爆発は、少し離れた場所で浮かぶ戦艦にも、微弱な振動を伝えた。その様は、さながら、これからその身に起きることを予感しての、身震いのようにも見えた。
 と、戦艦が持つ双頭の艦首、その合間に、人型兵器が張り付いた。爆発と戦闘によって装甲が砕け、弾かれ、ところどころ中身さえ見えている、ペリキュラムの姿がそこにあった。
 アルマはナイフで戦艦の肌にしがみつき、フライトユニットを外した。そして、それを戦艦にセットする。
 身軽になったアルマは、ナイフを引き抜いた。巨体は重力に従って落ちていく。
 アルマは、その状態で、ナイフを投げ放った。爆薬入りナイフはフライトユニットに突き刺さり、内に眠るエネルギーに火をつける。
 爆音。空気の振動は、戦艦の悲鳴をかき消した。
 それを合図と、青い機体が未だ止まぬ煙の中に突っ込んだ。爆発で生み出された小さな傷を、手に持つ光の刃で大きくし、中に入り込む。
 黒煙に覆われた黒い巨艦への侵入者に気付いている者は、少ない。

 モニターには、壁に並んだ動かぬ兵器が映っている。モルスが侵入した場所、それは、どうやら格納庫らしい。
 が、フレーゼが破壊しなければならないものは、誰も乗っていない機動兵器などではない。
「モルス。熱源探知。早急に!」
『了解』
 モルスのレーダー機構は、決して高いレベルのものではない。だが、これだけの大きさを持つ戦艦。それを動かすエンジンが持つエネルギーは、想像を絶する。それだけのエネルギー源がある場所なら、モルスでも探せるはずだ。
『熱源探知完了』
 サブモニターに、現在位置を中心とした、円形レーダー映像が映った。ところどころに見える点は、異星人の姿だろうか。
「……あった!」
 その中でも、明確に巨大な反応。それこそ、彼が破壊しなければならないもの――エンジンの場所だった。
「よし、行こう!」
 通路に続くと思われる入り口もある。リチャーターが人間より大型であるためか、扉はキャストラムのそれより大きい。だが、さすがに人型兵器であるモルスが通れるほど大きくもない。
 仕方なく、フレーゼは道を自らの手で切り開くことにした。
「デュアル・レイブレイド、アクション。壁を破壊しながら熱源に向かって前進侵攻する」
『了解』
 デュアル・レイブレイドは、MASを使わない状態で作動させているロング・サイナイフを強化したものだ。と、言っても、使っている代物は同じ。簡単に言えば、サイナイフの柄から別の刃を出す、ということだ。
 このふたつは、単に出力が大幅にアップするという、それだけの違いしかない。だが、その違いは決定的でもある。
「行く、ぞぉ!」
 先ほどまでと比べ、フレーゼの緊張は抜けていた。人を殺さない行動の方が、彼の性に合っている。
 双剣が壁を切り裂く。スペースを強引に作りながら、モルスは真っ直ぐに熱源反応のあった場所に向かって歩いていった。
「ん?」
 全方向防護壁ADSに反応。そちらを見てみると、足元のあたりに、異形の人影があった。
「乗組員、か」
 フレーゼは外部マイクをオンにし、モルスに群がる異星人に声をかけた。
「乗組員に告げます。即刻、この艦を捨てて脱出して下さい。僕は、できる限り命を奪いたくはありません」
 対して、足元の異星人が何事かをわめいている。フレーゼはモルスに命じ、その音声を拾わせた。
『っざけるな! サル風情が!』
『敵に言われて、はいそうですかと受け入れるものか!』
『星を食い荒らす咎人とがびとの分際で!』
 本当に。誰ひとりとして、フレーゼの言葉に耳を貸す者はいなかった。
 彼らは、傭兵ではなかった。もし、金で雇われた傭兵であるのなら、勝ち目の薄くなったこの戦場に、いつまでも留まる理由はない。
 傭兵にとって大切なことは、生き残ること。生きるために戦う彼らにとって、戦いで死ぬことは、下の下であった。
 だが、リチャーターたちは違った。戦いに生き、戦いの中で死ぬ覚悟を持っていることが、画面越しでもひしひしと伝わってくる。
「また駄目、か――!」
 誰も。フレーゼの言葉には、耳を貸してくれない。
 誰も。命を大切にしようとは考えてくれない。
 誰も、誰も。
「くそっ!」
 ヤケクソとばかりに、剣を振るう。そして、モルスはそこに辿り着いた。
 広い空間だった。大きさで言えば、格納庫と同じか、それより広いかもしれない。
 そこに、巨大なエンジンがあった。円形の外観は、さながら心臓のようだ。繋がる管は、おそらくエネルギーの貯蔵庫に続いているのだろう。
「こんなものが、あるから!」
 両手に力を込める。それはそのまま、モルスの握る手に伝わった。
「あああああああああああああ!!」
 意味も意図もない、純然たる叫びと共に、フレーゼは剣を振るった。
 双光は交差する軌跡を残し、金属色に回るエンジンを切り裂いた。
「ADS全開! 特に前方注意!」
『了解』
 言葉のやり取りをした、直後だった。
 青白いモニターを、閃光が埋め尽くす。

 漆黒の戦艦は炎に包まれ、崩れ落ちていく。その内から、青い直線が伸びた。
 アルマの中からその光景を見つめていたイリスは、ふぅ、とため息をついた。
 痺れる手を見つめる。少し、強引な動作をやりすぎたようだ。
「……仕方ない、な。超高速戦闘機動に、フライトユニットの爆破。あれが無茶でなければ、無茶などなくなるな」
 自嘲的に笑い、けれど、彼女は満足そうだった。
 通信機をオンにし、モルスとの通信回線を開く。
「ディオート1よりディオート4へ。首尾はどうだ?」
『ディオート4よりディオート1へ。敵戦艦駆動部を破壊。危険区域を脱出しました。MAS、安定。エネルギー残量、確認。まだいけます』
「よし、残ったガーディアムの撃破と捕獲に回れ。今回はお前の望み通り、できる限り殺さなくていいぞ。色々と聞きたいことがある」
『――了解!』
 プッ、と通信が切れた。
「あいつに、向いた任務だな」
 殺しを嫌う傭兵。
 彼は誰よりも傭兵向きではなく、誰よりも戦いの才能を持っていた。
 兵装を使い尽くし、飛行もできないアルマでは、戦いに加わることはできない。かと言って、カトレアたちもアルマを回収できるほどの余裕がない。結果、イリスは戦闘が終わるまで、この山岳地帯で待つしかなかった。
 岩肌に隠れるようにひそみ、イリスは深く息を吐いた。
「ガーディアム、か」
 強力な兵器だった。もし、あんな存在が人々の間に出回れば、混沌とした世界情勢は、さらに悪化するだろう。
「――させる、ものか」
 戦いは、望んでいない。殺し合いなど、ない方がいい。傭兵など、不必要な世界が最良だ。
 イリスはシートに深く体を沈めた。
「……フレーゼ・ハイブリーダ。期待している、んだぞ」
 言葉に答える者は、誰もいない。