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そのまま夜が明けた。 僕らはマジシャンさんの遺体を担ぎ、中庭に出た。 1階から出られる中庭は、ぐるりと校舎や体操場に囲まれた場所だ。外ではあるけど、外に繋がっているわけじゃない。この学校で唯一空を拝める場所、というだけの話だ。 用具室から持ってきたスコップを手に、中庭の土を掘る。僕とカラテカさんで協力し、二人分の穴を掘ったところでマジシャンさんと、中庭で殺されていた人を埋葬した。 全ての遺体を埋葬することはできないけど、せめて可能な範囲くらいはという配慮だ。 「……」 黙祷を捧げる。ひとしきりお祈りが済んだところで、カラテカさんはよし、と気合いを入れた。 「悲しんでだって始まらない。次の手を考えないとな」 「次の手と言っても……。卒業生を見つける、ってことになるけど」 「でも、ノーヒントなわけですよね。見つける方法なんてあるんでしょうか」 リリパットの言う通りだ。 これが人狼ゲームであれば、会話によって狼を見つけることもできるだろうけど……。 「……そっか」 「うん?」 「まだ生き残っている人がどれだけいるのか分からないけど、みんなで協力すべきじゃないかな」 僕の提案に、カラテカさんは眉をひそめた。 「集めれば集まっただけ、その中には卒業生もいるってことだぞ」 「でも、僕らだけじゃ解決できないのは昨日の晩で証明できている。みんなで協力しないと、ここから脱出するのは無理だよ。それに、生き残ったみんなの話を聞けば、誰が卒業生なのか分かるかもしれない」 「そうは言ってもな……。集まってくれるか? それ以前に、どうやって集める?」 「放送室を使おう。放送をかけて、みんなを広い場所……。そうだな、体操場にでも集めて、相談するんだ。一致団結すれば、教師たちが出てくる時間になってもなんとかなるかもしれない」 「……一理あるか。まあ、他に打つ手もねえんだ。やってみるか」 昼間の放送室には誰もいなかった。 校内放送で、体操場に集まるよう呼びかける。その後、僕らも移動すると、すでに何人かが集まっていた。 「あ、あんたら? 放送かけたの」 僕らに声をかけてきたのは、明るい茶髪の女の子だった。背が低く、僕より頭ひとつ小さい。名札には【テリタマ】とある。 「この状況を打開するって、本気で言ってるわけ?」 「まあ、そのつもり」 「そうは言っても、どうするのさ?」 「それを今から話したいと思って」 テリタマさんの後ろには数人の女子がいる。もっとも、キーの言う通りなら、本当は男性だったり女性だったりするのだろう。 「君たちは四人組、かな?」 「まあね。昨日までは八人で協力していたんだけど。そっちは三人?」 「こっちも一人やられたんだ」 「なるほどね。とにかく、教師って連中はヤバイ。腕力も半端じゃないし、捕まったら殺される。さっさと卒業生ってのを見つけないと……」 「それなんだけど。君たちは、何か卒業生のヒントらしきものは見つけた?」 「特には。襲われて、逃げ回って、とにかく必死だったもの。それどころじゃないわ」 それも、相手の作戦なのかもしれない。とにかくこちらを恐怖させ、混乱させる。そうすることで冷静に推理する余裕を奪う。 「じゃあ、こっちが知っていることだけでも」 僕らは教師が捕まえられる存在ーー物理的な対策が通じる相手であることを伝え、 「確かに腕力は女性でも凄いけど、拘束しちゃえば逃げられることはない。そうやって、数を減らしていこう。そうすれば夜中の安全が担保できる」 「ふうん。その、黒い糸とガムテープの作戦は悪くないわね」 テリタマさんも納得したように頷き、 「でも、教師が増えたの、あんたらのせいじゃない」 「……予想できなかったんだ」 「おーけー。責めてるつもりはないわ。あたしたちは、あんなのと戦おうって考えもなかった。とにかく訳も分からないまま逃げ回るだけで……。そういう意味では、あんたらはちょっと尊敬してる」 「ごめん」 「いいんだってば。みんな、他に何か分かってることってある?」 テリタマさんは仲間に聞く。けど、後ろの仲間たちは怯えるばかりで、ろくに話せる余裕もなかった。 「夜は無理しないで構わない。今のうちにガムテープとか武器になるものとか、色々なものを集めておきたいね」 「まあ、そんくらいなら協力できると思うわ」 「ありがとう。他にも、何か知っていること、わかっていることがあったら教えて欲しいんだけど……」 「そうは言ってもね。逃げ回っているだけで……。生き残っているのも奇跡みたいなものだわ」 仲間が惨殺されているのなら、それも当然か。 ……惨殺、か。 マジシャンさんの遺体を思い出す。あれだけの力がある連中なら、馬乗りになって首を絞めるだけでも人を殺せたはずだ。でも、彼女の遺体はもっとズタズタに破壊されていた。 「なんで、だろうね」 「え?」 「なんであんな、むごい殺し方をするんだろう」 「なんでって。化物に理屈もクソもねえだろ」 カラテカさんはそう言うが、僕はなんとなく納得できなかった。 「阿久津や、女教師たちなら理性は欠片もないって言えるかもしれない。でも、全ての核となっているのがキーなら、もう少し理性はあるんじゃないかな」 「理性、ね」 言っていることがおかしいのは理解している。こんな超常現象が起きていて、あれほど狂暴な化物がうろつく建物にいるのに、理性だなんて。 でも、少し話した限り、キーも理性を失った化物のようには見えなかったのだ。 「キーが惨殺を許しているのなら、そこには何か必然性のようなものがあるんじゃないかなって」 「必然性っつってもな。死んでから遺体を壊すってのなら、まだ分かんなくもねえよ? 遺体を隠すとか、色々な理由はありそうだからな。でも、ここの化物は生きたまま壊してくる。そこに理由なんてあるか?」 そう、そこだ。 マジシャンさんの遺体を見た限り、連中は生きたまま拷問するように痛めつけていた。 そこに理由、必然性があるのか……。 「カラテカさん。テリタマさんたちと協力して、必要なものを集めてもらえませんか」 「お前は?」 「少し、遺体を調べてみたいんです」 「……何か分かるってのか?」 「分かるか分からないかは不明ですけど、遺体は確実に”教師と触れ合った”相手です。そこになら、何か連中と戦うヒントがあるかも」 「お、おう。そこまで言うなら構わねえけど。じゃあテリタマ、よろしくな」 「ん。ほら、みんな! 頑張りましょう! 今頑張れば夜も生き残れるかもしれないんだから!」 テリタマさんが鼓舞する形で皆はぞろぞろと校内に向かう。 けど、残ったのが一人。 「あれ? リリパット?」 「私も手伝ってもいいですか?」 「いいけど、死体を見るんだよ?」 「大丈夫です。それより、君の言うことに興味が湧いたんです。確かに、遺体を調べてみようなんて考えもしませんでしたから」 「そう? じゃあ、一緒に行こうか」 僕はそう答えた。 |