その頃。ディオート4、フレーゼ・ハイブリーダは自室で花の手入れをしていた。彼の日課である。
 その姿は実に楽しそうで、とても傭兵には見えない。まるで花屋の店員か何かだ。
『総員に告ぎます。すぐさまメイン・ルームに集合して下さい』
 そこに、カトレアの声で艦内放送が入った。
「緊急集合命令、か」
 ジョウロを置き、エプロンを外しながら、フレーゼは呟いた。
 イリスの宣言ではない緊急集合命令は久しぶりだ。それだけに、何か嫌なものを感じさせる。
「僕の勘違いであればいいけどね」
 願いを口にし、フレーゼはメイン・ルームに足を向けた。
 メイン・ルームまでは、さほど時間がかからない。緊急時にいちいち時間をかけて集合などしていられないのだから、当然と言えば当然である。
 フレーゼがメイン・ルームに入ると、すでにイリスが待っていた。その隣には、カトレアの立体映像姿もある。
 それからほどなくして、ラナスとディルもメイン・ルームに姿を現した。
 全員が揃ったところで、イリスは口を開く。
「それで、カトレア。全員を集めて何の用だ」
「先ほど、日課でもある各ドームのデータベースに対するハッキングを行っていたんですの」
 それはそれで問題のある発言だが、特に誰も何も言わない。日常と化した光景では、別におかしいとも思えないらしい。
「それで、サードドームのデータを見ていたところ、この映像を入手しましたわ」
 外の映像を映していた正面モニターが切り替わり、荒い画像を映し出した。
 途端。一同は、ある者は眉をひそめ、ある者は絶句した。
「こい、つは?」
「ガーディアムですね」
 その映像には、巨大な戦艦と、そこから出撃する人型兵器が映し出されていた。
 鎧のような、重厚な外観。手に持っているのは、金属色の武器。まぎれもない、ガーディアムだった。
「とうとう来たってわけか。にしても、でけー戦艦だなぁ、おい」
「惑星間航行を行うには、これだけのサイズが必要なんでしょう」
 ディルに返し、ラナスはイリスを見た。
「当然、迎撃に行くんですよね?」
 イリスは見返し、口元に薄っすらと笑みすら浮かべた。
「もちろんだ。カトレア、進路をサードドームへ。連中と決着をつけるぞ」
「了解、ですわ」
 続けてイリスは、仲間たちを等分に見渡した。
「ディル。準備はできているな?」
「いつでもオッケーッスよ」
「ラナス。覚悟は決めているな?」
「わたしはいつでも覚悟してします」
「フレーゼ」
 そこで言葉を切り、イリスはじっと、頼りなげな少年を見つめた。
「殺せるか?」
 フレーゼも、じっとイリスを正面から見つめ返した。
「自信はありません。でも、戦う覚悟ならあります」
 きっぱりと言い放つ。イリスは満足そうに頷いた。
「お前らしいよ。では、総員! 本日は休息! 明日、リチャーター部隊と接触する! いいな!?」
 よく通る声で全員を鼓舞し、イリスはにやりと笑った。
 そして。三人は、強く、深く、頷いた。

『結論が出ました』
 ユールフォビアは自室で、通信機から報告を受けていた。
 彼女の部屋には何もない。本当に、あるものと言えば白いベッドと椅子、それに簡素な机だけだった、
『連中の兵器には、間違いなく精神波抽出システムは搭載されていませんでした。よって、この惑星に与えるダメージも、ほぼ皆無と考えられます』
「そう、か。そうなると、我々はとんだ無駄足だな」
『ところが、そうもならないようです』
「……何?」
 画面に映るトカゲは、特に表情も変えずに報告を続ける。
『調査隊が岩石地帯にてリーカス隊のブラックボックスを発見しました。そのデータによると、少なくても人型兵器三機、およびその母艦には、精神波抽出システムが使用されていると考えられます』
「――そうか。わかった、では引き続き調査。その母艦を発見し次第、私に報告しろ。時刻は問わない、発見したら早急に連絡だ。いいな?」
『はッ、了解しました』
 ぷつりと通信が途切れた後も、ユールフォビアの表情は重く暗いままだった。
「そう、か。まだ現存していたのか」
 その報告は、できれば聞きたくなかったと言わんばかりに頭を振り、ユールフォビアはベッドに寝転がった。
「戦いなど、避けるに越したことはないのだがな」
 だが。避けられない戦いも、確かにある。
 そして、そんなところで退くつもりも、彼女にはなかった。
 ゆっくりと目を閉じ、ユールフォビアは眠りについていく。せめて、夢の中だけでは、争いも戦いもない世界を望みながら。