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優勝者が決定したことで、大会は終わりを告げた。 勝利チーム『ノーネーム』。優勝者は、黒崎誠一。 勝者が決定したとの速報が流れた、翌日の夕刻。大会開始直前と同じ、センタービル前の広場で、パーティが催された。 「みーんなー! 元気してたー? この人が! 優勝者!! 黒崎誠一くんでーすっ!!」 わあああ、と会場が盛り上がる。あんな黒い側面を持っているくせにこれだけ切り替えられるとは、さすがと言えばさすがか。 「知らない人はいないよね? ではでは! 優勝者から、勝利者インタビューでーすっ!」 はいどうぞ、とマイクを向けられた黒崎は、会場に集まった面々を見渡す。 見知った顔も、そうでない顔もいる。だが、彼らに向かって、改めて何かを話すなど。 「……これは、無茶、では」 「何言ってるの。ボクにあれだけ説教くれたんだから、このくらいやるやる。ほらっ」 マイクを外したところで、こそっと話しかけるルナ。とん、と背中を押され、黒崎はよろめきながらも前に出た。 死ねる。 けど、まだ生きている。 黒崎はマイクのスイッチを入れると、口を開いた。 「その。僕が、優勝なんて、何かの間違いだとは思うが」 「間違いじゃないぞー!」 会場から飛ぶヤジ。あれはライルか。 「……ともかく。間違いだとは思うが、間違いじゃないらしい。みんなが、僕を選んでくれたんだと、思う」 そう、自分一人の力では、何もできなかった。 みんながいたから、ここに立っているのだ。 「僕の力では、何もできなかった。そんな僕が力を手に入れるというのは、おこがましいと、思う。だから、できる限り、みんなに力を貸したい。僕の力ではなく、みんなの力だ」 わああああああ、とさらに会場が盛り上がる。知らず、黒崎は笑みを浮かべていた。 「みんな。ありがとう」 黒崎誠一は、一人でセンタービルを訪れた。 表ではまだパーティが続いている。日が暮れてなお盛り上がる会場は、いまや大騒ぎの真っ最中。ちらっと見ただけだが、サキがアトラスの頭を掴んで振り回していたり、フツがライルと共に剣舞を披露したり、間違ってお酒を呑んだシャルロットがぶっ倒れてミカエラに介抱されたりしていた。 まあ、平和なものだ。 そんな光景に背中を向けた黒崎がビルの中に入ると、受付には、いつもの受付嬢が一人で座っている。 「いらっしゃいませ」 「やっぱり、ここにいましたか」 「はいー、受付嬢ですので」 「違うでしょう」 黒崎は、じっと受付嬢を見つめる。 「ねえ、神様?」 「……わかりました?」 「割と明確に。隠しているつもりだったんですか?」 「一応は」 にこり、と笑いながら、受付嬢は問いかける。 「ちなみに、どこでわかりました?」 「たとえば、運営委員には、人間の姿をしているのはあなただけです。言い換えれば、あなただけが種族的特徴を持っていない」 「あらー、そんなところまで見ていましたかー」 「ええ。それに、ルナが暴走した日。ちょうどいいタイミングで僕らの前に現れたり。そうでなくても、エルフであり他人を排していたルナと『友達』と言ったり。あなただけは、何もかも、普通ではなかった」 「またまたー。私は普通の事務員ですー」 「まだそう言いますか?」 「ずっと言い続けます。ここ大事です」 強情な人だ。いや、神か。 受付嬢は黒崎を見上げ、 「それで? 神様に、何か御用でしょうか。あ、今後のスケジュールとか?」 「それも、知りたいですが。それよりも、もっと先のことを」 「もっと先、とは?」 「もう一度、この大会を開くことはできませんか」 「……はい?」 小首をかしげる受付嬢に、黒崎は続ける。 「僕が貰う力を懸けて、もう一度、いえ、定期的に、こんな大会を開きませんか。ちょうど、僕らの世界でのオリンピックみたいに」 「神の力が金メダルというわけですか? でも、それでいいんです? あなたは力を失うことになりますが」 「構いません。それに、僕には、過ぎた力だと思う」 そう、ただの人間に過ぎない自分には。 「みんなの願いを、叶えるだけ叶えて。できることはやって。そうして、普通の人間に戻る。それで、いいんじゃないか、と」 「力を失った後で悔いても遅いですよ」 「その時は、その時で」 「行き当たりばったりですね」 「そういうのも含めて、僕だから」 結局、ずっとその場で流されてきただけだ。 なるようにしかならない。そんなことを、この大会の間、ずっとやってきた。 力を得れば、できるようになることは増える。でも、それでも、ルナのように餓えている者はいたのだ。 力だけではどうにもならない。なら、力は、持ち回りにすればいい。 それに。 「その方が、ずっと、楽しそうだから」 少しだけ笑う黒崎に、受付嬢もまた、にこりと笑う。 「ふふっ。いいですね、いいですねー。楽しいのは大好きです。いいでしょう、そうしましょう」 「ありがとうございます」 「いえいえ。ご用件は、それだけですか?」 「いえ、もうひとつ。……ルナを、どうして眷属にしたんですか?」 「強い感情を持っていたからです」 「強い、感情?」 受付嬢は頷き、 「私は色々な世界を眺め、その中でも、特級の感情を持っていた人を眷属としています。私の力の一部を与え、何をするか、眺めているんです。そういうエッセンスがないと、世界運営なんて面白くありませんし」 「じゃあ、ルナが危ない状況だったのも、知っていたんですか」 「当たり前です。私は全知ですから」 「そうですか」 深く息を吐いた黒崎は、 「失礼」 パンッ、と受付嬢の頬を張っていた。 はたかれた受付嬢は、 「……もちろん、あなたの思っていることも、やろうとしていたことも、わかっていましたよ? わかっていて、受けてあげました。自分に非があるとは思っていませんが、人間の基準で言えば、非道な行いでしたでしょうね」 「それがわかっていてなお、どうして彼女を助けてやらなかったんですか」 「それは神が行うことではありません」 ぴしゃり、と言ってのける。 「彼女の味方をするということは、それ以外に敵対するということです。たとえば彼女の世界では、森に奇病が蔓延していました。それまで天才魔術師として称えられていたルナちゃんは、奇病の解決を求められた。けれど、それは当時のエルフが持っていた知識では不可能だった……。結果、彼女はそしりを受けることとなりました。私は、その様を、全て見ています。見ていますが、何もできません」 一息。神は続ける。 「私は全ての神。ルナちゃんの神であり、彼女に石を投げた者の神でもある。いずれかに加担することはできません。それは全てに共通することで、だからこそ、私はほとんど眺めているしかできないのです」 「それでも、神だと?」 「それが神なのです。私の思い描く、ね」 「……僕は、そんな風にはなれない」 「いいと思いますよ? 私は眷属に自分の力を与えますが、だからといって、力の使い方まで指導するわけではありません。使いたいように使えばいい」 「それで、たとえば、世界を破滅させたとしても?」 「最初にルナちゃんも言っていたと思いますがー、何をしても自由なのです。全部壊れたら、また作ってあげますよ」 しれっと言う受付嬢に、黒崎は戦慄した。 それは、決して埋まらない溝だ。 「あなたは、人間じゃない」 「はい、神ですので」 頭を振り、黒崎は深く息を吐く。 少しだけ、落ち着いた。 「質問は、終わりです」 「そうですか。では、パーティの続きをどうぞ。私が参加すると、ルナちゃん、怒るんですよねぇ。神が参加してどうするのっ、って」 「ええ。……あ、ひとつ、思い出しました」 歩きかけた黒崎は立ち止まり、振り返る。 「あなたに、名前はありますか?」 「んー、ありませんねぇ。いろんな世界でいろんな呼ばれ方をしますが」 「では、受付のお姉さん、で」 「はいー、お姉さんですよー」 にこりと笑う。 そんな神様に、黒崎もつられていた。 |