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放送室の場所は昼間のうちに確認している。渡り廊下を進み、一階へ。 角にある部屋が放送室だ。昼間は鍵が掛けられていて入ることはできなかったけど……。 「じゃあ、開けるよ」 木扉のノブを握り、回してみる。当然のごとく開かない。 「よし、どけ」 カラテカさんが僕と代わった。扉を前に構え、 「ハッ!!」 思いきり蹴り飛ばす。ビシリと扉がひしゃげ、内側にひん曲がった。 「あかり、一緒に体当たりだ」 「あっ、はい」 「いくぞ、せーのッ!!」 カラテカさんと一緒に扉へ当たる。内側に無理やりねじ曲げた扉は、そのままバタンと倒れた。 放送室はそれほど広い部屋ではなかった。マイクと何かの機材、そして丸椅子がひとつきり。 「なんだい、騒々しいねぇ」 そこにいたのは、巫女服に身を包んだ女だった。 「こんなところに来ても卒業生のヒントはないよ?」 「けど、あんたを消したら脱出はできそうじゃない?」 マジシャンさんがじりりとにじり寄る。キーは鼻を鳴らし、 「アタシを殺したところで事態は解決しないよ。そういうルールじゃないだろ?」 「ふうん? じゃあ、卒業生を全滅させない限り脱出は不可能だと?」 「そうとは言わないけどね。でも、アタシは”鍵”じゃない」 キーはくすくすと笑う。 「それに、あんた程度の霊能力者じゃ、アタシを殺すのは無理だよ」 「へえ? 言ってくれるじゃない」 マジシャンさんは手で印を組み、呪文を唱える。 「ナウマクサンマンダバザラダンカン!!」 「神風清明急々如律令」 同じようにキーが指を振ると、窓もない部屋なのにふわりと風が流れた。 そして、何も起こらない。 「……っ!」 「マジシャン、どうしたんだ」 「かき消されたわ。こっちの力を」 「んなことできるのか!?」 「それができるくらい、アタシが優秀ってことさ」 当然だろ、とキーは言う。 「アタシを倒したければ、出直してきな。とはいえ、さっきの騒音で教師が集まってくると思うけどね?」 「ッ!!」 慌てて放送室から飛び出す。廊下の両側に、裸の女がいた。ーーさっきの”教師”だ。 「くッ……!!」 どっちの女も正気の眼差しではなかった。焦点は合っていないのに、確実にこちらをロックオンしている……。 「どうする?」 「強行突破っきゃねえだろ!!」 カラテカさんが女の一人に飛びかかった。相手の腕をかわし、腹を蹴り抜く。 床に叩きつけられ、しかし教師はダメージを受けた様子がない。 「ちっ。痛みがねえのか……」 「それどころか、呼吸しているかも怪しいわね」 中庭で殺された人のことを鑑みるに、教師の腕力は桁違いだろう。カラテカさんは体重を乗せた蹴りが上手いから弾けるけど、僕じゃ捕まってしまうのがオチだ。 「せめて武器は……!」 こんなことなら、昼間のうちに武器を集めておくんだった。 カラテカさんとマジシャンさんが背中合わせに構え、僕らを守る形を取ってくれた。 「捕まったら逃げきれねえ。なんとかぶっ飛ばして、全速力で逃げるっきゃねえぞ」 「そうだけど、意識でもそらせないとね」 「それは……」 じりじりと迫る教師たち。意識をそらせるなんて絶対に無理だ。 そうなればーー飛び込むしかない。 「マジシャン、あかり、リリパット。向こう側を蹴散らす。そのまま突進しろ」 「……それは」 「誰かは捕まるかもしれねぇ。けど、今はそれしかない」 「わかった」 じりじりと迫る敵。次の瞬間、 「今だ!!」 カラテカさんが動く。豪快な回し蹴りで教師を弾く。 「ッ!!」 僕らは駆け出した。よろめいた教師に体当たりしながら、そのまま全速力。 ドタバタと廊下を逃げ、何度か廊下を曲がり、階段を上り降りする。息が持たなくなったところで、自然と足が止まった。 「はぁ、はぁ……」 後ろを振り返る。リリパットは汗を拭い、カラテカさんは後方を警戒していた。 廊下に裸の女はいない。どうやら逃げきれたらしい。 「……あれ? マジシャンさんは?」 「逃げ損ねたみてえだな」 「それは……」 もう手遅れ、ということだ。 「戻ってみるか? 連中も、もういねえだろう」 カラテカさんの先導で、放送室の前に戻る。やはりと言うべきか、そこには教師もキーもすでにいなかった。 廊下にあったのは、無惨な死体となったマジシャンさんだけだ。 「っ……!」 今まで殺されていたのは、言うなれば見知らぬ相手だった。それだけでも結構つらいものはあったけど、顔見知りが殺されてるとなると、また違う感情が込み上げてくる。 二人に襲われたのだろうか。廊下は血と肉が飛び散っていた。 マジシャンさんの綺麗な顔は、皮が半分剥がされ、肉が露出していた。両目は潰れているし、左手は指を千切られたらしく、廊下に転がっている。 「すぐには殺さなかったみたい、だね」 「わかんのか?」 「血が凄く飛び散っている。切り傷なんかはそんなにないのにね。つまり、生きている間に怪我を負わされたんだ」 脱がされたのだろうか、廊下に片隅に落ちていたスカートを拾い、マジシャンさんの顔にかけた。下半身も隠してあげたいけど、毛布があるわけでもない。股関節は砕かれていて、股間は大きな穴がぽっかりと開きっぱなしになっていた。 「汚ぇ殺し方だな」 綺麗な殺しなんてものがあるのか知らないけど、カラテカさんの言いたいことはわかった。皮を剥いだり、股間の肉を引きちぎったり、指をむしったり。 さながら、幼い子供が昆虫をいじめるような残酷さ。邪気があるのではなく、純粋な興味の赴くままに破壊したような痕跡。 「でも、捕まったらみんな、こんな風に殺されてしまうんですよね……」 リリパットの言葉が耳に響く。 ただ殺されるだけなら、まだマシだったかもしれない。教師は、男女関係なく、なるべく苦しむような殺し方をしてくる。 「マジシャンさんなら、霊力で抵抗できたようにも思えますけど……」 「たぶん阿久津やキーを除霊しようとしたから、力が発揮できなかったんじゃねえか。一晩に全員除霊はできないとも言っていたし」 問題はそれだけじゃない。あれほど凄い霊能力者だったマジシャンさんでも、どうにもならないような相手なんだということ。 「……捕まったら、なるべく自分で死んじまった方が楽かもしれねえな」 カラテカさんの言葉が、重く響いた。 「問題は、それだけじゃない」 そして、僕は言う。 「霊団を除霊できる可能性があったのはマジシャンさんだ。彼女が殺された今、除霊という手は使えない。僕らは、ゲームのルールに則って……。卒業生を殺すしか、脱出方法がなくなったんだ」 |