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さしあたって安全そうな場所を探していると、少し先で揉めるような声を聞こえた。 「テメエ!」 廊下を走る。角を曲がったところに、ゼファーと金髪の生徒がいた。金髪の生徒がゼファーの首根っこを掴んでいる。 「ちょ、ちょっと! こんなところで騒いでいたら見つかるよ!」 「あぁ!?」 僕が間に入ると、金髪はゼファーを離した。 金髪の胸元には”紅蓮”の名がある。僕より背は高いけど、やはり女性は女性だ。腕力も僕と大差ないかもしれない。 紅蓮は僕をにらみ、 「ちっ。なんだよ、お前ら。こいつの仲間か?」 「仲間と言えば全員がそうだよ。卒業生以外はね」 「けっ。信頼できねえ連中となんかつるむかよ」 紅蓮の顔には見覚えがある。初日、キーに食って掛かっていた生徒だ。割と真っ先に死にそうな雰囲気だったけど、まだ生き残っていたらしい。 「こんなところで何をしてるんだ、ゼファー」 「けほっ。何って、逃げ回ってただけだよ……。お前らもそうだろ。そしたらこいつに絡まれて……」 「んだと!?」 「ほら、そう喧嘩しないで。教師に見つかったら終わりなんだ」 「……くそっ」 喧嘩の手が早そうな紅蓮でも反論はしなかった。この数日で、それだけ死ぬ姿を見ているのだろう。 ここではいくらでも死を目の当たりにできるのだから。 「おい、あかり。他の奴はどうしたんだ」 「テリタマは死んだよ」 僕は、テリタマが”卒業生”だったということ、一緒にいたメトロさんがテリタマを刺し殺したことを話した。 「マジかよ。卒業生が死んでも終わらないなんて……」 「普通に考えれば、卒業生は一人じゃないってことだね」 「一人じゃねえってのなら、他に何人いやがるってんだ」 紅蓮の言葉に、僕は首を横に振る。 「調べようもない。確かめようもない」 「んだよそれ。片っ端から殺してかなきゃわかんねえってことじゃねえか」 「それはまずいよ。全部外れだったら、無駄に生徒が死ぬことになる。それだけ卒業生が有利になっちゃうんだ」 「じゃあどうしろってんだ!」 「考えるしかない」 テリタマの行動は、生徒としてはおかしなものだった。だからこそ卒業生だと見破れたのだ。 卒業生は生徒とは違う。つまり、何かしら違う点があるはずなんだ。 「考えろ……。考えろ……」 テリタマのおかしな点は何だ? あいつは何を言っていた? 『あたしも元はゲーム参加者なの』 そうだ。彼女はゲームに参加し、負け、殺された。 すなわち、ここで殺された人は霊団に取り込まれるってことだ。霊団に……。 『相手は全員、別個ながらひとつの”個体”になっているのだと思う』 マジシャンさんの言葉が蘇る。 ゲーム参加者ですら、負けたら同じ霊団となる。すなわち、ここでの死が霊団の結び付きーーロープと呼ぶべき共通点と関係しているんだ。 今ごろ、カラテカさんやマジシャンさんも霊団に取り込まれているんだろうか……。 「……霊団は、死に様に共通点がある、はず」 「あ?」 「この学校に巣食っている幽霊は、複数の幽霊がひとつのチームになっているんだ。そして、そいつらには何かの共通点がなければいけない。たとえば暴走族だったら、お互いにバイクが好きとか、そういうの」 「共通点? まあ、確かになんの共通点もねえような奴とつるみゃしねえだろうけどよ。じゃあその共通点ってなんだよ」 「惨殺……」 「あ?」 「ここの死体は、みんな不必要なほどに拷問されている。生きたまま腕を千切ったり、お腹を裂いたり。殺すだけならそんなものは不要だ。ここの幽霊みたいな剛力があるならなおさら」 つまり、”不必要なほどに拷問している”のではなく、”必要だから拷問した”としたら。 「ここの幽霊は、みんな拷問されて……。いや、苦しんで死んだ幽霊、とか」 「いや、それはおかしいだろ」 僕の言葉に反論したのはゼファーだった。 「女たちは監禁されてただけだ。苦しんではいたかもしれないけど、体は痛めつけられていない。死因だって半分自殺みたいな事故死だぞ」 3階の窓から追い出すのを事故死と言うのか……。 思うところはあったけど、そこを言っても始まらない。確かに間接的な殺人とはいえ、彼女たちの意識として殺されたって部分は強くないだろう。 少なくても、ここで拷問されて殺されている生徒とはイコールになるようには見えない。 ゼファーの言うことはもっともだけど……。じゃあ、なんで拷問されているのか、という疑問に対する回答にはならない。 「なんだよ。殺された連中ってだけじゃ共通点にならねえってのか」 「それは……。共通点にはなると思うけど、それぞれ死因が違うんだ」 生徒の死因は《生きたまま拷問された》こと。 監禁されていた女性たちの死因は《強姦された後に逃げようとして窓から落ちた》こと。 監禁していた半グレたちの死因は《謎の呪いのようなもの》。 それらをひとつにまとめるロープーー。普通に考えれば共通点なんか何もない。 あるいは何かが間違っているのか? どこかで違う道に迷いこんでいる? でも、ゼファーが嘘を言っているとは思えない。なら、彼の言葉は真実……。 「……拷問されたこと、か?」 「え?」 死体の姿を思い返す。みんなぐちゃぐちゃに潰されていて、血液が部屋や廊下に飛び散っていて。 そして、そう、そうだ。ぐちゃぐちゃだから、検分なんてろくにできる状況になっていなかった。 「こういうのはどうだろう。ここで殺される人たちは、みんな強姦されている」 「強姦……?」 「そうだ。それなら僕らが全員女性になっていることも説明できるじゃないか。強姦の被害者! それなら女性たちと共通点が生まれる! 痛い思いをしながら強姦されて、死にたいって自分で望むようになって……! その後に殺されれば、”もう強姦されたくない”っていう共通のロープができる!」 「そ、そんなんで霊団になるのか?」 「わからないよ、実際のところは。でもそれなら説明ができるんだ」 「理屈はわかります、けど。でも、それなら阿久津教諭はどうなるんでしょう?」 首をかしげたのはリリパットだった。 「彼はどう見ても強姦されたわけではありません。呪い殺されたんです」 「それはわからない。あるいは、他の鍵があるんじゃ? ……鍵?」 そうだ。キーの存在を忘れていた……。 彼女も霊団の一部だろう。なら、彼女にだって共通点はあるはずだ。 いや。それが逆だとしたら? つまり、彼女を中心にした霊団だとしたら? 「他の幽霊は、”キーと共通点があればいい”としたら?」 「え?」 「キーと共通点がひとつでもあれば霊団になれるとしたらどうだろう。キーの死因は知らないけど、何か共通できるものがあるとしたら?」 「どういうことだ?」 「たとえば、キーも強姦の被害者だとしたらどうだろう。キー、監禁された女性たち、ここで殺された生徒たち……。全員が強姦の被害者なんだとしたら」 「それでも阿久津教諭との共通点がありません」 「そこがポイントなんじゃないか。つまり、キーは他に阿久津との共通点がある。だから阿久津は”キーとの霊団”を形成している。そのうえで、キーは”女性たちとの霊団”も形成している。ふたつの霊団は”キーという幽霊をコアにしている”という共通点があるから、さらに大きな霊団を形成することができる」 「そういうことか……! 一人の人物を中心に共通点を作っていく!」 「でも、それならキーと阿久津教諭の共通点は何かあるんでしょうか。阿久津教諭は女性たちに呪い殺されたと思われます。でも、キーはマジシャンさんより強い霊能力を持っているほどの人です。呪われるとは思えません」 「そこか……」 結局のところ、ポイントはそこだ。キーの死因。それがわかれば……。 「おい。それがわかって、だからなんだってんだ」 「え?」 「お前らの言う霊団だロープだってのは理解したよ。で? キーの野郎がコアだってわかったとして、そいつをどうこうできるのか。お前らは霊能力でもあるのか?」 「……っ」 そうだ。死因がわかったところで、マジシャンさんを失った僕らには打つ手がない。 だけど……。 「それでも調べよう。今はそれしか取っ掛かりがない。あるいは、心残りがわかれば説得できる方法も見つかるかもしれないんだ」 「けっ。手伝わねえぞ」 紅蓮は唾を吐くと、そのままどこかに行ってしまった。 |