荒涼とした大地が、どこまでも続いていた。
 枯れ果てた大地には、草木などまるで見当たらない。あるものと言えば、砂礫と岩山くらいのものだった。
 その中を、一台のトレーラーと、一体の人型兵器が行く。トレーラーは何の変哲もない、特筆できる特徴もないほどの、どこにでもある代物だった。一方、人型兵器の方はと言えば、世界中のどのエクイットにも当てはまらない外見をしていた。それもそのはず、この兵器はエクイットではない。現代科学では測れない未知の技術を用いて作られた機動兵器――ペリキュラムであった。
 今回のディオート・クラットが受けた任務は、護衛任務だった。トレーラーが積んでいる荷物を無事に送り届けること。距離はドームとドームの間で、日数にすれば一日弱ほどの距離でしかない。
「おーい、兄さんや」
『はい?』
 トレーラーから身を乗り出したゴツイ初老の男性は、隣を歩くペリキュラムに声をかけた。
「そろそろ休憩にするぞぉ。どっかちょうどいいところを探してくれ」
『わかりました。少しお待ち下さい』
 しばらく外部音声が途絶えた。やがて周辺の地図検索を終えたのか、再び音声が戻った。
『この先の岩山の影で休みましょう』
「あいよー」
 岩山まで近付くと、トレーラーは止まった。そのかたわらに、ペリキュラムも立つ。
 トレーラーから男性が降りてきた。男性はペリキュラムを見上げ、叫ぶ。
「おーい。兄さんも降りて休めや」
『僕は護衛ですから、休むわけにはいきません。特に休憩中は、襲撃しやすいですから、気をつけないと』
「そうかい。お堅いな、兄さん。今からそんなんだと、そのうち頭が寂しくなるぞ」
『それでも、レイモンさんを傷つけさせるわけにはいきませんから』
 レイモンと呼ばれた初老の男性は岩肌に寄りかかると、筒から水を飲んだ。
「んじゃあ、そのまんまで聞けや、兄さん。せっかく俺と出会ったんだからよ、昔話くらい聞いていけよ」
『昔話、ですか?』
「おうよ。昔々、まだ人間が機械を使う時代の、さらにその前の時代の話だ。現代では遺跡として残っているな。俺が調査をしているのは、そういう時代の話だ」
『はあ……』
 フレーゼは気のない返事をするが、レイモンはまるで気にせず話を続ける。
「当時は世界中に緑があった。人間は機械を使い、星と同居していたんだな。その点で今の人間は駄目だな。テメエの都合ばっかり考えて、周りが見えちゃいない。今のままじゃ、この星は死滅するだろう。この大地がその象徴だ」
 まるで酒をあおるように、レイモンは水を飲む。口元を拭い、ゴキゴキと首を鳴らした。
「話が逸れたな。当時の人間はエクイットやエネルギー技術、その全てで現代人を上回っていた。なのに、それだけの科学技術で星と共存していた連中が、今は存在していない。緑もない。その理由、お前さんにわかるか?」
『いえ? 想像もできないです』
「だろうな。俺にもわからん」
 そして、レイモンは豪快に笑った。
「だから、調べているんだ。どうして人間が滅んだのか。それさえわかれば、同じ状況になった時に対応もできる。何より、な。知りたいんだ」
『……何を、ですか?』
 ペリキュラムを見上げるレイモンの目は大きく見開かれ、驚きを示していた。
「兄さんは気にならんのか? それだけの科学技術が失われた、その理由。言っちまえば、男のロマンだな」
『はあ、ロマンですか』
「なんでぃ。兄さんにはロマンってのはわからんか?」
『僕は、そういうのはちょっと。今を生きるだけでも精一杯ですよ』
「はあ、そうかい。そういうのも悪くないだろうさ。若い間は死にそうになるくらい悩め。そうすりゃ、ジジイになって良いもんが見えてくるからよ」
 さて、とレイモンは立ち上がり、トレーラーの扉を開いた。
「そろそろ行くぞ、兄さん」
 レイモンは楽しそうに言い、フレーゼも待たずに走り出した。

『止まって下さい』
 休憩した場所からしばらく走ったところで、フレーゼはレイモンに声をかけた。レイモンも、素直に従って車を止める。
 周囲は岩山に囲まれ、上手く見回せない。襲撃する側からすれば、襲いやすい地形と言えるだろう。
『隠れているエクイット! 目的と所属を述べよ! こちらに交戦の意思はない! すぐさま、武装を解除せよ!』
 モルスからフレーゼの声が響くが、返事はない。仕方ないとばかりに腰に装着していたマシンガンを手に取ると、それを右斜め上に向けて発砲した。
 岩山から影が飛び出る。モルスはマシンガンを捨て、影に向かって突撃した。
『ロング・サイブレイド! アクション!』
 脚部が開き、柄が飛び出る。それをモルスが握りだした瞬間、柄から光の剣が現われた。
 問答無用。モルスは光刃を影――現われたエクイットに向かって振り下ろした。
 腕をひとつ、斬り飛ばす。その間に、エクイットは残る右手にナイフを握り、モルスに向かって振り下ろそうとしていた。
 エクイットは全力で刃を振る。モルスは地面を強く蹴飛ばし、一閃するナイフをかわした。
『もう一度だけ聞く。目的と所属を述べよ。こちらは戦いたくないんだ、頼む』
 エクイットは腰を低くして身構えているが、動かない。そのまま、しばらくの時が過ぎた。
 やがて、エクイットは背筋を伸ばして立つと、ナイフを放り投げた。
『わかってくれたのか、ありがとう……』
 エクイットは無言で近付く。あるいは、外部マイクを装着していないのかもしれない。標準的な装備だが、他の装備のために取り外してある機体もある。
 エクイットはモルスの目の前まで来ると、片方しか残っていない腕を差し出した。
『……?』
 しばらく差し出された手を、モルスは黙って見つめていた。やがて、その手を握る。
 そして。爆音と閃光が走り抜けた。
 岩石が吹き飛び、砂と化す。もうもうとした土煙が、周囲を覆った。
 煙が切れた時、二体の巨人が立っていた場所には、モルスだけが立っていた。その青い体に、傷ひとつない状態で。
 振り向くと、フレーゼはトレーラーに声をかけた。
『レイモンさん、怪我や問題はありませんか?』
「いんや。やっぱり高い金を払ってでもお前さんたちに頼んで良かったな。今の爆発を防ぐシステム、どうなってるんだ?」
『それは、僕も知らないんですよ。そもそも、作動できたのも久しぶりです』
 そこでフレーゼは言葉を切り、言いにくそうに言った。
『けれど、レイモンさん。彼らは何なんですか? 正体がわからないと、守るのも難しいですよ。今回は相手がステルス機能を持っていないエクイットだったから対応できましたけど、もし高いステルス機能を持っているエクイットが相手だったら、確実に防げる自信がありません』
 トレーラーの中。レイモンはシートに深く体を沈め、黙考した。
 そして、口を開く。
「兄さん、フレーゼつったな。あんた、約束は守れるタチかい?」
『依頼に関するなら、他言しません』
「そうか。んじゃあ、降りてくれ。でないと、話せないからな」
 今度はフレーゼの黙考タイム。けれど、それもすぐさま終わり、モルスの胸部ハッチが開いた。
 中から出てきたフレーゼは、メットを脱いでシートの上に置き、モルスから降りた。
「これで、いいですか?」
「ああ。ちっと長くなるが、構わんな?」
 フレーゼが頷くのを待ち、レイモンは口を開いた。
「俺が歴史研究をしているのは知っているだろ? 後ろに積んである荷物はな、その一部なんだよ。遺跡から発掘された設計図を基に作った、現行のエクイットを更に強化するユニットが積んである」
「遺跡から、それだけのものが?」
「ああ。さっきも言ったが、大昔の人間は今より優れた技術を持っていた。人型兵器に関しても同じだよ。そういう、昔のテクノロジーを利用して作った、エクイット強化用ユニット。こいつが渡れば、そこでのエクイットの力は現行より飛躍的に高まる可能性がある。それを阻止しようと、近隣諸国が暗殺者を送ってやがるのさ」
「でも、それなら軍を送った方が早いんじゃ……? それに、護衛だって僕らのような傭兵じゃなく、きちんとした軍が守るべきだと思うんですが」
 レイモンは頷き、
「兄さんの言う通りだ。だが、どこも事情ってもんがある。要するに、こいつはまだ『存在しない技術』なのさ。どこの国も、他の国に渡る前に奪いたい。不可能なら、誰かに知られる前に破壊したい。んで、それを表向きにしたくない。だから正式な軍は出せないのさ」
 レイモンは自嘲的な笑みを浮かべた。
「俺ひとりじゃ、あんたらほどの相手に頼むほどの金はないさ。研究ってのは金がかかるからな。つまりは、俺のスポンサーは一国の軍ってわけだ」
 フレーゼは運転席に座るレイモンを見上げていた。説明を頭の中でしっかりと反すうし、質問を口にする。
「そんなに大事なこと、話してよかったんですか?」
「お前さんが話せって言ったんだろうが」
 それはそうですけど、と、フレーゼは口ごもる。それを、レイモンは豪快に笑い飛ばした。
「はは、冗談だ。お前さんは今どきにしちゃあ珍しい、素直な若者だな。実と言うとよ、お前さんの人柄が気に入っちまったんだ。話したのもそれが理由よ。だから、他言すんなよ? ま、俺の見立てが間違っていなけりゃあ、お前さんはそういうずる賢い人間じゃあないけどな」
 フレーゼは否定せず、照れ笑いを浮かべた。
「さ、わかったら行くぜ。外にいる時間は、短い方がいいからな」
「――はい」
 頷くフレーゼの瞳には、複雑な色合いが宿っていた。