後日、僕らはお寺にお願いし、お葬式をあげてもらった。
 葬儀には僕と八神先生、それにサキが参加した。霧も声をかけたけど、

『神道の人間が仏教で弔えないよ』

 とのこと。
 僕らのまっとう素直な説明を、住職はどこまで理解してくれたか不明だったけど、儀式はちゃんとやってくれた。
 住職いわく、

『身寄りのない彼女のお墓を参ってくれる人がいるなんて、こんなに嬉しいことはないよ』

 とのお話。
 荒れていた狐塚さんのお墓を手入れし、みんなで掃除して、手を合わせる。
 それで誰かが救われたとかはない。自分たちの心が納得するかどうかの問題だ。
 あの学校では、たくさんの命が失われている。
 マジシャンさん。霊能力があるばかりに、無理をさせてしまった。
 カラテカさん。頼りになる人だった。
 ゼファー。小物ではあったけど、死んでいいヤツじゃなかった。
 テリタマ。彼女を狂わせたのは学校という空間だ。
 他にも、名前も知らないたくさんの参加者がいた。それらは生き残ったのか、それとも死んでしまったのか。それさえ調べる術はない。
 線香の香りを嗅ぎながら、僕らは亡くなった命に思いを馳せる。
 顔をあげると、八神先生がこちらを見ていた。いつの間にか、サキの姿がない。
「サキは?」
「タバコを吸いに行くと」
 墓前でタバコを吸わない程度の常識はあったのか。
 気づけば、八神先生はまだ僕を見ている。
「……あなたは本当に、賢い人ですね」
「何が?」
「いつかあなたは辿り着くと思っていました。本当は気づいているんでしょう?」
「……」
 違和感はあった。
 学校の監禁部屋を調べた時のこと。手錠は輪っかが閉じたまま、遺体はどこにもなかった。超空間だったし、その後にも色々とやったから、記憶からは飛んでいたけど……。
 思い返せば、それはおかしなことだ。手錠の輪っかが閉じているということは遺体がなければならない。でも遺体がない。つまり、誰かが運んだということ。
 遺体を運ぶ動機のある人間はあの学校にいなかった。すなわち、死体が見つかり続ける学校に向かう人物がいたということ。
 何のために? 死体がある場所に向かう理由なんてひとつ、死体が欲しいんだ。
「あなたは、死霊が渦巻くあの学校に通っていたんだね。そして死体を集めていた。何をしていたかなんてわからないけど、想像は可能だ。……死体を損壊していた」
「どうしてそんな想像を?」
「あなたが学校で言っていたことだ。あなたには殺人本能、いや、衝動と呼ぶべきものがある。でも、現代日本で定期的に殺人なんてできるはずがない。その衝動をまぎらわせるために、死体を壊した」
「正解です。私は学校で死体が見つかることをいいことに、そして誰も探しに来ないことを前提に、死体を弄んでは埋めていました。でも、本当にそれで満足していたんですよ」
「……あの学校に通えば、当然死穢に巻き込まれる。そしてあなたは呪いを受けた」
「はい。学校に縛られ、卒業生になりました。そして、人が死ぬ様を見ていた。遺体を見たかったんです。それが、私が卒業生になった理由です」
「でも、それだけじゃないんでしょう?」
 僕が問いかけると、八神先生は沈黙した。
「あの学校で遺体が見つかるようになったのは、霧の話を考えてもほんの数年だ。でも、あなたの年齢からして、それより前にも衝動はあったんじゃないか」
「……その衝動は動物なんかで発散していたんです」
「嘘だね」
 僕は八神先生を正面から見据える。意外にも、彼女も僕を見ていた。
「八神先生、ううん、リリパット。君が……。僕の家族を殺したの?」
「はい」
 沈黙が落ちた。
 風が僕らの間を流れる。かさかさと木の葉が揺れ、残暑のせいか汗が落ちた。
「どうして?」
「私の殺人衝動は中1の時に目覚めました。私の目の前で、弟が交通事故で死んだんです。当時、思春期だった私は弟とそれほど仲良かったわけでもなく……。でも、その日はたまたま一緒に出掛けていて……。そして、目の前で死にました」
 ふう、と八神先生は息を吐く。
「家族が死んだとか、そんなことよりも……。人間はこれほど呆気なく死ぬんだと、それが心に刺さりました。内臓の臭い、飛び散った血液。普段は見ることさえないもの、触れることのないものに触れて、私はーー感じてしまいまして」
「……それから?」
「はい。それ以降、とにかく生き物の死に様に触れるようにしてきました。魚類や鳥類はダメでしたね。哺乳類でも、犬猫ではあんまりでした。猿は人間に近くてちょっと良かったかな……。でも、それだけじゃ満足できなくなりました。そして人を殺したくなった。包丁とバールを持って、下調べした街に行って……。どこの家でもよかったんですが、あなたの家はたまたま狙いやすかったんです」
「お父さんとお母さんを殺して、壊した?」
「ええ。人を壊す快感を覚えてしまってからは、とにかく遺体が欲しくなりました。そんな私でも、殺人はその一度だけです。意外でしょう? これでも殺したら逮捕されるという分別はあるんです」
「それだけじゃないでしょう。月暈を見つけ、そこで遺体が集まると知った。遺体を壊せるようになった」
「……まあ、それもあります。定期的に人を壊せる場所なんて他にはありませんから」
 そうやって、人を殺して。壊して。彼女はあの学校に通い、死穢に汚染され、そしてーー学校に呼ばれることになった。
「あなたが呼ばれた理由はわかります。たぶん、私から死穢に感染したんですね。サキさんも同じです」
「そういうことだね」
 なんだろう。会いたいと思っていた。でも、何を言えばいいのか分からない。
 僕は、彼女をどうしたいんだ?
「私も、あなたに殺されるなら悔いはありません。どうしますか?」
 そう言って、リリパットは腕を広げた。