湧いてくる。それらをいちいち相手にしていては時間が足りない。 「任せろ!」 獄卒たちの一人が金棒を振りかぶると、思い切り投げつけた。 ちょうど槍投げのように投擲された金棒は、直線状にいるスケルトンを片っ端から薙いでいく。 ストレートに空いた道を、ブレン氏にまたがった黒崎は駆けて行く。その後ろを、主要メンバーたちが続いた。 金棒は、入り口の扉も破壊していた。強引に開いた入り口から、黒崎たちは城の中へ飛び込む。 スケルトンたちが後を追いかけようとするが、 「さっせるかあああ!!」 扉の前に陣取った照柿氏が、金棒を振り回し、スケルトンを弾いた。 「この先には行かせん!」 金棒を肩に担いだ獄卒たち。 扉の前に陣取る彼らとスケルトンの間で、戦闘が始まった。 屋敷の中に入った黒崎は、ブレンから降りると、 「頼みます」 狼に声をかけた。魔狼は小さく吼えると、いずこかへ走り去る。 残ったメンバーは、ミレイを先頭に、謁見の間を目指して走り出した。 「クロサキ! 本当に、ヴァンパイアは謁見の間にいるんだろうな!」 「おそらく!」 城の中の構造は、ミレイが調べてくれた。 その結果、謁見の間以上に広い部屋は、この城の中にはないことが判明している。 「彼らの能力は知らない。だが、どんな能力であろうとも、城の中では全力を出せないはずだ。つまり、広い場所で待ち受ける」 「それが謁見の間、というわけか」 「そうだ」 駆け続けることしばし。 廊下の途中で、先頭を進むミレイが足を止めた。 「……」 その理由は、聞かないでもわかる。 廊下の途中。そこに、長身の男が立っていた。 「ここから先は通行止めだぜぇ」 ぽきぽきと指の骨を鳴らす男。 地図は、黒崎の頭の中にも入っている。ここは謁見の間に至るための、最短ルートだ。ここをそれると、大きく回り道をしなければいけない関係で、余計に手間取る。それに、そちらにはきっと罠が満載されていることだろう。 むしろ、この最短ルートを進む方が、リスクが減る。 「じゃあ、サキ。頼む」 「うむ」 前に出たのは、閻魔の少女。 じろりと長身の男を見上げ、 「今じゃ!」 合図と同時、ライルが飛ぶ。 「来たれ聖光! シャイニング!!」 「ッ!?」 突如として発生した輝き。 視界を真っ白に塗りつぶす光に、思わず長身の男も目をつぶらざるをえない。 光は一瞬で収まった。後には、一人の少女しか残っていなかった。 「ちっ、目くらましかよ。面白くねえことしやがって。連中は先に進んだのか?」 「そうじゃな」 「で、お前が足止めってわけか。けっ、舐められたもんだぜ」 「ほう? それはどういう意味じゃ」 「あぁ? こんなクソガキ一人を残せば足止めになるなんて、その発想が舐めてるって言ってんだよ。いいか? ふんッ!!」 長身の男が全身に力をこめると、着ていたシャツが吹き飛んだ。 足も腕も倍以上に太くなり、全身の筋肉が盛り上がっていく。 数瞬の後、そこに立っていたのは、巨大な筋肉の塊だった。 「俺様の名はアトラス。巨人族だ。お前さん、獄卒のリーダーなんだってな? とはいえ、こんな子鬼、一撃でミンチだぜ?」 「できるもんならやってみぃ」 目の前の男が変化しても、サキはまったく動揺していなかった。ちょいちょい、と手招きすると、アトラスは表情を険しくする。 「……舐め過ぎだな、テメエ。いいだろう、そんなに言うなら、ぶち殺してやる!!」 ぐっと握った拳。それを、アトラスは遠慮容赦なく振り下ろした。 対するサキは、まるでタクシーでも止めるかのように、ひょいと片腕をあげただけ。 ドカン、と互いが激突する。それはトラックが激突したようなものだったが、 「なんじゃ、非力じゃの。おんし」 サキは、1ミリたりとも動いていなかった。アトラスの表情が、初めて変化する。 それは、戸惑い。思わず声が漏れる。 「――なんだと?」 「おんし、獄卒をなんじゃと思っておる? 鬼は鬼じゃ。自分より力のない者に、鬼は決して従わぬ」 アトラスの腕を握ったサキは、 「そら」 「ッ!?」 軽く放り投げた。それだけで巨体が吹き飛び、壁に激突する。 今度こそ。自分という存在に絶対の自信を持つ巨人族が、震えた。 「な、なんなんだテメエ!?」 「おんしが言うたであろう。鬼じゃよ」 ぐっ、とサキもまた、全身に力を込めた。 その額に、普段は見えない角が浮かぶ。長大な一本角。 「我が名は咲雷。神殺しを命ぜられた、八柱の閻魔が一にして、獄卒の主よ。巨人、貴様も神の端くれであろう? ならば我を楽しませてみせよ」 「……ぬかせっ!!」 地を蹴ったアトラスと、同じく地を蹴ったサキ。 二人の拳が激突し、城を揺らした。 |