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目を開けると、木造の天井が見えた。 「……え?」 記憶と状況が一致しなくて、変な声が漏れる。 体を起こす。木造の床に天井、古びた黒板に、安っぽい蛍光灯。それしかない、ガランとした部屋。 「きょう、しつ?」 なんだ? なんで教室? 必死に思い出す。学校から帰って、いつも通りダラダラして、夕飯食べてお風呂に入って……。 そう、そしていつも通り寝たはずだ。だから、ここは自室のベッドでなきゃいけないはずだ。なのに、ここは……どこだ? 「ん?」 気がつけば、黒板に字が書いてあった。いや、最初から書いてあったのに、状況が不可解すぎて気づかなかっただけだ。 よくよく見れば、そこには【一年一組の教室へ】と書いてある。 混乱しながらも立ち上がる。と、違和感があった。下を見ると、服装まで変わっていた。 「え?」 見慣れないセーラー服。膝丈のスカートに、上着を持ち上げる不自然な膨らみ。触ってみると、明らかに胸があった。 「ど、どういう……こと?」 夢? それにしたって突拍子もないーー。 よくわからないまま、教室を出る。見上げると、二年二組の看板が出ていた。 廊下は片側が壁になっており、反対側はそのまま真っ直ぐ続いていた。 そんな廊下にも、一年一組の教室へ、と書かれた張り紙が1メートルおきに張られている。不思議に思いながら廊下を歩く。二年三組、二年四組と教室が並んでいる。 窓の外に目を向けると、別棟らしき校舎と、体育館のような建物が見えた。本当に何なんだろう……。 廊下の突き当たりが階段室だった。下か上かと考えていると、下に行く階段に人影があった。 「あっ、あの、ここは……ひっ!?」 ひ、人……だ。間違いなく人、だ。人が踊り場の壁にもたれ掛かっている。 けど、死んでいる。 僕が着させられているのと同じセーラー服。だけど右腕はちぎれてなくなっており、頭は潰されている。飛び散った血液が壁や床を汚していた。 「どういう、こと?」 とにかく降りる気にはなれなかった。仕方なく上に向かう。 最初の教室は一年四組と書かれていた。そのまま廊下を進むと、一年一組の教室を見つける。そこだけ、ざわざわと中から人の声がしていた。 扉を開くと、教室の中から一斉に視線を向けられた。 「あ、あの」 中にいたのは、セーラー服に身を包んだ女子ばかり。20人くらいだろうか? 手近にいた女子が僕の方に寄ってくる。 「あなたもここに連れてこられたんですか?」 「え? あ、うん。あの、ここは……」 僕が口を開こうとすると、女子は口に指を当て、右手を指した。 視線の先に目を向ける。教卓と黒板があり、黒板には大きく【ルール】と書いてあった。 【ルール 1:”学生”は、本当の名前を知られてはならない 2:”教師”に捕まった者はゲームオーバー 3:”教師”は”夜”の間のみ活動する 4:”卒業生”は”学生”のふりをする 5:”教師”は”卒業生”を襲わない 6:”学生”は”卒業生”を全滅させれば”下校”できる 7:黒板に本当の名前を書かれた者は”進路相談室”に監禁される 8:”学生”は校内にあるものを自由に使用してよい 】 「読みました?」 「読んだけど……」 振り返る。さっきの女子は指を一本立てた。 「ルール1。本当の名前を知られてはならない。何のことかわかりませんけど、こんな状況なんです。名乗らないで下さい」 「あ、ああ。そうだね」 「あとは教師とか卒業生とか、意味のわからない単語があるんですけど……」 そう、それらの単語も意味が分からない。けど、意味が分かるのに分からない単語もある。……ゲームオーバーに、全滅。 「んなこたぁどうだっていいんだよ!!」 声を荒らげたのは、長い金髪の女子だった。ひとりだけスカートが長く、どこか田舎のヤンキーみたいな雰囲気がある。 「んだよ、あの廊下にあった死体! テメエらも見たんだろ!? どうなってんだ、マジで殺しやがった奴がいるってことじゃねえか!」 「……」 階段で見かけた死体を思い出す。確かに、あれはどう見ても事故死や自殺じゃない。 でも、今、廊下にって……。もしかして、死体は複数? 「とにかく……!!」 「静かに」 ガラリと前の扉が開いた。入ってきたのは、何故だか巫女服に身を包んだ女だった。 巫女はつかつかと進むと、教卓の上に腰をかけた。天然だろうか、パーマのかかった金髪が巫女の衣装と合わない。 巫女は教室を見渡し、一人二人、と人数を数える。 「揃ってるね。じゃあ、説明を始めるよ。反抗は許さないからそのつもりで」 「あぁ!? どういう了見だ!!」 さっそくヤンキーが絡みに行くが、巫女がじろりとにらむと、ヤンキーの足が止まった。 「話を聞いておいた方がいいよ。生存率が上がるからね」 「生存、率……? だと?」 「そうさ。ルールは黒板に書いてある通り。”教師”はあんたたちを容赦なく襲う。逃げ切りたければ”卒業生”を見つけ、殺すしかない。そういうルールだよ」 「なんだ、と……!!」 巫女はにやりと笑う。 「何故、という理由を問いかけるのは無意味だぜ。ルールは絶対だ。失敗したら、廊下に転がってる奴らの仲間入りさ」 ごくりと喉が鳴る。ーー本当に殺される? 「とはいえ、わかっていないことが幾つかあるだろうから、その説明をする。まず、全員容姿が普段と違うことは理解しているね? 中には男から女になった奴もいるし、女のままでも身長や体重、肉体年齢だって普段と違う。もちろん、顔だって別人だ」 「……っ」 ヤンキーも息を飲んだ。さしずめ、あの人は元男だろうか。 「これは、正体を知られないようにっていうこっちの配慮だ。正体を知られた者はゲームじゃ不利だからね。なにせ、名前を書かれただけで監禁だ。逃げ場はないし、仲間からも切り離される。結果的に、そのまま死ぬしかない」 とはいえ、と巫女は続ける。 「名前がないと不便だからね。みんな通称を決めて貰う。ポケットに名札が入ってるだろ?」 言われてポケットをまさぐると、確かにネームプレートとサインペンが入っていた。 「そこに通称を書きな。名無しは問答無用でゲームオーバーにするよ」 「き、急に言われても」 「花子でもメガネでも漆黒の堕天使でも、なんでもいいよ。ハンドルネームと思えばいいだろ」 そう言われ、めいめいネームプレートに名前を書き出す。僕は咄嗟に何も思いつかなくて、ふと目についた蛍光灯から、『あかり』と書いた。 「名札は安全ピンで胸元につけておくように。さて、準備はできたかな?」 巫女はぐるりと見渡し、 「名乗ってなかったけど、アタシは『キー』だ。よろしくな」 さて、とキーは教卓から降りる。 「異常な状況は十分理解していると思うが、最後に念を押しておく。ここでは判断を誤った奴から死ぬ。死にたくなければ、必死に考えな。それじゃあ、ゲームスタート!!」 きーんこーんかーんこーん 間の抜けたチャイムが鳴り、前の扉が開く。そこから入ってきたのは、2メートル近い全裸の大男だった。 「いっ!?」 「きゃあああ!?」 大男は手近にいた女子の腕を掴む。 「えっ!? あっ、いやああああああああああああ!?」 叫ぶ女子の腕がーーそのまま、握り潰された。 |