走る、走る、走る。
 止まることは許されない。ミレイを先頭にして、ひたすら走り続ける。
 角を曲がったところで、
「ッ!」
 ミレイが止まった。黒崎もまた、急ブレーキをかける。
 肩で息をしながら見たものは、
「……ッ」
 謁見の間にいた青年だ。
 腰に刀を帯びた青年は、感情のない瞳でこちらを見ている。
「剣士か。じゃあ、俺の出番だな」
 ライルもまた、腰の聖剣を抜き、男と対峙した。
「俺の名はライル! 聖剣の勇者ライルだ! 勝負だ!」
「何を勘違いしているのか知らないが、ここを通さないことが私の役目だ。お前と勝負することではない」
「そこを、通してもらうって言ってるのさ!」
「ぬかせ」
 男は刀を抜くと同時、
「ふッ!」
「ッ!!」
 神速の抜刀。反応できたのは、ライルが勇者としてひとかどの人物だったからだ。
 刀と剣がぶつかり、火花が飛び散る。つば競り合った二人は、
「ただの阿呆ではないということか」
「当たり前、だろッ……!!」
 ライルは歯を食いしばり、自分の中で魔力を練りこむ。
「神よ、邪悪なる者から我らを守りたまえ!! ストーンッ!!」
「ッ!?」
 今度は、青年が驚愕する番だった。
 ライルと刀を持つ青年、二人の体が、同時に硬くなる。灰褐色に彩られたその姿は、まさに石像。
「今のうちに!」
 黒崎の合図で、ミレイとアンナも駆ける。青年の脇を抜け、そのまま廊下を奥へ。
 一分ほど後、
「ぐ、うッ!」
 先に動き出したのは青年。続き、ライルもまた動き出す。
「る、ぁあああ!!」
 石と化した自らの肉体を砕き、弾き、無理やり動き出す。
「はッ!」
 二人揃って跳びすさり、距離を置く。互いの刃がきらりと煌めく。
「貴様、何をした」
「ストーン。本来は、邪悪なる者の攻撃から味方を守る呪文だ。普通は、エネルギーをチャージする必要のあるような力強い攻撃を受け流すために使う。だが、今回は特別に、俺とお前を同時に石化させてもらった」
「……なるほどな。剣士のくせに魔術も使うとは。貴様、それでも剣士か」
「俺は剣士じゃないぜ。勇者だ」
「そうか。見解の相違だな」
 ゆうらり、と刃が揺らめく。
「おいおい、それよりお前、まだ名乗っていないだろう。なんていうんだ」
 青年は目を細め、
「よかろう。聞かせてやる。我が名を魂に刻んでおけ」
 揺らめく刃は、二重にすら見える。
 ――否。
「我が名は布都御魂剣フツノミタマノツルギ。神代の剣にして、刃の神である」
 本当に、刀が二振りに増えている!!
「魔術かぶれの剣士風情が敵うなどと! ゆめゆめ思うなよ!!」
「ッ!!」
 空中に浮かぶ剣とフツノミタマノツルギが振るう剣、両方がライルに襲い掛かる。
「我が身を守れ! シールド!!」
 対するライルは、全身を魔力で作った盾で覆いながら、激突する。手の刀は剣で、空中の刃は盾で受け止め、剣戟を合わせる。
「神様ってわけか! けどな、こっちだって理由があるんだ!! 負けて、たまるかよ……!!」
 気持ちを引き締め、ライルは剣を振るう。

◇ ◇ ◇


「間もなく謁見の間です」
 ミレイがアナウンスするが、言われるまでもなかった。見覚えのある回廊。巨大な柱。その奥に、謁見の間がある。
 赤じゅうたんが敷かれた道を走っていくと、見覚えのある男が立っていた。
 通路のど真ん中。隠れもせず、オールバックの男が立っている。
「いらっしゃいませ」
 一礼し、男はにこやかにこちらを見やる。
「フツやアトラスを抜いてここまで来たのはお見事。では、ここはどうしますか?」
「もちろん、通ります」
「結構。では、私のお相手は?」
「自分が」
 ずい、と前に出たのは、アンドロイドの少女。
「頼む、ミレイ。あいつと戦ってくれ」
「了解しました、マイマスター」
 応じたミレイは、執事の男を見やる。
「なるほど、機械人形ですか。見事な出来栄え、ですが、私の相手となると……、少々、役者不足ではありませんかな」
 執事の男はくすりと笑う。同時、
「ッ!!」
 ミレイの右腕が火を吹いた。機関銃の乱射、なのにそれら全てが、男の周囲で火花となって散る。
「失礼。何かしましたか?」
「……」
 黒崎には、何が起きたのか、まったく見えなかった。だが、ミレイには観察できたようだ。
「……両手に持ったワイヤーですね。どういう技術か不明ですが、銃弾を弾くほどの強度があるように思われます」
「正解。私の魔術鋼糸は、魔力をよく通します。魔力を通わせた鋼糸の強度は名刀に勝る。あなた方の体など、一瞬で肉塊にできましょう。もっとも、殺してしまっては失格となってしまいますので……、足の一本で、我慢しますが!!」
「ふッ!!」
 目に見えないワイヤーの攻撃。けれど、ミレイのセンサーは十分にワイヤーの動きを捉えていた。
 右足が閃き、筒が飛び出す。小型の爆薬だ。爆雷とワイヤーがぶつかり合い、
「ッ!!」
 ズン、と腹に響く重低音。爆発が巻き起こり、土煙で視界が途切れる。
「させるか!!」
 すぐさま煙を切り裂くワイヤー。だが、
「……」
 黒崎の足を狙って放たれたワイヤーは、直前、ミレイの体に阻まれる。
 ミレイの左腕に巻き付いたワイヤー。黒崎は、すでに後ろを振り向くことすらなく駆け出している。
 ――抜かれてしまった。
「見事。よくこの鋼糸を見極めましたな」
「私のパッシブセンサーを甘く見ないでください」
「そのようですな。だが、腕で受け止めたのは失策! このまま、ねじ切る!!」
 ぐん、と力を増すワイヤー。ギリギリと腕を締めつける。
 ミレイは構わず、
「ブレードオープン」
「ぬっ!?」
 左腕が展開した。
 隠されていた刃が巻きついた鋼糸を切り裂き、束縛をほどく。動く余地を得たミレイは、すぐさまスラスターを吹かし、男と距離を置いた。
「隠しナイフというわけですか。なるほど、機械人形と侮れませんね」
「……自分は、戦闘のみを目的として作られた人造兵器。個として、戦車にも負けません」
「人造兵器。なるほどなるほど。ですが、それはこちらも同じこと」
 執事の男は身を屈める。完全なる臨戦態勢。
「このマクシミリアン・ジーグルド。ヴァルト様にお仕えすることこそが命の意義。あなたを壊し、それを証明してみせましょう!!」
「命の意義……」
 存在する理由。
 そう、自分は、戦うことだけを目的に生まれた。戦争のため、人を殺すため。
 けれど、あの青年は、言ったのだ。戦うだけが理由ではないと。
 なんでもない日常を与えてくれた青年。我がマスター。
 ゴーレムを壊すことすらできない心優しいマスターが、戦えと命じてくれたのだ!
「ならば、私の意義とは! あなたを止めることです!!」
 機械の体にはありえない、『魂』が叫ぶ。
全力展開フルオープン! 301、バスターモード!!」
 背から連装砲が。腕からは銃口が。足からはスラスターの噴出口が覗き、体内の動力炉は戦闘機動に耐えるよう、全力で回転を始める。
 全身の兵装を起動させたミレイは、スラスターの力を借りて宙を舞った。
 この戦場は、自分の意義ではない。
 その事実を証明するため。