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霧はお祈りの道具らしき棒を鞄に仕舞いつつ、 「聞きたいこと?」 「この学校で起きていた出来事について、です」 僕は正面から霧を見返し、 「この学校では狐塚さんが殺され、そのまま幽霊となっていた。それは間違いないですよね?」 「そうだな。その後、この学校で不埒者が女をいじめ殺し、結果的に巨大な霊団が形成されるまでに至った」 「そこまでは理解できます。そしてあなたが除霊に失敗し、取り込まれることで……霊団はルールが変わった」 「変えたって言う方が正確だけどね。アタシが霊団にルールを強制したんだ。殺すっていう本能は変えられないから、結果はそのまま、至る過程をなるべく遠回りに変更させた」 「そこまでは理解できます。問題はその後です。あの幻想空間に僕らは呼ばれた。なぜ僕らだったんですか?」 「……当初、アタシが霊団に取り込まれた時点ーーおよそ二年前らしいが、学校はそのまま心霊スポットだった。すなわちここだ」 霧は床を指差しながら、 「暴走族がここを根城にしていることは地域じゃ有名で、誰も近づこうとしなかった。そのせいで女性の拉致監禁もバレなかったわけだけど……。族がいなくなった後も、ここでは定期的に遺体が見つかっていた。いや、正確に言うなら、”失踪した人物がここで見つかる”かな」 「失踪?」 霧は頷き、 「ここから直線距離で1キロほど行ったところにはキャンプ場もあるし、3キロ圏内には温泉もある。そこらで宿泊客が行方不明になることがあるんだ。そして、その遺体は必ずこの学校で見つかる」 「……!」 「地域の人間は慌てたさ。この学校、ただでさえ暴走族に使われ、よくない噂が絶えない。そこに追加される形で死体まで見つかるとなれば、ろくな話にはならない。キャンプ場や温泉で噂が流れれば観光にも影響する。かといって、学校を更地にするほどの金はない。ここまでは重機もなかなか入れないからね、解体でも大金が必要だ」 「そこであなたが呼ばれた?」 「そういうこと。もっとも、アタシが呼ばれた時点じゃ女の子の監禁はバレてなくって、暴走族が根城にしていて勝手に死んだ〜くらいの噂だった。女の子の遺体は埋められていたし、誰も捜索しようなんて考えなかったからね」 ひどい話だ。だけど、家族でもなければ、そんなものなのかもしれない。 「その後は知っての通り、アタシは除霊に失敗して取り込まれた。そこでアタシは霊団の力を逆に利用し、幻想学校を作り出して、そこでのゲームにルールを課したんだ」 「なぜ幻想学校を?」 「関係のない人間をなるべく巻き込まないためさ。無制限に人が来ればゲームのルールを強いることが難しくなってくる。巻き込むタイミングを限定することで、巻き込まれる人間の数も制限しようとしたんだよ」 「なるほど」 そこまでは理解できる。問題はその後か。 「幻想学校でゲームを実施したのは4回だ。意外と少ないだろ? そのたびに死をチャージすることで連中を誤魔化していたんだよ。いや、狐塚の恨みが抑えきれなくなったらゲームを開始した、と言うべきかもしれないね」 「それじゃあ犠牲者は……」 「全部で121人。死者は116人。ゲームに勝利して生き延びた奴が5人だけ存在している」 「116人……」 「アタシが行くまではもっと死んでいた。犠牲者の総数は300人を越える」 「そんなに?」 マジシャンさんの言葉が脳裏をよぎる。日本では毎年行方不明者が出ている、でもその不明者はほとんど誰も気に留めないーー。 彼女の言う通りだ。数十年かけて300人が行方不明になったとしても、誰も気にしない。最近はニュースなどで子供の失踪が話題になることもあるけど、それだって結局は見つからず、時間が経つとみんな忘れてしまう。 情報が多すぎる社会で、ひとりふたりの死亡なんて関係ないんだ。 「じゃあ、なぜ僕らが選ばれた?」 「その理由は、アタシにはわからん」 けど、と霧は続ける。 「想像はできるよ。選ばれる人間は決して無作為じゃない。関係ないアメリカ人が生徒として来たことはないからね」 「その基準が知りたいんだ」 「もともと、ここの呪いはさっきも言ったように、近くの人間を呼んでいた。呪いには物理的な距離も関係があるっていうことだ。けど、お前たちは近辺の学生じゃない。そうだな?」 「近くはないね。都道府県さえ違う」 「となると、距離の問題で呼ばれたわけじゃない。他の条件、つまり参加者に関係しているってことだ。死穢って言葉は知ってるか?」 「しえ?」 「死の穢れ。古代、死というのは伝染するものと考えられていた。伝染病と病気が切り離せていなかったということもあるんだろうけどね。今でもお葬式に出たら塩を撒いたりするだろ? それは死者から穢れを貰わないために清めるんだ」 「それと関係が?」 「死穢は単なる俗説であり宗教みたいなものだけど、呪いについては現実として存在する。具体的に言えば、狐塚の呪いはゲームから脱しても呪いとして染みつくんだ。参加者は現世に戻れば記憶を失うけど、呪いそのものは体に残って、次の犠牲者を呼ぶ」 「記憶を失う?」 「悪夢だって覚めたら内容は忘れちまうだろ? 生きる情報ってのはそれほどまでに濃くて強い。悪夢はいつまでも残ったりしない」 「そういうことか……」 だから、狐塚の呪いは噂としてさえ残っていない。 残す人がいないからだ。 「話を戻すよ。一度でも呪いに関わった人間は、体に死穢を残す。そいつは生きて関わった人間に死穢を伝染させ、ゲームに呼ぶんだ。アタシの縛りで、当初は近くのキャンプ場や温泉あたりから参加者を引っ張っていた。それが、死穢が伝播することで、日本全国から来るようになっちまったんだ」 「それでも無作為に呼ばれるわけじゃないってこと?」 「ああ、死穢が伝播する相手には一定の基準がある。後ろ暗いところがある人間、学校の霊団と親和性のある人間だ」 霧は僕らをにらみつける。 「つまり。人を殺し、その死を目撃した人間だ。お前ら、誰を殺した?」 |