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『校内放送です。阿久津仁教諭が病欠したため、副担任の羊山早苗教諭、狐塚志津香教諭、黒仙君枝教諭が授業を行います』 スピーカーから、無機質な声が響く。 「阿久津教諭、ってのは……」 「たぶん今倒した大男のこと、だろうな」 「じゃあひつじやま? こづか、それにこくせん……ってのは」 「”教師”が1人減って、3人増えたってことじゃ?」 「……げっ」 それはーーあまり良くない情報だ。 「とにかく廊下に出て様子を見よう。状況が分からないと動きが取れない」 「そうしようか」 動きを決め、四人でぞろぞろと校内を歩く。 校内は、さっきよりますます冷えている気がする。しばらく歩いていると、 「しっ」 カラテカさんが足を止め、口許に指を当てた。僕らも立ち止まる。 カラテカさんは窓を示している。そっと覗くと斜め前に渡り廊下が見えた。 ゆっくりと歩いている人影がある。通路の明かりに照らされるその姿はーー。 「……女の子?」 十代半ばか、そのくらいの女の子だ。しかも一糸まとわぬ全裸。それが、さながらゾンビのように、体を隠すこともなくフラフラと歩いている。 「あれが新しい教師?」 「教師って割には若すぎるように見えるけど。それに女子だ」 「じゃあ、教われた生徒の一人?」 「それにしちゃ様子が尋常じゃない」 「……たぶん、あれは霊ね」 覗き込んだマジシャンさんも言う。 「生気がない。死霊みたいだけど……。ちょっと引っ掛かるわね」 「何が?」 「……なんでもない。そういえば大男もそうだったものね。とにかく、あれは幽霊。阿久津教諭と同じなら、腕力だって普通の人間より強いはず」 「近づかないほうが懸命、ってわけか」 「そういうこと。除霊したところで、さっきみたいに増加されたら困るわ。下手に手出ししない方がいい」 「理屈は分かるけど……。でも、それならどうするの? このまま逃げ回るだけ?」 「それだけじゃないわ。校内放送の通りなら、あれ以外に二人の教諭がいるはず。そいつらの姿を見てから対策を練りましょう」 「……オーライ」 全裸の幽霊に見つからないよう、こそこそと窓の下に隠れながら三階に移動し、途中の窓から校内を見渡した。 「いた。中庭」 そこにも全裸の女がいた。さっきの女の子よりは年上、二十代だろうか。少し派手な髪色で、やはりふらふらと歩いている。 「右下。一階の教室にも」 マジシャンさんが示したのは、一階の教室だ。窓際に佇んでいるのはやはり少女。こちらはセーラー服を着ている。 服装も僕らと変わらないのに幽霊だと断言できる理由はひとつ。首が折れ曲がっているからだ。90度に曲がった首は、人間ではありえない。 「やはり幽霊が三人増えたんだ」 「あれが羊山、狐塚、黒仙っていうわけだね」 どれがどれだかは分からないけど。 「ついでに、除霊が効かなかった理由も分かったわ」 「それは……っ!?」 僕の言葉は、きゃあああ、という悲鳴にかき消された。 窓の外を見る。中庭で、生徒らしき女子が金髪女に襲われていた。 「ありゃ腕を脱臼したな……」 痛みのせいか恐怖のせいか、泣きじゃくる生徒。けれど金髪女はお構い無しに蹂躙する。 服を破かれ、足を折られる。逃げられなくなった女子に対し、金髪女は馬乗りになった。 中庭を赤く染めながら、金髪女は女子生徒で遊んでいた。腹を殴り、髪を引きちぎり、ボロボロにして……。 「すごい力ね。女の腕力じゃない」 「それも、幽霊の力でしょうか」 「かもね。とにかく、女と思って油断してると、組み敷かれた時点でジエンドだわ」 響く甲高い悲鳴。それが徐々に弱まり、やがて聞こえなくなった。 そこに転がっていたのは、もはや無惨な死骸。校内に転がっていた遺体は、こうやってできていたのか……。 「……胸くそ悪い光景だな」 そうは言いつつ、助けには行かなかった。いや、行けなかった。ここから中庭まで向かってもとうてい間に合わないし、そもそもその前に他の教師に見つかってしまうかもしれない。 自分で自分に言い聞かせつつ、それでも、腑に落ちた気はしない。 「気分のいい景色じゃなかったけど、結論はひとつね」 「結論?」 「あの三人も、消した阿久津教諭も、全部でひとつの幽霊なんだわ。だから一匹だけ消しても意味がないし、全員で力を共有しているから、霊力も腕力も並外れたものになる」 「じゃあ、片っ端から消していけば……」 「こっちが持たないわよ」 マジシャンさんいわく、除霊というのはそれなりに気合い的なものを消費するのだそうだ。今晩はすでに阿久津を消したので、さらに三人も除霊をするのは難しいとのこと。 「それに、あの三人を消したところで、新しく10人とか出てきたりするかもしれないでしょう」 「……なるほど。それなら、どうしたらいいんでしょう」 「コアを探すことね」 マジシャンさんは座り込み、ふう、と息を吐く。 「あれほどの霊団。どこかにコアとなる幽霊がいるはずよ。そいつを除霊すれば、たぶん他の幽霊も消えるはず」 コアとなる幽霊がこの世とロープで繋がり、他の幽霊はコアにロープで繋がっているーーそんなイメージだろうか。 コアさえ切り離せば、風船がどこかに飛んでいくように、他の幽霊も消えてなくなる、と。 「それじゃあ、コアを探さないと」 「でも、コアって?」 「そんなの決まっているじゃない」 マジシャンさんは鼻を鳴らした。 「一人だけ自我を持つ、生徒でも教師でもない存在。そんな相手は知るかぎり一人しかいなかったわ」 最初に出会った、異質な存在。 キーだ。彼女は名の通り、鍵なのかもしれない。 「でも、キーってどこにいるの? 校内をかなり歩いた気がするけど、そもそも見かけたことさえないよ」 「姿が見えなくても存在していることは確定的な場所なありますよね」 すると、リリパットがそんなことを言った。 「わかりませんか? 放送室です。校内放送をかけているのがキーさんなのでは?」 僕らは顔を見合わせ、お互いに頷き合った。 |