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☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 放課後。紅は、胡桃と一緒に帰る。知り合ってから知ったのだが、実は家も近所だった。 紅たちの町は、海から近いところにある。磯の香りを感じながら、並んで歩く。 「そういえば紅、今度はいつゲーム参加する?」 「んー。来月かなぁ。今月キツイし」 そんなことを話ながら歩いていると、海べりを通り掛かった。そこで、紅は足を止める。 海に近いこの町は、こうして普通に海辺を眺めることができる。夏には海水浴客が押し寄せる海岸も、今は犬の散歩をする人か、どこかの運動部が走り込む姿しかない。 そんな海岸の向こう側には、真っ青な空がある。あの青い空のどこかでは、たくさんの人が死んでいるのだ。それが、不思議でしょうがない。 「空、きれいなのにな……」 そんな空を汚す何かが起きているという事実と、沸かない実感。 それは、ここが田舎町であることは関係ない。紅に限らず、日本人全員が持っているような感覚だった。 「……あれ」 空を轟音が走る。見慣れない飛行機ーージェット戦闘機だ。 「あれ、自衛隊の飛行機じゃない?」 「そうっぽいね。なんだろ?」 嫌な予感。それは、直後の轟音と共に判明する。 「ッ!?」 ズドンと空が爆発した。戦闘機が撃墜されたのだ。金属の破片が、バラバラと海に降り注いでいる。 「な、何!?」 「あ、あれ!!」 青い空と、青い海。その間に、黒い点。 二つの黒い人影は、ニュースで何度も見た、あの機械兵士だ。 「う、嘘っ……。な、なんでこんなところに」 「ヤバくない!? 逃げよう!!」 「う、うん!」 走り出すが、空を飛べる相手に、走って逃げたところでいくらも意味はない。 機械兵士は紅たちの姿を認めたらしく、まっすぐこちらに飛んでくる。 連中は、アメリカをはじめとする欧州諸国で猛威を奮っている。戦闘機でも敵わないうえ、たくさんの人を機銃で殺してしまうという。 もちろん、ただの女子高生に過ぎない紅たちが、何かをできる相手ではない。 「ダメ!!」 もうどうしようもない。押し寄せる不安と恐怖。 足がもつれる。息が上がる。 そんな紅の前に、ガシャンと鋼鉄が舞い降りた。 「あ……」 全身を黒光りする金属で覆った、機械の兵士。両手は銃口になっている。その片方が紅を指すーー。 「ッ!!」 次の瞬間。銃口がバラバラに弾けた。 機械兵はすぐさま飛び立とうとするが、その前に砕け散る。 「遅れてすまない」 気付けば、機械兵のいた場所に、人間が立っていた。 機械兵士に似た、けれどそれとは違う、ブルーメタリックの全身鎧。背中にはジェット機みたいなユニットを背負い、手には長い刀のような武器。顔は上半分がバイザーみたいなもので隠れて見えないが、背丈や雰囲気から、女の子とわかる。 「大丈夫か? 怪我は?」 「あ、ありません」 「よし! ここを動くなよ!」 ふわりとブルーメタリックの少女が浮かび上がった。 そのまま、猛烈な勢いで飛んでいくと、空中で機械兵士と戦闘を始める。 「な、何あれ!? 何あれ!?」 隣でクラスメイトが騒いでいるのも耳に入らない。完全に腰が抜けて、立ち上がることもままならなかった。 青い鎧の少女は慣性を無視するような直角軌道で敵の攻撃をかわし、肉薄する。 そのまま手にした刀を振るうと、機械兵が両断された。 「や、やった!」 歓声があがったと思いきや、 「えっ!?」 続いて、機械の兵士が飛んでくる。その数3体。さっきよりも多い。 青い兵士はすぐさま取って返すと、今度は3体の機械兵に斬りかかった。 だが、今度は3VS1。相手の動きも早く、しかも数があるので、詰められない。近づけなければ落としようがない。 「あー! ヤバい! あっ、そこだー!!」 隣であがる歓声。紅は、青い少女の戦いを呆然と見つめる。 おそらくだが、青い少女の剣ならば、機械兵士を一刀両断にできるのだろう。だが、それはそこまで近づければの話だ。 戦国時代ならいざ知らず、現代戦において、白兵戦などそうそうない。ましてや相手は空を飛び、銃を持った敵。 奇跡的な運動性で回避はしているものの、このままではジリ貧だーー。 と、機械兵士が放つ銃弾が青い少女をかすめた。脚部の装甲が削られ、中から何かが覗く。 「あれ……銃!?」 そう、それは形状こそ普通のライフルではないものの、どう見ても銃だった。 「ちょっと!! 銃があるならなんで使わないのー!!」 思わず紅が叫ぶと、青い少女は言い返す。 「私は銃が苦手なんだ! サブで持ってはいるが、こんな連中に当てられるわけないだろう! 市街地で外したら被害が大きい!!」 「そんなこと言ってる場合!? このままだとあなた、負けちゃう!!」 「わかってる……っと!!」 直角軌道で敵の攻撃をかわす。その勢いで、覗いていた銃が落下した。 「わー!?」 がしゃんと落ちてきたのは、映画で見るようなライフルではなく、どこかゲームチックな、丸いノズルのついたハンドガン。 「それなら」 それは、特に考えた動きではなかった。 紅は、目の前に降ってきた銃を手に取る。しっくりと手に馴染むそれを、紅は片手で構えた。 「コウ!? ヤバいって!!」 「大丈夫」 あの子は苦手だと言っていたが、そんなこと関係ない。 こんなの、簡単に当たる。 引き金を引いた。反動はあまりない。放たれた光線は、三次元的に空を舞う機械兵士に、みごと命中する。腰の装甲を打ち抜かれ、動きがにぶった敵。 その隙を逃さず、青い少女はすぐさま肉薄し、両断せしめる。 「ここと、ここ」 紅は、さらに引き金を引く。すると、空を飛んでいるはずの敵が、なぜかみごとに打ち抜かれていく。一撃でも当たれば、即時停止はしないものの、相手の動きは遅くなる。遅ければ、青い少女は簡単に斬り伏せることができた。 3体の敵を倒したところで、敵は続いてこなかった。青い少女は、刀を腰のハードポイントにマウントし、降りてきた。 「狙撃したのは君か?」 「あ、えっと、はい。ごめんなさい」 素直に銃を返却すると、青い少女は銃を受け取り、確認する。 「……なぜ当てられた? いや、それよりも。なぜこの銃が使えた?」 「えっと。あたし、サバゲーが趣味で。銃に慣れてて」 「そういう問題じゃない。この銃は、才能がなければ引き金を引いたところで何も出ない。だからこそ、なぜ使えたんだ!?」 「さ、才能?」 「そうだ」 青い少女がバイザーを脱ぐと、茶褐色の瞳が覗いた。 「まさかお前も、選ばれたのか?」 「選ぶ、って?」 「何も知らないのか……」 青い少女は短い髪を払い、バイザーを小脇に抱えた。 「悪いが、私も一般人に説明する権利はない。君達がどんな疑問を抱えていようとも、それに回答する権利はない」 「け、権利って。アタシら死にかけたんですよ!?」 「軍事機密だ。ここで会話をしていること自体、咎められる恐れのある行為だ。だが、捨て置くわけにはいかない」 青い少女は紅を見つめ、 「君。名前は」 「あ、えっと、真中です。真中紅」 「マナカ、コウ。ではコウ。君には、義務が生じた」 「ぎ、義務?」 「そうだ。その銃は、特別な才能を持つ者でなければ、射撃はできない。言い換えれば、君は才能を持っているということになる。そして、才能を持つ者を遊ばせておけるような戦況ではないんだ」 「戦況って」 「知らないわけはないだろう? 件の宇宙船と戦う仲間が、必要なんだ」 「戦う、仲間……」 「そうだ。すぐに私と共に」 言葉はなかばで途切れた。青い少女は空を見上げる。 「ハナダ! 帰還命令だよ! てか早すぎ! 一人で片付けないでよね! 危ないでしょ!」 「……」 空を見ると、青い少女に似た鎧が二人分、空を飛んでいた。仲間だろうか。 「すまない! さて、コウ。君には資格がある。あとは、選択の問題ではある……。選択肢はないがな」 「それって」 「一緒に来てもらおう」 「え? ちょっ!?」 青い少女はコウを姫抱きにすると、そのまま空に飛び上がった。 「ちょっとおおおおおおお!?」 「何よハナダ、その子は。お持ち帰り?」 「才能持ちだ。ボスに会わせた方がいい」 「だからっていきなりそれは誘拐にならない? そりゃまあ、アタシたちにニッポンの法律は適用されないかもだけど」 「つまりは問題ないということだ」 「強引ねぇ。あ、あなた。ごめんなさい、ちょっと付き合ってね。それと、暴れると落ちると思うから、しっかり掴まっていた方がいいわよ」 「え!? ええ!?」 「よし、行くぞ!!」 「ちょっとおおおおおおおおおおおおお!!」 紅の抗議は風に飲まれ、そのまま空へと消えていく。 学校帰り。紅も、青空を飛ぶとは夢にも思っていなかった。 |