そのまま夜が明けた。
 僕らはマジシャンさんの遺体を担ぎ、中庭に出た。
 1階から出られる中庭は、ぐるりと校舎や体操場に囲まれた場所だ。外ではあるけど、外に繋がっているわけじゃない。この学校で唯一空を拝める場所、というだけの話だ。
 用具室から持ってきたスコップを手に、中庭の土を掘る。僕とカラテカさんで協力し、二人分の穴を掘ったところでマジシャンさんと、中庭で殺されていた人を埋葬した。
 全ての遺体を埋葬することはできないけど、せめて可能な範囲くらいはという配慮だ。
「……」
 黙祷を捧げる。ひとしきりお祈りが済んだところで、カラテカさんはよし、と気合いを入れた。
「悲しんでだって始まらない。次の手を考えないとな」
「次の手と言っても……。卒業生を見つける、ってことになるけど」
「でも、ノーヒントなわけですよね。見つける方法なんてあるんでしょうか」
 リリパットの言う通りだ。
 これが人狼ゲームであれば、会話によって狼を見つけることもできるだろうけど……。
「……そっか」
「うん?」
「まだ生き残っている人がどれだけいるのか分からないけど、みんなで協力すべきじゃないかな」
 僕の提案に、カラテカさんは眉をひそめた。
「集めれば集まっただけ、その中には卒業生もいるってことだぞ」
「でも、僕らだけじゃ解決できないのは昨日の晩で証明できている。みんなで協力しないと、ここから脱出するのは無理だよ。それに、生き残ったみんなの話を聞けば、誰が卒業生なのか分かるかもしれない」
「そうは言ってもな……。集まってくれるか? それ以前に、どうやって集める?」
「放送室を使おう。放送をかけて、みんなを広い場所……。そうだな、体操場にでも集めて、相談するんだ。一致団結すれば、教師たちが出てくる時間になってもなんとかなるかもしれない」
「……一理あるか。まあ、他に打つ手もねえんだ。やってみるか」

☆   ☆   ☆   ☆


 昼間の放送室には誰もいなかった。
 校内放送で、体操場に集まるよう呼びかける。その後、僕らも移動すると、すでに何人かが集まっていた。
「あ、あんたら? 放送かけたの」
 僕らに声をかけてきたのは、明るい茶髪の女の子だった。背が低く、僕より頭ひとつ小さい。名札には【テリタマ】とある。
「この状況を打開するって、本気で言ってるわけ?」
「まあ、そのつもり」
「そうは言っても、どうするのさ?」
「それを今から話したいと思って」
 テリタマさんの後ろには数人の女子がいる。もっとも、キーの言う通りなら、本当は男性だったり女性だったりするのだろう。
「君たちは四人組、かな?」
「まあね。昨日までは八人で協力していたんだけど。そっちは三人?」
「こっちも一人やられたんだ」
「なるほどね。とにかく、教師って連中はヤバイ。腕力も半端じゃないし、捕まったら殺される。さっさと卒業生ってのを見つけないと……」
「それなんだけど。君たちは、何か卒業生のヒントらしきものは見つけた?」
「特には。襲われて、逃げ回って、とにかく必死だったもの。それどころじゃないわ」
 それも、相手の作戦なのかもしれない。とにかくこちらを恐怖させ、混乱させる。そうすることで冷静に推理する余裕を奪う。
「じゃあ、こっちが知っていることだけでも」
 僕らは教師が捕まえられる存在ーー物理的な対策が通じる相手であることを伝え、
「確かに腕力は女性でも凄いけど、拘束しちゃえば逃げられることはない。そうやって、数を減らしていこう。そうすれば夜中の安全が担保できる」
「ふうん。その、黒い糸とガムテープの作戦は悪くないわね」
 テリタマさんも納得したように頷き、
「でも、教師が増えたの、あんたらのせいじゃない」
「……予想できなかったんだ」
「おーけー。責めてるつもりはないわ。あたしたちは、あんなのと戦おうって考えもなかった。とにかく訳も分からないまま逃げ回るだけで……。そういう意味では、あんたらはちょっと尊敬してる」
「ごめん」
「いいんだってば。みんな、他に何か分かってることってある?」
 テリタマさんは仲間に聞く。けど、後ろの仲間たちは怯えるばかりで、ろくに話せる余裕もなかった。
「夜は無理しないで構わない。今のうちにガムテープとか武器になるものとか、色々なものを集めておきたいね」
「まあ、そんくらいなら協力できると思うわ」
「ありがとう。他にも、何か知っていること、わかっていることがあったら教えて欲しいんだけど……」
「そうは言ってもね。逃げ回っているだけで……。生き残っているのも奇跡みたいなものだわ」
 仲間が惨殺されているのなら、それも当然か。
 ……惨殺、か。
 マジシャンさんの遺体を思い出す。あれだけの力がある連中なら、馬乗りになって首を絞めるだけでも人を殺せたはずだ。でも、彼女の遺体はもっとズタズタに破壊されていた。
「なんで、だろうね」
「え?」
「なんであんな、むごい殺し方をするんだろう」
「なんでって。化物に理屈もクソもねえだろ」
 カラテカさんはそう言うが、僕はなんとなく納得できなかった。
「阿久津や、女教師たちなら理性は欠片もないって言えるかもしれない。でも、全ての核となっているのがキーなら、もう少し理性はあるんじゃないかな」
「理性、ね」
 言っていることがおかしいのは理解している。こんな超常現象が起きていて、あれほど狂暴な化物がうろつく建物にいるのに、理性だなんて。
 でも、少し話した限り、キーも理性を失った化物のようには見えなかったのだ。
「キーが惨殺を許しているのなら、そこには何か必然性のようなものがあるんじゃないかなって」
「必然性っつってもな。死んでから遺体を壊すってのなら、まだ分かんなくもねえよ? 遺体を隠すとか、色々な理由はありそうだからな。でも、ここの化物は生きたまま壊してくる。そこに理由なんてあるか?」
 そう、そこだ。
 マジシャンさんの遺体を見た限り、連中は生きたまま拷問するように痛めつけていた。
 そこに理由、必然性があるのか……。
「カラテカさん。テリタマさんたちと協力して、必要なものを集めてもらえませんか」
「お前は?」
「少し、遺体を調べてみたいんです」
「……何か分かるってのか?」
「分かるか分からないかは不明ですけど、遺体は確実に”教師と触れ合った”相手です。そこになら、何か連中と戦うヒントがあるかも」
「お、おう。そこまで言うなら構わねえけど。じゃあテリタマ、よろしくな」
「ん。ほら、みんな! 頑張りましょう! 今頑張れば夜も生き残れるかもしれないんだから!」
 テリタマさんが鼓舞する形で皆はぞろぞろと校内に向かう。
 けど、残ったのが一人。
「あれ? リリパット?」
「私も手伝ってもいいですか?」
「いいけど、死体を見るんだよ?」
「大丈夫です。それより、君の言うことに興味が湧いたんです。確かに、遺体を調べてみようなんて考えもしませんでしたから」
「そう? じゃあ、一緒に行こうか」
 僕はそう答えた。