キーの死因を調べる。考えてみれば、一番最初に探すべきところだ。でも、その取っ掛かりはどこに求めればいいのか。
 なんとか”夜”を越えた僕らは、図書室へ足を向けた。とはいっても、探すのは先日のような学校の歴史を調べるものじゃない。もっと現実的なものーー新聞紙だ。
 キーはどう見ても学生の年齢じゃない。その人間が”学校”という場所を拘束するのに選んでいる。
 それなら、学校では何かの事件があったはずだ。その原因となる事件は、ゼファーたちによる監禁事件とは異なる。
 女性霊たちが学校で強姦されたということをキーワードにしているのだとしても、キーは暴走族に強姦されたわけじゃないし、しかも死亡している。ということは、どこかにその事件を報道するものがあるかもしれない。
 僕たちは手分けして図書室にあった新聞を端から読み進める。その中に、この学校の名前があれば……。
「あ、あった!」
 新聞を読んでいると、その中に月暈学園の名前があった。

『5日未明、月暈学園の校庭で二人の遺体が発見された。遺体はこの学校に通う生徒(15)と教師の倉敷清一(29)で、警察は心中と見て捜査している』

「心中事件……?」
「付き合えない教師と生徒が思い余って自殺した、ってことでしょうか」
「おい、この日付を見ろよ」
 ゼファーが指した新聞の日付。それは、この学園が廃校となる半年ほど前の日付だった。
「これって、この事件のせいで廃校になったって感じじゃねえ?」
「心中事件で廃校? そこまでするか?」
「でもよ、日付的にはそうだろ」
「うーん……」
 ゼファーの言うことはもっともだ。心中事件の翌年に廃校なんて偶然にしてはぴったりすぎる。ましてやこの学園は、50年もの歴史があったんだ。そんな簡単に廃校となるとは思えない。
 じゃあ、他に何かあるのか? この事件はーーただの心中じゃない?
「たとえば、この心中で死んだ女子がキーだったとして、それだけじゃこの学校にかかってる呪いにはならない。強姦されてるはずなんだ」
「強姦されて、それを苦にして自殺したってのか? そういうタマにも見えなかったけど……。でも、それならこの教師はなんで死んだんだ?」
「たとえばこの教師が強姦した。で、キーがその復讐をして、そのまま自分も自殺した、とか。それなら心中みたいにも見えるだろう?」
「ああ、なるほど」
 そう、そういう経緯なら説明できる。女性の幽霊は、だが。
「でも、そういう死因だったとすると……。阿久津教諭とはあまり接点があるようには見えませんよね」
「そう、それが問題なんだ」
 普通に考えれば、キーは阿久津と共通する死に方があったはず。呪いで殺されたとまでは言わなくても、死に際に恐怖するような何かが……。
「あるいは逆に、キーが強姦されて、そのまま殺された。遺体を隠せないと考えた教師は自殺した、とか」
「ああ、それなら”死にたくない”って感じになるだろうな。で、阿久津さんも”死にたくない”って思いながら死んでるはずだ。確かに共通するって感じだ」
「そうだとすると、どうやって除霊すればいいんでしょう」
「……そうだな」
 今ある武器を思い返す。
 学校内の包丁やらナイフ程度ではキーを殺すことなんてできないだろう。彼女はマジシャンさんとカラテカさんより強かったんだ。
 でも、それなら他に武器は……。
「あ」
 ふと思い出した。ゲームのルール。最初の黒板に書かれていた文言。

『7:黒板に本当の名前を書かれた者は”進路相談室”に監禁される』

 そう、本当の名前を書かれた者は監禁される。そこには生徒とか教師なんてルールはない。
 つまりは、ゲームに参加していないキーでも関係がないってことだ。
「キーの名前……。それを黒板に書けば、あいつを進路相談室に監禁できる。監禁っていうくらいだ、抵抗できなくなるかもしれない」
「あいつの名前か。そんなもん、どうやって調べればいいんだ」
「他の新聞を探そう。そこに被害者の名前があるかもしれない。あるいは生徒名簿。この年に15で在籍していたってことは、そこに名前があるはずだよ」
 やはり手分けし、本を探す。
 埃っぽい棚を見渡していると、リリパットが僕を呼んだ。
「あかりちゃん。これ!」
 呼ばれた棚のところに行くと、名簿が並んでいた。その中から、一番最新のものを選ぶ。
「この中に……」
 事件当時で15歳。中学生なら3年生だ。
 名簿を開き、3年生の欄を眺める。この中に被害者となった少女の名前があるはず。
 名簿は写真がなく、名前がただ羅列しているだけだ。この中からキーを探そうと言っても……。
「これだけ見てもわからないな」
「いいじゃねえの。ここにある名前を片っ端から書いていけばいいんだろ?」
 ゼファーは名簿をひったくると、そのまま走り出す。僕らも慌ててその後をついていく。
「おい、ゼファー!」
「やれることはなんでもやるんだ! さっさとこんなところから出たいんだよ!」
 ゼファーの言うことは否定しないけど……。
 最初の教室に入る。真っ先に殺された少女の遺体が部屋の隅に転がったままになっていた。
 飛び散った血や肉片を避けて、黒板に向かう。ゼファーはチョークを手に取ると、女子名簿の一番上にあった名前を黒板に書いた。

《愛川 聖子》

「どうだ!?」
 何も起きない。……いや。
「っ!」
 ゼファーの体が黒い影に包まれる。
「な、おい、なに!? なんだよこれ!? やめ……」
 黒い影がゼファーを覆い尽くし、次の瞬間、その姿はどこにも見えなくなった。
「これ、は……。どういうことだ?」
「わかりません、けど。たぶん、外れってことじゃないでしょうか」
「外れ? 外れって」
「だって、片っ端から名前を書けばいいなんて話だったら簡単すぎます。きっと外した時にはペナルティがあったんです」
「っ!」
 そうだ。これはゲームと言っていた。間違ったらペナルティがあるのは、むしろ当然のことじゃないか。
「じゃあ、ゼファーは?」
「監禁部屋、でしょうか」
「そんな……。でも、じゃあ何をもって間違いなんて判断したんだろう?」
「え?」
 ルールの方を見返す。
「ルールには、”黒板に本当の名前を書かれた者は”としかない。そして、愛川聖子という生徒は実際に存在したはずなんだ。間違った名前じゃない。それとも、キーの名前以外は受け付けないとか?」
「あるいは、この学校に存在する人の名前でないといけない、とか。この学校に愛川さんがいないから、外れと判断された」
「……そういうことか」
 じゃあ、キーの名前をこの名簿からしっかりと当てないといけないってことか? そんなこと不可能だ。
 僕は名簿を眺め、そして、ふと気づいた。
「え?」
 見間違いかと思った。でも、そんなはずはない。珍しい名字だし、間違うはずがない。
 そこに、”狐塚 志津香”の名前があった。
 阿久津を倒した時の校内放送で言っていた。後から追加された女性教諭の名前。その中に、確かこづかって響きがあった。
 そして、名簿のふりがなにもこづか、と書かれている。そんな偶然があるんだろうか。
「どうしたんですか?」
「あ、いや」
 僕は名簿の名前を指そうとして、ふと手が止まった。顔を上げ、ルールを見渡す。

【ルール

1:”学生”は、本当の名前を知られてはならない
2:”教師”に捕まった者はゲームオーバー
3:”教師”は”夜”の間のみ活動する
4:”卒業生”は”学生”のふりをする
5:”教師”は”卒業生”を襲わない
6:”学生”は”卒業生”を全滅させれば”下校”できる
7:黒板に本当の名前を書かれた者は”進路相談室”に監禁される
8:”学生”は校内にあるものを自由に使用してよい



 ルールの8。学生は校内にあるものを自由にしてよい。
 ……”学生”は?
「ねえ、リリパット」
「はい?」
「ちょっと……。このチョーク、持ってみてくれないか」
「えっ」
 僕がチョークを渡そうとすると、リリパットは手を引っ込めた。
「ど、どうしたんですか、あかりちゃん」
「今わかった。リリパット、君はーー卒業生なんだね」