電子の光を浴びて。フレーゼは常の通り緊張に満ちた顔で、けれど、いつもと違って強い意志を秘めた瞳で、モルスを操作していく。
「……殺したいとは、思わない。殺さなきゃやられるだけでも、殺したいとは、思わない。だけど」
 操作する手は止まらない。明確な意思が、そこにあった。
「殺させるわけには、いかないんだ。絶対に、絶対に!」
 同じことを、繰り返さないために。
 そしてフレーゼは、自らの分身に声をかける。
「モルス。マインドアクションシステム、起動! 一気に突っ込むよ!」
『了解。MAS起動、最大戦速』
 機械音声がフレーゼの指示に従い、己の力を解放していく。
 と、そこに通信が入った。
『ディオート3よりディオート4へ! バカヤロウ、どうして出てきやがった!』
 ディルだった。フレーゼは自然と、笑みを浮かべた。
「ディオート4よりディオート3へ。僕もディオート・クラットの一員だ。みんながピンチなのに、ただ見ているなんてできない。今はMASも起動している、大丈夫だよ」
『大丈夫なもんかよ! こいつら、並の機体じゃねえ! 傷ついたモルスじゃ、勝ち目なんかねーぞ!?』
「大丈夫。今なら、誰にも負けない気がするよ」
『テメエ、いいから――』
 ブツリ。通信が強制的に遮断された。フレーゼは何も操作をしていない。一瞬、ディルがやられたのかとリンクしているデータに目をやったが、ステラは依然として健在だった。
「……もしかして、モルス。お前が通信を遮断したのか?」
『ポジティブ』
 フレーゼは思わず苦笑いした。この、必要最低限の事柄しか答えない機体は、そのくせ人間より人間臭い動作を行う時がある。特に、MASを通じて繋がっている時、モルスはひとつの命であった。
「ありがとう、モルス。じゃあ、行くよ!」
 返事はない。フレーゼは気にも留めず、全力で突っ込んだ。
 脚部から剣を取り出し、目についた敵機に振り下ろす。相手は確実に反応して剣で受け止めようとしたが、モルスの刃は相手の剣ごと、相手を切り裂いた。
 すぐさま近くの敵機がフレーゼに向かって飛んでくる。フレーゼはそれを確実に捉え、逆に切り捨てた。
 今までのモルスとは、明らかに戦闘能力が違った。
 D−04を相手にしていた時は互角以下にしか渡り合えなかったのに、それよりは弱いであろう相手とは言っても、今は何の苦もなく倒していく。これこそが、モルスのMASの力だった。
 モルスのMASは、元から高いモルスの機動性、瞬間攻撃力などを、さらに高める。その割合は、フレーゼが気合を入れるほどに飛躍的に伸びていく。
 ステラの貫通射撃も、イグニスの広範囲をなぎ払う一撃も、確かに普通のエクイットと比べれば格の違う攻撃力、利便性を持っている。だが、モルスのMASは、それらから比べても高機能だった。
 しかも、モルスの能力はこれだけではない。
「ん?」
 また敵機を切り捨てたところで、フレーゼはこちらに向いている銃口を発見した。フレーゼは、あえてそちらにモルスを向かわせる。
 案の定、敵機は撃った。弾丸は目では捉えきれない速度で飛び、けれど、モルスの眼前で砕け散った。
「甘い、よ」
 ぽつりと呟く。
 モルスのMASは、戦闘能力を高めるだけではない。目には見えない壁で、モルスを包み込むのだ。ただの銃弾程度では、この壁は撃ち抜けない。この壁を破壊するには、ステラクラスの貫通能力か、イグニスクラスの火力が必要だった。
 戦闘に関して才能のある方ではないフレーゼが、ディオート・クラットの一員としてまがりなりにも戦えるのは、モルスの段違いの戦闘能力のおかげとも言えた。
 今まではこの能力を使いこなせていなかったが、今のフレーゼは、過去にないほどにモルスと一体化していた。今のフレーゼには、敵などいなかった。
 あれだけ苦戦していた敵機の群れを、モルスの光刃が次々に撃破していく。爽快で、モニター越しに見る限りでは、まるで架空の映像であるかのようでもある。
 しかし、これは現実だった。命と命のぶつかり合う、戦いだった。
『ディオート1より各機へ。ディオート2のサポートをしろ。一気に敵戦艦に打撃を加え、戦闘領域を離脱する』
「ディオート4了解」
 すぐさまレーダーに映るイグニスのポイントに向かって飛ぶ。イグニスはすでに攻撃を戦艦に撃ち込む準備をしていた。両腕を伸ばし、合わせてまっすぐに戦艦を指している。その姿は、巨大な砲台にも見えた。
 エネルギーを溜める間は、イグニスといえど隙だらけになる。その合間を、他の三人でカバーする。
 イグニスに向かって、弾丸のように敵機が突っ込む。フレーゼは、まさに根性でそれに追いすがった。
「邪魔はさせないッ!」
 思い切り剣を振るう。背中を斬られた敵機は、爆発、四散した。
『ディオート2より各機へ、超長距離射程砲『サルファー』セットアップ』
 ラナスの通信。フレーゼは、イグニスと戦艦の間から外れた。
『射線クリア。サルファー、ファイア』
 そして。モニターは、光に埋め尽くされた。
 空気がぶるぶると震え、爆音が轟く。
『よし、各機離脱!』
 隊長の指示に従い、フレーゼはモルスをキャストラムに向けた。
 ちらりと戦艦の様子を窺う。イグニスの持つ兵器の中では最大の威力を持つ一撃を受けた船は、煙をあげながらゆっくりと逃げようとするところだった。
 と。
『サル共! よく聞けぇ!』
 戦艦の、外部音声だろう。ひび割れた声が、谷にこだました。
『よくもまあ、やってくれたな! だが! 我々は貴様らを殺し、この惑星を支配する! 貴様らの好き勝手にはさせんぞ! わかったなぁ!』
 それだけを言い残すと、戦艦は煙と共に、飛び去っていった。
「惑星を、支配する?」
 戦艦の消えた空がモニターに映っている。それを見るともなく眺めながら、フレーゼは呟いた。
 非現実的な言葉だった。だが、連中の戦闘力を見る限り、ただの冗談にも思えない。
「……そんなこと、させるもんか」
 強く拳を握り締める。モルスの駆動音だけが、その言葉に答えていた。