校内を歩くと、遺体はいくらでもある。廊下にあった遺体もそのひとつだ。
 もともとはロングヘアだったようだけど、髪が無理やり引きちぎられていた。腕がおかしな角度になっているのは、おそらく脱臼しているのだろう。
 両方の足は甲が割れ、血塗れになっている。太ももは付け根からヘソの当たりまでがぐちゃぐちゃで、原型を留めていなかった。執拗に破壊したのかもしれない。
「これを見て、何か分かりますか?」
 リリパットは口許を押さえながら言う。確かに、見ていて気分の良い光景じゃない。
「んー」
 カラテカさんが言っていたことを意識して周囲を見てみる。血液の飛び散り方は確かにひどい。天井にも血がついているところを見ると、噴水のように出たということ。
 つまり、出血した時点ではまだ心臓が動いていたということだ。
「生きたまま傷つける……」
 やっぱりそうだ。どの遺体も、必ず死ぬ前に傷をつけようとしている。裏を返せば、傷つけられない時は殺さないということだろうか?
 リリパットも言っていた通り、教師は僕らを殺したいのではなく、”惨殺したい”ってことなんだろう。ただ殺しても意味がないんだ。
「なんでだろう。逃げ回る僕らを見て楽しんでいるのか……。拷問もそういう趣味……?」
 自分の言葉が、なんだかしっくりこない。
 何かを忘れているような。
「たしか、マジシャンさんが何かを……」
 彼女の言葉を思い出す。霊団。この世と結びつくロープの例え。
 そう、ロープ。すなわち共通点。
「共通点?」
 遺体はすべからく、死ぬ前に惨殺されている。それが共通点だとしたら?
「ここの霊団は、惨殺された被害者の霊?」
「え?」
「こういうのはどうだろう。廃校となった校舎で、誰かが殺人を犯した。しかも、限りなく残酷な方法で。だから、残酷な方法での殺人を求めている」
「……理屈は分かりますけど、それなら最初に拘束しておいて、一人ずつ拷問すればいいだけですよね?」
「あ、そっか」
「結局そこに行き着くんだと思います。なんで最初に拘束せず、逃げる余地を残しているのか」
「じゃあ、逃げ回った後に殺された幽霊がコアになってる。だから自分も、逃げ回る姿を見て楽しみたい」
「ありえない話ではないと思いますけど、逃げたっていう経験だけで結びつくものでしょうか」
「ありえないかな?」
「超常現象なのでありえないとは言えませんけど……。阿久津教諭は逃げ回ったって感じには見えません」
 そりゃそうだ。というか、あれほどの大男が殺されるなんてシーンを想像することも難しい。
 もちろん、こんな超常現象だ。理屈なんて言う方がナンセンスかもしれない。
 でも、何かしら理由はある気がする。
 ーー逃げ回る余地を残す、か。
「逃げ回って……。逃げきれた人はいるのかな」
「……?」
「ほら、このデスゲーム、とても今回が初めてとは思えないでしょう? 校内にたくさんの遺骨があるくらいだもの」
「それはそうですね」
「つまり、何度かこのゲームは行われている。その結果、逃げきった人はいるのかな、って」
「逃げきれていれば、噂くらいは生まれそうです。でも、そんな話はホラーでも聞いたことありません。私もそんなにホラー詳しいわけじゃないですけど……。でも、何かしらの話には出るんじゃないでしょうか」
「あるいは、逃げきれたら記憶を失くしているとか」
「それも、ありえないとまでは言いきれませんけど……」
「だよね」
 つまり、誰も逃げきれてはいない。
 それもそのはずだ。卒業生を探すなんて途方もない話、普通に考えたら成功するはずがない。在校生は、それこそ片っ端から生徒を殺して回るくらいしないと見つけようがないはずだ。
 それも、校内のどこかで隠れられたらどうにもならない。
 在校生側が圧倒的に不利なルール。そんなルールを課してまで、何をしたいのか。
「……疑問点を整理しよう。
 ひとつ、なぜ最初に拘束できたのに、キーたちは拘束をしなかったのか。
 ふたつ、なぜ教師は在校生を惨殺するのか。
 みっつ、この学校に捕らわれている霊団の共通点は何か。
 よっつ、なぜ中学校なのか」
 昨日、マジシャンさんと話した時のことを思い出しながら並べる。
「教師の行動には一貫性がない。拘束しないのに惨殺し、学校に束縛されているはずなのに中学との接点が感じられない。それらを解決するピースがあるはずなんだ。……そう、ピースが足りていないんだ」
「でも、必ずピースがどこかに隠れているとも限りませんよ。むしろヒントなんてどこにもないかも……」
「それはそうなんだけど」
 ノーヒントか。十分にありえる話なんだけど、なんだろう、違うって気がする。
 キーの人を食った顔が思い浮かぶ。
「たぶん、キーは……。この校内にヒントを用意しているんだと思う」
「そうです、か?」
「最初に言ってたでしょ。死にたくなければ必死に考えろって。裏を返せば、考えれば生き延びることができるってことじゃないかな」
「それは、ゲームで勝つとかそういう意味じゃ」
「そうかもしれない。でも、違うかもしれない」
 なんとなく。キーは、理屈も何も通じないような相手じゃない気がしているんだ。
 何かしかの道理があるはず。それにはまず、疑問を解決するためのヒントを探さないといけない。
 拘束できたのにやらなかった理由や、霊団の共通点を見つけるのは今すぐできることじゃない。可能なことと言えば……。
「この中学について知ること、かな」
 そう、とにかく最初の被害者は、間違いなくこの中学で発生している。そうでなければ、この学校に捕らわれる理由が生まれない。
 けど、普通の中学校で死人が出るなんて稀な話だ。ありえない話じゃないけど、そんなに頻繁に発生する話でもない。
 あの学校史を読み返すか? でも、あれにそんなマイナスの情報を載せたりしないだろう。可能性があるとしたら、日誌のようなもの……。
「職員室を、調べてみよう」
 ヒントになり得る日誌があるとしたら、きっとそこだ。