図書室は別棟の3階にあった。
 窓辺にカウンターが並び、全体的に食堂よりも明るかった。本が日焼けしないようにするためか、窓に背中を向ける形で本棚が並んでいる。窓の向こうには稜線が見えていた。
 四人で手分けし、必要な資料を探す。僕も背の高い本棚に苦労しながら一冊ずつ調べていると、部屋の隅でリリパットが僕を呼んだ。
「あかりちゃん! あの本じゃないですか?」
 リリパットが手招きする棚を見てみる。上の方に、豪華な装丁の本があった。

『月暈学園五十年史』

 中を開くと、白黒写真で木造の校舎が写っていた。雰囲気からして、おそらくはこれが僕らの閉じ込められた校舎だろう。
「なんて読むんだろう」
「つきかさがくえん、だそうです」
「なるほど。おーい、カラテカさん! マジシャンさん!」
 二人を呼び、一緒に学園史を見る。
「月暈……。知ってっか?」
「初めて聞く」
 四人とも聞き覚えのない名前だった。
 開いてみる。この学校ができたのは、戦前のようだ。当初は中学校として、それなりに賑わっていた様子がある。
 校舎も広く、三階建ての本棟と別棟、それに体育館ーーここでは体操場と書かれているが、それらが併設されている。当時としてはかなり珍しい規模の建物であったようだ。
「最初に集められた建物が本棟、ここが別棟か」
「体操場はまだ行ってないわね」
「要するに体育館だろ? 使えそうなものがあるとは思えねえな。まあ、鬼ごっこで逃げ込むにはいいかもしれねえが」
「それはそうね。……それにしても、この本にはあまり特徴的なことは書いてないね」
「まあ、何か問題があったってこんなもんに書くとは思えねえわな」
「でも、なんとなく来歴はわかりましたよ」
 中学校として活用されていた月暈学園は、ある日、廃校となる。それがちょうど創立50年の節目ーー昭和30年代の頃らしい。他にも見つかった書類の中で、最も新しい日付のものは、昭和39年の3月22日。これ以降の書類や本は見つかっていない。
「昭和39年ね。生まれるずっと前の話じゃんか」
「当時中学生だった人がいたとしても、70以上のお爺ちゃんだものね」
「さすがにそんな年寄りがこんな怪奇現象を起こしたとも思えねえけど」
 そうだ。
 50年以上も以前に廃校となった校舎。それがまだ残っていることさえ不思議なレベルだ。ましてや、そんな校舎でデスゲームを開くなんて……。
「うーん。マジシャンさん。たとえば、仮にこの中学を卒業した人が亡くなったとして、校舎に囚われる可能性はどのくらいあると思う?」
「ほぼゼロ」
「そりゃそうだよねぇ」
 中学校にどれほど思い出があったとしても、死に際に思い出すほどのこととは思えない。人間、生きていれば良いことも悪いことも、もっとたくさんあったはず。
 50年前のことが一番の思い出になる人生なんてことは……。
「……。ねえ。この学校の呪いって、いつからあるのかな」
「え?」
「学校は50年以上も前に廃校となったわけでしょう。廃校になった後にこの学校の呪いが始まったとして、それは何年前のことなのかな、って」
「調べようもないけど……。確かに、昨日今日の呪いって感じではないわね」
 マジシャンさんの言う通りだ。
 この校舎には僕ら以外の遺骨がある。彼ら彼女らがいつ殺されたのか分からないけど、少なくても僕らの前にゲームをしていたことはあるってわけだ。
 それなら、ここ数日で発生した呪いじゃない。
「廃校になってから何十年かの間に、何か事件があった。その人たちが強い恨みを持っていて、だから校舎に呪いがかかった……?」
「それもおかしな話ですよ。なんで廃校になった校舎に恨みを持つ人が出るんですか」
「……つまり、誰かが廃校になった校舎を使ってやがったってことだろ」
 カラテカさんはコキリと首を鳴らした。
「まっとうに卒業した連中がなくなった学校に強い恨みを持つとも思えねえ。それ以降に学校を使った輩がいるんだ。それも、あんまり良くない思い出が生まれる何かをな」
「良くない思い出?」
「チーマーとか半グレとか、暴走族とかもだな。ああいう居場所のねえ連中ってのは、廃校とか廃ビルを根城にすることがよくある。そういう連中が死ねば、まあ学校に囚われる幽霊ってのがいてもおかしくねえだろうよ」
「暴走族……」
 言われてみれば、あの大男は、あまりまっとうな社会で出会うタイプじゃなかった。雰囲気からして、確かに反社会的存在って言われても納得できてしまう。
「あの大男が族の人間だとして、そいつが何かやらかし、死んじまった。それらが霊団として学校に残っちまった。そんなところじゃねえのか」
「なるほど……。じゃあ、キーも暴走族の仲間?」
「どうだ、マジシャン」
 くちびるに指を当て、何かを考えていたマジシャンさんは、虚空を見つめながら答える。
「可能性としてなくはない、ってところかな。その、暴走族がまとめて死んだ事件の原因が何かにもよるんだろうけど」
「よくあるのは暴力事件とか、あとは火事とかだろうけど。あるいは非合法薬物だな」
「学校が燃えた形跡はないし、暴力沙汰とかなら……。でも、それで学校に恨みを持つかしら」
「生前根城にしていた場所から離れられなくなったってのは?」
「なくもない。……そうね、情報は限られるし、とりあえずその方向で今晩にも除霊してみようかしら」
「除霊って、あの大男と対峙するってことですか?」
 リリパットの言葉にマジシャンは頷く。
「ダメならカラテカの手を借りて逃げる。倒せなくても、そのくらいはできるわよね?」
「任せておけ」
「昼間のうちに可能な限り罠とかも用意しましょう。そうすれば成功率は上げられる」
 頼もしいな……。僕には除霊しようなんて手段、選択肢にすら入れられなかったのに。
「できる限りお手伝いします」
「荒事は任せな」
「じゃ、じゃあ僕もできることを。指示を貰える?」
 マジシャンは頷き、
「それじゃ、まずは校内を回って使えるものを集めましょう。そして”教師”を除霊する」
「おー!」