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「道筋ってどういうことですか?」 「狐塚の存在がポイントなんだ」 僕は名簿をリリパットに見せながら、考えを言葉に出すことでまとめていく。 「ここに狐塚の名前がある。校内放送で教師の名前を呼んでいた時にも狐塚の名前があったことからして、この人が教師であることは間違いない」 「はい?」 「教師はこの学校で死んだ人じゃない。ということは、この学校での呪いが後で、教師たちはその前に死んだんだ。レイプされた女性たちがいることからして、おそらくはこの学校付近で亡くなった人が霊団になっているんだろう」 「つまり、狐塚さんもゲームではなく、現世で亡くなったと」 「そうだ。そこでもうひとつ、狐塚という女性は学内にいる三人の女性教師、そのうちの誰かってことだけど。学校で自殺させられた女性たちは、全員監禁され、服を奪われていた。実際、二人の女性教諭は全裸だ」 「そういえば……。一人だけ、セーラー服の人がいましたね。首が折れている」 「そう。狐塚は三人のうちの誰かで、一人だけ服を着ているとなれば、まず間違いなく首の折れた彼女だろう。狐塚は現世で亡くなったという前提条件、加えて名簿に名前が載っており、セーラー服まで着ている」 それらを組み合わせて出せる、ひとつの答え。 「つまり、彼女は中学で在学中に亡くなったんじゃないか?」 「在学中に……?」 「あの首からして、首が折れて亡くなったんだろう。転落か、何かの事故か。そこでもうひとつポイントがある。この学校が廃校になっているってことだ」 「それと狐塚さんの死亡が関係していると?」 「突飛な話じゃないと思うんだ。名簿を見ても、この学校にはそれなりの人数がいた。人数が少なくて廃校になったわけじゃないんだ。でも、普通の学校ならそうそう簡単に廃校まで至ったりしない」 「それだけのスキャンダルがあった……」 僕は頷き、 「狐塚さんは、おそらく殺されたんだ。それも学校の関係者に。学校側も、あるいは隠蔽でもしようとしたのかもしれない。一方で、狐塚さんは亡くなった後も未練が残り、学校で地縛霊となって障害を起こした。さわりのある学校、スキャンダルな事件。学校存続だって難しくなり、結果として廃校になる」 「廃校になった学校は暴走族が占拠した。そこで女性たちがレイプされ、挙げ句に自殺させられた。当然無念が残り、女性たちは幽霊となる」 「そして、先に死んだ狐塚と霊団になった。それまではさわりを起こす程度だったんだろうけど、霊団になったことで力を増した狐塚は阿久津をはじめとする暴走族を呪い殺す」 「そしてより強力な霊団となり、今度は私たちまで巻き込まれることになった……」 僕はうんうんと頷き、 「それならどうだろう。話は通るんじゃないか?」 「矛盾はしない気がします、けど。でも、それだけだと通らないことがあります」 リリパットは指を立て、 「ひとつ。阿久津と女性たち、それぞれ死因も無念も異なる存在が、なぜひとつの霊団にまとめられるのか」 「おそらくは狐塚が鍵なんじゃないか。彼女は女性とも阿久津とも同じ無念を持っている」 「その内容がわかりません。それに、もうひとつ。キーとは何者なのか」 「それは少し想像できているんだ」 「えっ?」 僕は彼女の行動を思い返す。 「キーは幽霊たちの中でも特別な役割があるのは明白だ。強い自我があり、ひとりだけ校内放送をする役割を持っている」 「そうですね」 「もうひとつ。彼女はマジシャンさんを越える霊能力を持っている。これから想像できるんじゃないか」 「霊能力を持ってるって……」 「考えてみて。廃校となった学校、暴走族は死んだ。でもゼファーは生徒になったーーつまり、呪い殺されずに生き残っている。ってことは、学校での事件はある程度、現世でも公になるってことだ」 「ゼファーが警察に通報したりするでしょうか」 「しないだろうけど、生き残った仲間とかは阿久津の行方を聞くだろ? 噂にだってなるし、呪いの話は出る。呪いの学校だ。そうなれば、除霊しようって話も出るんじゃないか?」 リリパットは目を見開き、 「まさか、キーさんは除霊に来た霊能者?」 「そうだ! それなら理屈が通る。彼女は除霊に来て失敗したんだ。そして、霊団に取り込まれた。だから教師じゃなく卒業生なんだ」 「卒業生である根拠は?」 「教師は総じて知恵がない行動をしている。ゾンビみたいな感じだ。でも、キーは卒業生たちと同じく自我がある。それが根拠だよ」 根拠としては弱い。だけど、これなら話が通る。 「キーはこの学校にある呪いの噂を聞き、除霊に訪れた。ところが失敗し、卒業生にされてしまった。キーはそれでも学校の呪いを解きたい、だけど卒業生は霊団に取り込まれ、本能的に逆らうことができない。だから外部の人を呼び、可能性とヒントを霊団に反発しない程度に与え、霊団のコアとなる狐塚を除霊させようとした」 僕は黒板を指す。 「ゲームのルールは普通に考えたら生徒にしか有利じゃない。卒業生は縛りが多く、教師にメリットなんてひとつもない。なんでそんなルールが必要なのか? なんで拘束して拷問しないのか? なんでもっと簡単に殺さない? それらの答えはひとつ、キーも殺したくないんだ」 「な、なるほど……」 「つまり、狐塚を除霊する。それさえできれば、このゲームはクリアできるんだよ」 「狐塚さんを除霊……。でも、どうやって除霊すればいいんでしょう。私もあかりちゃんも霊能力はありません」 「答えはこうだ」 卒業生のキーができないことーー。それを成すために、僕らは呼ばれているんだ。 僕はチョークを手に取り、黒板に向き合って名前を書く。 《狐塚 志津香》 次の瞬間、学校が揺れた。 ぴんぽんぱんぽーん、と校内放送の気が抜けた音が響く。 『ルールにより、教師の狐塚志津香さんは進路相談室に拘束されました』 僕はリリパットと顔を見合わせ、教室を飛び出した。 リリパットと共に進路相談室に走る。場所は覚えていた。一階だ。 飛びつくように扉を開くと、教室の半分ほどしかない部屋の中央で、首の折れた女が拘束されていた。 「……!」 進路相談室という名札はかかっていたものの、部屋の中はただの倉庫だった。がらんどうとなった部屋に、女が独りひざまづいている。 「う……ぁ……」 言葉もろくに話せない。虚ろな眼差しは何を見ているのかもよくわからない。 「これからどうしたら……」 「よう。よくやってくれたな」 呆然としていた僕らの後ろから声がかかる。振り返ると、巫女服の女が立っていた。 「あんたは、キー?」 「そうさ。本当の名前は滝川霧。キーってのはバンドでの通称だ」 「……名前を明かしていいのか?」 「もちろんさ。この時、この瞬間のために画策していたんだからね」 キーはーー霧は相談室の中に入る。 「最初はチンケな依頼だと思ったんだ。女の幽霊が廃校に出る、除霊してくれってね。まさかこんな霊団が巣食っているなんて想像もしなかった。返り討ちに遇っちまって、でもただでやられるってわけにはいかなくてねぇ。霊団にルールを課したんだ」 「それが、あのゲームルールか」 「そういうことさ。あたしも霊団の一部になっちまった以上、霊団に逆らうわけにはいかない。かといってこのまま霊団を野放しにするわけにもいかない。あのルールは、霊団に逆らわず課すことのできた限界なんだよ」 「どういうことだ?」 「霊団の目的として、人を殺すことはやめられない。しかも、ただ殺したんじゃ霊団の一部にはできないんだ。こいつと同じ悲しみを持たない者は霊団に取り込めないからね」 マジシャンさんの言っていたロープの例えか。 同じ悲しみを持たない者は霊団に取り込むことができない。 「じゃあ、彼女の悲しみって何なんだ?」 「新聞を見ただろ? この子は無理心中に付き合わされたんだよ」 「それは見たけど……。でも、何をどうしたら、レイプされた女性たちと、レイプした男の両者を同一化できるんだ」 「無理心中だったから、かな」 霧は女を見つめる。 「無理心中、つまり殺人の被害者っていうのは、基本的に非がない。なんで自分が殺されなきゃいけない……。その想いが、阿久津と合致したんだ。阿久津は殺される心当たりなんか山ほどあっただろうけど、さすがに呪い殺されるっていうのは想像していなかっただろうからね」 「じゃあ女性たちとは?」 「……これ以上、体を傷つけられたくない。女である以前に道具とされたくない。それが共通感情だ。もっと言えば、男という存在に対する嫌悪感だよ」 「それって」 「彼女自身はレイプされたわけじゃない様子だけどね。でも、男の身勝手に振り回されて、結果的に殺されたんだ。男性という存在への憎しみと理不尽への嘆き、ふたつの感情が合わさって、様々な霊を呼び込む存在になってしまった。あたしでも倒せないほどにね」 ふう、と霧は息を吐く。 「あたしはこれでも、名前の通った除霊師だったんだよ。まあ本業はバンドで、拝み屋は副業だけどね。でも、今まで除霊できなかった相手なんかいなかった。そのおごりが悪かったのかもしれないけどね」 「これなら倒せる、の?」 「ああ。ゲームルールにより拘束された狐塚志津香は、今は霊団から切り離されている。除霊するなら今しかない」 霧は指を組む。複雑な指の模様は、何かを表しているんだろうか。 「……ひとつ聞かせて欲しい。狐塚さんを除霊したら僕らはどうなるんだ」 「あんたはゲームの勝利者だ。現世の様子は知らないけど、おそらくは戻れるだろう」 「リリパットやあんたは?」 「あたしはもう死んでいる。その子は卒業生だろ? 卒業生もこの学内で殺された子だ。もう遅いよ」 「そんな……」 僕はリリパットを振り返る。彼女は、柔らかく微笑んでいた。 「仕方ありません。私も、この学校で惨殺されました。今でも覚えていますよ、無感情に腕を折られ、股間を裂かれた時の痛み」 「……」 「それが必要だったんでしょうね。レイプされた女性たちと同じ感情を抱くためには。女性としての大事なものを奪われ、ぐちゃぐちゃにされ……。深い悲しみを霊団につけこまれました。もう私はダメなんです」 「そんなっ! リリパット……!」 「感動のお別れしているところ悪いけど、待たないぜ。いつまでも拘束はしておけないんだ」 霧は目を閉じ、祈りを捧げる。 「神火清明、神風清明、神水清明ーー急々如律令!!」 霧の祈りと共に、狐塚の姿が光に包まれる。 折れた首がもとに戻り、その姿は一人の少女となった。 少女はにこりと笑い、そのまま光へと消えていく。自然な笑顔だった。成仏できたんだろうか。 「っ!?」 次の瞬間、学校が大きく揺れ始めた。 「始まったな」 「ど、どういうこと!?」 「この学校は狐塚を中心とした霊団の霊力によって形成された疑似空間だ。本物の学校なんかじゃない。中心となっていた狐塚がいなくなれば当然、学校の存在も保てなくなる」 「それって……。っ!!」 足元が崩れる。板張りの床が割れ、木製の天井がミシミシと砕け、ガラスがパリパリと割れていく。外の景色は、いつの間にか紫色の雲に覆われていた。 「リリパット!」 後ろを振り返る。彼女は、僕と距離を置いていた。僕らの間にあった床が裂ける。その向こう側には、暗い闇だけが広がって見えた。 「あかりちゃん! あなただけでも幸せに……」 「そんなっ……! う、わああああああああああああ!?」 割れた床の向こうへと落ちていく。 その浮遊感は、悪夢が終わる瞬間によく似ていてーー。 |