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ぶらぶらと校内を歩くと、食堂を見つけた。 特にお腹が空いているわけではなかったけど、中に誰かいるかもと思い、覗いてみる。 薄暗い食堂は、ぼんやりと麦球に照らされていた。入って正面にカウンターがあり、奥に厨房が見えている。右手の方には長テーブルと椅子が並び、二人の生徒が座っていた。 「ん」 二人も僕らに気づき、こちらを向く。 「よう。お前らも参加者か」 「うん。君たちも?」 「見ての通りだ」 椅子の上で片膝を上げた生徒が言う。顔は普通に可愛い女の子だけど、態度の端々が男子っぽい感じだ。下着が見えているけど、本人は気にした素振りもない。 「オレは……。まあ、”カラテカ”だ」 「あ、どうも。あかりです」 「リリパットです」 僕らが名乗ると、カラテカさんはこくりと頷く。 「こいつは”マジシャン”だと。霊能力があるってんで話を聞いてたんだ」 「霊能……?」 カラテカさんの正面に座っていたのは、小柄な女子だった。こちらはカラテカさんと正反対で、ぴしりと背筋を伸ばしている。どういう理屈か、髪色は綺麗な銀だった。 マジシャンさんはこちらを見やり、 「霊能力。信じる?」 「え、っと……」 「まあ、信じられないのも無理はないけど。この状況、超常現象が起きていることだけは認めるでしょう?」 「それは、そうですね」 人の見た目を変えたり、性別を変えたり。どことも知れない場所に転送したり、鍵もかかっていない窓を閉鎖したり。 どれもこれも超常的な現象だ。それも、ただの超常現象じゃない。とてつもない規模だ。 「この学校、現象の根幹は分からないけど、とてつもない力が渦巻いている。何か深い恨みがあるんだと思う」 「深い恨み?」 「ええ。強い恨みがある人間は、死んでも死にきれない。それらはえてして霊体となる。恨みという感情をロープにして、対象に結び付くイメージ」 「はぁ」 「地縛霊と言うでしょう? 交通事故で亡くなった人間がその場に残る現象。これは、自分を轢いた車や、その場所そのものに結び付いた状態。そんな感じだと思うわ」 「地縛霊って、この校舎に、ってこと?」 「そうね。きっと根幹となった人物は、この校舎に対して強い感情があったんじゃないかしら。今際の時、その感情が邪魔をして成仏できず、この世に残ってしまった」 「そいつをどうにかしちまえば、オレたちも学校から出られるんじゃねえかってわけだ」 「なるほど……」 ゲームのルールとは直接関係ないけど、横紙破りでも脱出できる方法があるなら、それに越したことはない。 「問題は、どいつが根幹か分からねえってことだ」 「それはマジシャンさんでも分からないんですか?」 「ええ。校内に渦巻いている呪いが強すぎる。大勢の怨嗟が校内を埋め尽くしているの。いったいどれだけ死んだのか……。想像もできないわ」 「……」 校内では遺骨を何度も見ている。実際、昨日殺された人だっている。 あれが何度も繰り返されていたとしたら……。死者はどれほどになるのか。 「でも、今までそんな遭難だの行方不明? なんて聞いたこともないです。そんなにたくさんの人が犠牲になるなんてこと、あるんでしょうか」 リリパットが首をかしげると、マジシャンさんはくすりと笑った。 「年間8万人」 「え?」 「警察に届けられている行方不明者の総数よ。20代より下に限っても年間3万人は行方不明になる」 「そ、そんなにいるんですか?」 「交通事故や殺人事件なんてのもあれば、単純な失踪、高齢者なら徘徊もある。人が姿を消すなんて、そんなに珍しい話じゃない。警察だっていちいち捜索していられない。ほんの数十人ばかりが失踪したところで、その程度で騒ぐ人なんていないわ」 「そんな……」 「だから、このゲームそのものもいつから行われているのか、とんと想像できない。手がかりが少なすぎる」 「それだと除霊? はできないんですか?」 「そうね」 マジシャンさんは頷き、 「これほど大規模な霊的現象を起こせる相手なら、ちゃんとした除霊が必要になる。簡単に除霊できるとは思えないから、大本となる相手を倒さないと」 「大本っていうと……。やっぱり、あのキーって人なのかな」 最初に出会った、謎の女性。 人を食った態度をしていながら、ごく当たり前のようにゲームを執り行っていた。普通の人間とはとうてい思えない。 けど、マジシャンさんは首を横に振った。 「彼女が関係していないとは思わないけど、彼女一人の問題でもないと思うわ」 「一人じゃない?」 「そう。幽霊ってね、一人じゃたいした力にはならないの。どれほど強力な幽霊でも、しょせん一人なら一人分の力にしかならない。その程度では、これほどの現象は引き起こせない」 「じゃあ……」 「たくさんの霊が関わっているのだと思うわ。霊団と呼んでいるのだけど」 「霊団?」 「キーだけでなく、校内を彷徨いている教師も、あるいは卒業生もそうかもしれない。相手は全員、別個ながらひとつの”個体”になっているのだと思う。だからこれほどまでの力が発揮できる」 一人で持ち上げられない荷物を、みんなで協力して引っ張るようなものだろうか。 「そこで問題になるのが、さっきのロープの例え。交通事故で亡くなった人はその場に縛られる。でも、交通事故で亡くなった霊と自殺した霊が一緒の霊団になると思う?」 「……なんとなく、あんまり一緒に活動するイメージではないですね」 「そう。霊団となるためには、それぞれに共通点が必要になるの。経験上だけどね」 「ってことは、ここの霊団には、何かの共通点がある……。それが大本?」 「そう。その点、キーと教室を襲った大男、あまり共通点があるように思えないの」 確かに。 見た目もまったく違うし、雰囲気も違った。大男は自我もない、ゾンビみたいな感じ。キーは理性的だったし、大男にはない凄みもあった……。 「たとえば、キーが学生で、この学校で亡くなったとしましょう。まあ学生には見えなかったけど、それはさておいてね」 「ええ」 「その場合、あの大男はどんな存在だと思う? まさか学生ではない。かといって、本物の教師にも見えない」 「それは確かに」 「百歩譲って、大男とキー、二人とも学校関係者とする。それでも、二人とも学校に縛られているのはなぜ? 学校で死んだってそこまで縛られるものではないでしょう」 「うーん……?」 「だから、現象の根幹が分からないの。学校でゲームをしているあたり、この学校に何かの秘密はありそうだけど……。その秘密が分からないと除霊ができない」 「秘密、か」 「そういうこった。だから、それを探そうって相談してんだよ」 「カラテカさんも霊能力とかあるんですか?」 「いんや。オレはそういう話に関しちゃパンピーだ。けど、名前の通り格闘技の経験はある。で、この体になっても多少は元の経験ってやつが生きてるみたいでな」 カラテカさんは手をグーパーと握り、 「昨日もオレを襲ってきた野郎をぶちのめして逃げてきた。連中、力は強ぇけど、格闘技ができるって感じじゃねえ。タイマンなら、まあまあ勝てそうだ」 「それは心強いです」 霊能者のマジシャンさんに、格闘家のカラテカさんか。この二人となら、謎の多い校舎にも立ち向かえるかもしれない……。 「とにかく、この校舎について知りたいわ。来歴、所属した生徒、そもそもこんなゲームをしていても誰も来ない理由……。ここが異空間だとしても、この校舎そのものが全部想像の産物とは思えない。何か元になるものがあったはず」 「それなら図書室を調べてみてはどうでしょう。歴史のある学校なら、来歴とか歴史書があるかもしれません」 「なるほど。それはいいわね」 「んじゃ、行ってみっか」 がたりと立ち上がる二人と共に、僕らは食堂を後にした。 |