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ぽん、と肩を叩かれる。振り返るとリリパットが僕を見つめていた。 「冷静に。彼らのしていたことは許されることじゃありませんけど、今回の現象と直接関係あるとは限らないんですから」 「けど、女性霊はたぶんこいつらの被害者だ」 「忘れたんですか? マジシャンさんが言っていたでしょう。霊団になるには共通点が必要なんですよ? 監禁事件の被害者と監禁した側が、なんで共通した霊団になれるんですか」 「……それは」 確かにおかしい。被害者たちが阿久津を恨んで呪い殺したというのは理解できる。 けど、それなら阿久津と被害者は共通するものがない。ひとつにまとめられるロープがない。 あるいは、別々の霊団がそれぞれ暗躍しているとか? それならひとつにまとめるロープがないことは理解できる。 でも、それならお互いがお互いを攻撃しそうだ。少なくても、被害者女性たちは阿久津を憎んでいるだろう。関係のない一般人を殺害しておいて、阿久津やゼファーを狙わないというのは理屈に合わない。彼らは直接的な加害者なんだ。 「結局、キーが何者なのかって話になっちゃうのかな」 「そいつはおれも知らねえ……。見たこともないんだ」 「……それは議論しても仕方ないな。ゼファー、お前らはこの学校を根城にしていたんだろ? じゃあ学校の構造も知っているな」 「あ? あ、ああ。けど、学校の構造は少し違うぞ。おれらの改造した痕跡はいくらかなくなってる」 「構わない。案内してくれ。その、女性たちを監禁していたって場所に」 ゼファーが連れてきたのは二年一組の教室だった。僕が目覚めた時にいたのは二年二組だったので、その隣ということになる。だが、僕がいた二年二組との間には壁があり、通ることはできない。 「ここだよ」 他の教室は廊下から中を覗けるよう、廊下側が窓ガラスになっている。だけどここは、ガラスのところに鉄板が打ち付けられてあった。 「これもお前らの仕業か?」 「ああ。扉も外からは開くけど、中からは開けられないように鍵をつけてある。ほら、これだ」 スライドする扉にはダイヤル式の南京錠が三つもついていた。 「暗証番号は全部同じだ。333」 その通りにダイヤルを回すと、南京錠が外れる。 「開けるぞ」 「お、おい。今さらだけどよ、教師どもがいたらどうするんだ」 「ルール上、教師は夜しか活動できない。昼の今は大丈夫だよ」 「そんなん絶対じゃ……」 「うるさい」 僕はスライド扉を開く。中はガランとしていた。 部屋の中央にボロボロの敷布団。壁からはいくつもの鎖がじゃらじゃらと生えている。外側の窓も鉄板が打ち付けられていて、部屋の照明だけが光を放っていた。 「……誰もいないな」 ゼファーはあからさまにほっとしている。まあ、自分が傷つけた相手のいる場所なんて来たくはないだろう。こんな超常現象が起きていればなおさらだ。 「ここに女の子を拘束していたのか?」 「ああ。そこの鎖に繋いでいた」 ……まるで犬のような扱いだ。 いや、こいつらにとっては事実そうだったんだろう。人間として扱っていなかったんだ。 気分が悪くなるけど、それを言っても始まらない。 「この部屋に監禁していたんだな?」 「そうだ。窓に鉄板、出てすぐに壁があったろ? あれで階段の方に誘導するようになってる。ちなみに階段も3階のところで封鎖してあるんだ」 「それは後だな」 まずは鎖を調べてみる。 先端は枷になっている。鍵がないと開かないタイプで、今は輪っかが閉じていた。薄汚れているのはーー考えないようにしよう。 確かに、ここで拘束されていた人物はいた様子だ。けど、今はいない。輪っかが閉じている。 「……なんで閉じてる?」 「え?」 「この校舎が何かの契機で封じられたとして、その前の状態に戻るとは考えにくい。普通に考えれば、この校舎は封じられた瞬間から大きく変化していないと考えるべきじゃないか」 「そう、だな?」 「だとしたら、なんで鎖の輪っかが閉じているんだ?」 「そりゃ拘束してたんだから閉じているのは当たり前……」 「それなら監禁されていた女性たちの遺体がなきゃおかしい」 「あ」 そう。”輪っかを閉じたまま”抜け出ることはできない。なら、遺体はここにあるはずだ。遺骨でもいいが。 「誰かが遺体を別の場所へ移動させたって? 何のために?」 「そんなん知るかよ」 「もうひとつ疑問がある。ここに拘束されていた人は死んだってことになるんだけど、その人はどうして死んだんだろう」 「どうしてって?」 「呪い殺されたか、餓死したのか、ということですね」 答えたのはリリパットだった。 「そういうこと。阿久津たちが呪い殺されたというのは理由がはっきりしている。恨まれているからね。でも、傷つけられた女性たちの幽霊が同じ境遇の女性を殺すというのは理屈に合わないだろう」 「そういや……そう、だな」 「つまり、殺したのは女性霊じゃない。普通に考えれば、世話をする人がいなくなって餓死したってことだ」 「いえ、もうひとつ可能性があります」 リリパットは指を立て、 「餓死する寸前なら極度に痩せ細っていたはずです。もしかしたら、その状態なら枷から手足を抜けたかも」 「餓死とはいうけど、おそらくその前に脱水症状で死ぬと思うよ。だから抜け出る余裕はないんじゃないか」 「ああ、なるほど」 「そんなもん、どっちでもいいじゃねえか。この学校に残っていて生き残るヤツなんかいるはずねえんだ」 「大きく違う。死因が違えば、霊団として成立できる何かが変わるだろう」 首をかしげるゼファーに、僕は続ける。 「最初に、お前たちのせいで女性が何人も死んだ。死んだ女性たちはお前らに対して強い恨みを持つだろう。それらの恨みがより合わさって、強いひとつの幽霊が生まれたとする。そいつは阿久津を狙い、殺した」 「ああ、まあ、その理屈はわかるが」 「残された女性たちが、その後に餓死したとする。餓死した女性たちも阿久津へは恨みを持つだろうけど、とうの阿久津は死んでいるんだ。恨みをぶつける相手がいないから、すでにいる幽霊と共通するものを持てない」 「死因も違いますし、監禁されていたということだけしか共通しませんからね。ましてや、阿久津はそもそも監禁していた側。そうなると共通点は一切ありません」 「ただ、呪い殺されたのであれば、少しは納得できるんじゃないかと思う。自分を殺した相手が憎い、これは阿久津も後から死んだ女性たちも同じ感情を持つだろうから」 「先に死んだ方々も、自殺とはいえ遠回しに殺されたようなものですからね。そういう意味では共通する心を持つかもしれません」 殺された者たちが、自分を殺した相手を憎む心を中心にしてより集まっている。 ……仮にそうだとして、無差別に人を殺そうとするのは何故だ? ゼファーが憎まれるのはまだわかる。けど、僕はそんな事件、起きていたことさえ知らなかった。この現象に巻き込まれる理由がない。 それに、やはり残った女性たちまでもが呪い殺されるのは無理がある。阿久津が悪霊となったとしても、女性たちを殺そうとするのは筋違いだろう。 まあ、自分を殺した女性の幽霊に対する恨みを、生き残った女性にぶつけるという理屈も作れなくはないがーーかなり無理筋だ。 僕が考え込んでいると、リリパットが顔を上げた。 「あかりちゃん。推理もいいですけど、そろそろ準備を手伝わないと夜になっちゃいます」 「あ、そっか」 監禁部屋を出て、窓の外を見る。すでに日は暮れており、”夜”の時間までもう間がないとわかる。 僕はゼファーをにらみ、 「あんたのやったことは許されることじゃない。でも、今日を生き延びないとその話はできない。あんたにも協力してもらうぞ」 「不本意だが、手伝ってはやるよ。おれだって一人じゃ生き残れない」 「まっさきに逃げておいてよく言うな。とにかく、テリタマさんたちと合流しよう」 僕の提案に、リリパットもゼファーも反対しなかった。 |