機械的な光が室内を照らしている。かなり広い空間で、人型兵器で入ることもできそうな部屋だった。
 その中を、多くのトカゲ人が歩き回っていた。どの顔も一様に引き締められ、緊張した面持ちである。
 室内には一段、高い場所があった。部屋を見渡せるように作られたその場所には、ひとりの女性が座っていた。
 周囲がトカゲのような容姿の者ばかりであるのに、その女性だけは、人間と同じ姿をしていた。
 年頃は十代後半といったところだろうか。癖の強い黒髪に、精悍な面立ち。口元は他のトカゲたちと同様、きゅっと引き締められている。
 女性は、椅子に深く座って正面モニターを睨んでいた。そこには、青と黄に覆われた星が映っている。
 と、そこにトカゲ人のひとりが近寄ってきた。
「隊長。リーカス先遣隊との連絡、やはりできません。まず間違いなく、何かあったと見るべきでしょう」
「そうか、わかった。持ち場に戻れ」
「はッ!」
 敬礼ひとつ、立ち去った。
 女性は手元のパネルを操作し、艦内放送のスイッチを入れた。
『艦内全乗組員に告ぐ! リーカス先遣隊は敵陣営に撃破されたと断定し、本艦は目標惑星大気圏内進入を開始する! 総員準備!』
 よく通る声が艦内全域に響き渡った。
 女性はスイッチを切ると、深く息を吐いた。
「……認める、ものか」
 強く噛み締め、モニターを睨み続ける。その瞳には、憎悪にも近い色があった。

 砂漠のど真ん中にサードドームはある。他の一般的なドームと同じもので、さして変わった点のない代物だ。言ってしまえば、ごく普通のドームである。
 その中、ドームの端に近い部分には、監視塔が存在する。ドームに対して近寄る全てをチェックしているが、そもそも砂漠の中心であるこんな場所までやって来るような物好きはいない。言ってしまえば、飾りのような存在だった。
 故に、監視室に漂う空気も、どこかだらけたものだった。敵の来ない場所の監視ほど退屈なものはない。
「あー、くそ。退屈ッスー!」
「うるせーよ、死ね」
 監視用装置の前には、ふたりの男が座っている。ひとりは伸びをしながらも割と真面目に座っているが、もうひとりは紙の本を読んでいた。
「先輩ー。なんスかそれー?」
「あー? 本だよ、本。ブック」
「本? なんで今どき、紙の本なんスか? 重いし場所は必要だし資源も使うし、無駄ばっかじゃないスか?」
「いいんだよ。こういうもんが人間には必要なんだ。どんだけの技術があってもな」
 監視設備にはまるで目を向けず、先輩は本を読んでいた。よくよく見れば、手書きの紙を閉じただけの簡易なものだ。それだけに、ますますみすぼらしい。
「あー? 俺にはそういうの、わかんないッスけどね」
「そのうちわかるさ。機械だけじゃ、人間ってのは生きがたいもんなんだよ」
 監視員たるふたりが仕事はそっちのけで哲学的な話をしていると、機器のひとつが警告音を発した。
「ぴーぴーうっせーよ。また故障かあ?」
 言いながらも、後輩は手順通りに機器を操作していく。すると、手元のモニターに、外の監視画像が映し出された。
「なッ――!?」
「……どうした」
 先輩は後輩のただならぬ気配を察知し、本を閉じて立ち上がった。
「せ、先輩。これを見てください!」
 後輩の指すモニターのひとつに、先輩も目をやった。
「ぬ!? こ、こいつは?」
 モニターには。巨大な、血色の戦艦が映っていた。
 隣に戦艦ふたつを従えた、巨大な戦艦。おそらくは隣の戦艦が通常のサイズなのだろう。だが、その戦艦すらも容易に収容できるほど、その戦艦は巨大だった。
「す、すぐさまエクイット隊に連絡! 同時に、戦艦に通信を求めろ!」
「りょ、了解!」
 後輩は慌てて操作パネルの上に指を走らせる。
 それを確認し、先輩はモニターを睨んだ。
「どこの、どいつだ? こんなキチガイみたいな戦艦を作りやがって!」
 吐き捨て、先輩もまたシートに戻った。

 一方、戦艦内部。トカゲ部隊の副長でもあるトカゲは、部隊長でもある女性の脇に立ち、現状を報告した。
「隊長。惑星人より通信が入っております。あの半円形建築物から出撃してきた人型兵器部隊からです」
「繋げろ」
 女性が答えると、トカゲは頷き、指示を出した。すぐさま、女性の近くにあるスピーカーが外の音声を拾う。
『こちら、サードドーム自衛部隊! 巨大戦艦、応答を願う!』
「こちら、リチャーター軍第一機動部隊隊長、ユールフォビア・プルチェリマ。よく聞こえている」
『リチャーター? どこのドームの所属だ!』
「聞こえなかったのか。我々はお前たちとは住んでいる惑星からして異なる。ドームとやらにも、所属しているわけがないだろう」
『違う惑星? ええい、我々を馬鹿にしているのか!』
「そんなつもりはない。我々は精神波抽出システムの破壊を目的に来ただけだ。貴殿らがユニットを無条件で差し出すのであれば、我々は貴殿らに危害を加えるつもりはない」
『ぬ? ええい、先ほどからわけのわからぬことを! それは我らに対する宣戦布告のつもりかッ!』
「話の通じない奴だな。それともお前たちと我々では言語の意味合いが異なるのか?」
 返答は、なかった。通信が途絶え、その瞬間、艦が小さく揺れた。
「正面、人型兵器部隊より攻撃行動確認! 艦正面に命中! 損傷軽微!」
 すぐさま、艦の状態を監視している者から連絡が入る。
 ユールフォビアの脇に立っていたトカゲは、確認するように上官を見つめた。
「……仕方あるまい。ガーディアムを出せ。敵人型兵器部隊を迎撃しろ。できる限り乗員は殺すな」
「了解しました」
 敬礼をし、トカゲは早足でその場を立ち去った。
 ひとりとなったユールフォビアは、正面モニターに目をやった。
「――まあ、素直に聞いてくれるとは思っていなかったがな」
 ユールフォビアは哀しげに首を振り、背をシートに沈めた。

 サードドームから出撃したエクイット隊は、突如として現われた巨大戦艦に対して最大火力の攻撃を続けていた。
 だが、与えられるダメージはどうというほどもない。表層が固い装甲に覆われているのもあるが、何より、相手が大きすぎるのだ。エクイットの持つ火力は他の兵器より圧倒的に高いが、それですらどうにもならないほど、相手が大きかった。
 それでも、と攻撃を続けていると、戦艦の側面が開いた。そして、中から人型兵器が飛び出す。
 エクイット隊の一部は、戦艦から人型兵器に攻撃目標を変更した。爆音が轟き、煙がもうもうと立ち込める。
 黒煙に覆われる世界。それを、銀光が切り裂いた。
 飛び出したガーディアムは十体ほど。それぞれが剣や斧など、鈍く光る得物を手に携えている。
 そこから先は、圧倒的だった。一瞬と言ってもいい。
 ガーディアムたちが刃を振るう。エクイットの金属肌が切り裂かれ、腕が飛び、足が曲がり、銃器はバラバラに散った。
 機動性に大差があるわけではなかった。エクイットでも、ガーディアムの攻撃をかわすことは不可能ではなかった。
 だが。刃も、銃弾も、ガーディアムの前では何の意味もなかった。
 反撃をしようとしたエクイットが、体を引き裂かれる。仲間の撃破に動揺したエクイットが、隙を突かれる。
 見たこともない形状の人型兵器。見たこともない巨大な戦艦。それらがエクイット隊を浮き足立たせ、本来の力すらも発揮できない状況にあった。
 ただでさえガーディアムのほうが高い戦闘能力を持っているのに、全力を出し切れていないエクイット隊では、勝ち目など万に一つも存在しない。
 時にして、百五十秒ほど。たったそれだけの時間で、エクイット隊は、全滅した。

「敵機動兵器の撃破を確認! ガーディアム隊、帰艦します」
 状況を見張っていたトカゲが大声で叫んだ。
 ユールフォビアはその光景を見つめ、深々とため息をついた。
 その内心を想像しつつも、脇の副官は尋ねる。
「隊長。生存兵はいかがいたしましょう」
「放っておけ。死にたくなければドームとやらに戻るだろう。それより、ガーディアム隊の隊長に通信を繋げ」
「はッ、了解しました。おい! ガーディアム隊と通信を繋げ!」
 副官が大声で叫ぶと、すぐさまユールフォビアの手元から音声が聞こえてきた。
『こちら、ガード1。ホーム、応答願います』
「こちら、ホーム。ガード1。相手は精神波抽出システムを使用したか?」
『いえ。実にあっけないものでしたよ。我々を舐めていたのか、あるいは、現在の惑星人は精神波抽出システムを使いこなせていないのかもしれません』
「そうか。ご苦労、戻って休め」
『ガード1、了解』
 ぷつりと通信が途切れた後も、ユールフォビアはあごに手をあてて考え込んでいた。時折、何事かをぽつりと呟くが、声が小さすぎて聞き取れるようなレベルではない。
 その様を見つめていた副官は、ふと問う。
「隊長。彼らが精神波抽出システムを使用しなかった理由、おわかりですか」
「――ガード1の報告も可能性としてはあるが、な。私にはどうにも、連中がシステムを搭載していなかったとしか考えられない」
「システムを搭載していない? ご冗談を。そんなもの、連中程度の技術力では、人型兵器としてはほとんど役に立たないではないですか」
「ああ。だが、あの無抵抗さ。考えるほど、そうとしか思えなくなってくる」
「……ふむ、隊長がそうおっしゃるのであれば、そうなのやもしれませんな」
 しばらく考えていたユールフォビアは、結論が出たらしく、副官に命じた。
「本艦はしばらくこの地域に停泊。仮に、また連中が機動兵器による戦闘行動をしかけてきた場合、今度は全てを破壊せず、何機か捕獲して持ち帰らせろ。そいつを軽く分解して搭載兵器を調べさせろ」
「はッ! 伝えて参ります」
 伝令のため、副官は場を去った。
「もしも、私の考えが正しければ――我々は、とんだ無駄足だ」
 眉をひそめながら呟くユールフォビアは、けれど、どこか嬉しそうだった。