ステラの姿を見た時点で、その目的は理解していたのだろう。
 フレーゼたちを捕獲しようと、あちこちから男たちが飛び出してくる。それをフレーゼとラナスは撃ち抜いていった。時折、ディルの援護射撃が入る。
 A−32は、このドームの中心部を表すポイントだ。そこには、他より大きな研究施設があった。
 入り口は予想通り、固く閉ざされている。
 フレーゼはバズーカを扉に向けると、引き金を引いた。
 低い音が響き、扉に向かって爆薬が射出される。握り拳くらいの大きさを持つ爆弾は、轟音と共に扉を吹き飛ばした。
 フレーゼが突入し、続けてラナスが建物の中に入ったところで、立ち止まった。
「ここに来ると思っていたぞ」
 長いバレルを持つ拳銃を構えるのはヒゲ男。その背後には四人の部下が、同様にライフル銃を構えている。
 反射的に、フレーゼとラナスも銃を構えた。互いの銃口が、きらりと輝く。
「銃を捨て、降伏しろ。そうすれば命だけは助けてやる」
 フレーゼはちらりとラナスを見た。ラナスは首を横に振る。フレーゼはさらに振り返し、そして頷いた。
 ラナスは拳銃を、ヒゲ男に向かって放り投げた。一瞬、ヒゲの注意が銃に向けられる、そのタイミングを狙って。
 フレーゼは、走った。
 フレーゼはライフルとの射線上にヒゲ男が来るように動く。ヒゲが銃を構える、その前に体当たりを仕掛けた。
 ヒゲは息を詰まらせ、しかし銃だけは放さなかった。
「こんのぉ! くそガキぃ!」
 ヒゲの拳がフレーゼの顔面を捉えた。殴り飛ばされたフレーゼに、ヒゲは銃口を向けた。
「死ねッ!」
 男の声と、
「イグニス!」
 ラナスの声は重なった。
 瞬間、建物は揺れた。
「た、隊長!」
 部下の悲鳴に男は振り返り、そして、それを見た。
「なッ……!?」
 少女は未だ、巨大兵器の足元にいた。けれど、兵器は自立し、その巨大な腕を振り上げていた。
 そして、それを垂直に降ろす。
 ドン、という重い音。そして、ぐらりと揺れる地面。男たちがバランスを崩して倒れる間に、ラナスはイグニスに乗り込んだ。
『全員、銃を捨てて両手を挙げて下さい。すぐにです』
 男たちは目を丸くしながらも、指示に従う。
 彼らの頭は混乱していた。
 彼らの常識では、人型兵器は人間が乗り込んで初めてその力を発揮するものだ。人も乗らない兵器が勝手に動くなど、考えられなかった。そもそも、誰も乗らなくていいのなら、コックピットなど必要ない。
 だが現実問題として、兵器は動き、そしてそのために彼らは絶体絶命の危機に陥っていた。
『フレーゼさん、こちらへ。イグニスに乗って下さい』
 言われ、フレーゼはイグニスに近寄った。と、イグニスが手の平を上にして腰をかがめた。
 フレーゼがイグニスの手に乗ると、イグニスは手をハッチの場所まで持っていく。
 ハッチが開くと、まだベルトも締めていないラナスがフレーゼを迎えた。
「少し狭いですが、我慢して下さい」
「わかってるよ」
 言いつつも乗り込む。本来はひとりしか乗れない仕様であるため、ふたりが乗るとかなり窮屈だった。小柄なラナスと、決して体格は良くないフレーゼだからこそ、ぎりぎり乗り込めたと言えるだろう。当然、かなり密着せざるをえない。
「ハッチ、閉めます」
 駆動音と共にハッチが閉まると、イグニスの中はモニターの明かりだけが頼りとなった。
 フレーゼが横を向くと、そこには青白い光に照らされたラナスの顔がある。
「ありがとう。助かったよ」
「今後はああいう無茶は控えて下さい。フレーゼさんは決して格闘向きではないんですから」
 ラナスはフレーゼのことなど振り向きもせず、ぱっぱと操作をしていく。
 フレーゼがモニターに目をやると、すでにイグニスは建物をぶち壊し、外に出たところだった。
『ディオート3よりディオート2へ。ディオート4はどうした?』
 と、そこに通信が入った。ステラの姿はない。すでに姿を周囲に溶け込ませた後なのだろう。
「ディオート2よりディオート3へ。ディオート4はイグニス内にて待機中。作戦目的を完了したため、これより帰還します」
『なにぃ!? フレーゼ、そこにいるのか!?』
 作戦行動中はコードネームで呼ぶという約束も忘れ、ディルは叫んだ。
「い、いるよ。それがどうかしたのか?」
『テメエ! ってことは、ラナスちゃんと密着してやがるな!』
「し、仕方ないだろ!? イグニスの中は狭いんだから!」
『ざっけんな! テメエ、ラナスちゃんに手ぇ出してみろ、ステラで脳天、ぶち抜いてやるからな!』
「手なんか出さないよ!」
 通信で激論をかわすふたりに、冷ややかな声が浴びせられた。
「ディオート2よりディオート3へ。戦闘行動中です、冗談は存在だけにして下さい。それと、性的いやがらせとも受け取れる台詞に関しては、帰還後に隊長に報告させて頂きます」
『なッ――!? ちょ、ラナスちゃん、それはひどいんじゃ……』
「ディオート2よりディオート3へ。真面目にやらないとイグニスで脳天をぶち抜きますよ?」
『……ディオート3、了解。お手柔らかに頼むよ』
 そして、通信は途切れた。
「え、えーと、ラナスちゃん。もう作戦目的は完了したって?」
「はい。イグニスを降りる直前、ハッキングしてデータを盗むようにセットしておきました。データは全てキャストラムに転送済みです。後は、帰還すればそれで作戦は終了になります」
 ラナスは先ほどのやり取りなど何もなかったかのように、イグニスの操作を続けている。
 やがて、正面モニターにドームの壁が大きく写された。かと思えば、あっという間にドームを通り過ぎてしまう。
「ディオート3の脱出を確認。では、フレーゼさん」
 ラナスはふと、フレーゼに目を向けた。純粋な瞳には、濁りが見えない。
 その瞳に射すくめられ、フレーゼは少々どころでなく動揺した。
「な、何?」
「これからの行動、黙っていてもらえますか?」
「何をするの?」
「ちょっと、お返しです」
 フレーゼは少し考え、そして、首を横に振った。
「駄目だよ、ラナスちゃん。わざとってのはいけないからね。偶然・・、僕がスイッチにぶつかるくらいはあるかもしれないけどね。イグニス、狭いから」
 ラナスは少し目を見開き、やがて微笑んだ。
「わかりました。では、こうしましょう。偶然・・、私とフレーゼさんがぶつかり、その拍子に発射されてしまった、と」
 フレーゼが頷くと、ラナスはその細い指をコントロールパネルの上で躍らせた。
「誘導ミサイル、ファイア」
 偶然という名の必然によって発射されたミサイルは、ドームに開けられた穴から中に入り込み、爆音を轟かせた。
 それを確認し、ラナスはイグニスを再び走らせた。
『ディオート3よりディオート2へ、攻撃の命令は聞いてないぜ? 今のミサイルは何なんだよ?』
「ディオート2よりディオート3へ。すみません、誤射です。ディオート4とふたりで乗り込むには、イグニスのコックピットは狭すぎました。というわけですから、性的いやがらせの件はチャラということでお願いします」
『……、最初からその気だったな?』
「何のことですか?」
 文字通り無表情に答えたラナスに、フレーゼは吹き出すのを必死にこらえた。
『ま、いいか。ディオート3、了解!』
 ラナスとフレーゼは目を合わせた。フレーゼがウインクすると、ラナスは微笑でそれに返した。