☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 その閃光は、紅にも見えていた。
「ど、どうしたんですか!? 何事!?」
「敵の作戦! 戦線を伸ばされてる、これじゃ連携できない! 狙い撃ちにされるわ!!」
 ブランの声に、紅はバックを始めた。素早い機動でハナダも集まる。
「誰かやられたのか!?」
「カノの班!! アサルトが一人!!」
 ブランの通信は聞こえている。だが、その内容が紅の頭に入ってこない。

 やられた? 誰かが? 誰が?

 これは戦闘だ。実戦だ。
 一方的に攻め続けるなんてことがあるわけない。ましてや、相手も素人ではないのだ。
 戦えば傷つく。そんな、当たり前のこと。
「カノ班は回収優先で戦線を離脱するわ! 戦形を立て直さなきゃ! 急いで!」
「は、はい!!」
 すぐさま後ろに向かって飛ぶ。
 次の瞬間、紅は回避機動を取っていた。何かが見えたわけではない。ただの直感だった。
 だが、今まで紅が飛んでいた空を、何かがよぎる。
「敵影発見!!」
 ブランの悲鳴にも似た声。
 いつからそこにいたのか。空が揺れ、青い世界の中に、黒い点が生まれる。
「光学迷彩か……! 随分と性能がいいじゃないか」
 青い空、青い海。青しか存在しない世界で、青く彩られてしまえば、黙視での確認は困難になる。斥力装置で飛べば、ジェット機のような炎さえ見えない。
 そうやって、隠密で動いている者がいたのだ。
「光学迷彩を解除したってことは、やる気だな。戦闘機動というわけか!」
 もはや、逃げることなどできやしない。敵に背中を向ければ、その瞬間に狙い撃ちされる。
 ハナダは刀を構えると、先手必勝とばかりに突っ込む。紅は慌てて銃を構えるが、敵機はすぐさま回避行動に移った。
「!?」
 その動きが、さっきまでの機械兵士とは明らかに違う。こちらの狙いを先読みし、わざわざ狙いにくい、ハナダと軌道が重なる方向を飛んでいく。
 嫌らしい、どこか人間くささを感じる動き。
「学習でもしてるっていうの!?」
 撃ちたいが、とんでもない機動で動くハナダの動きは、紅でも読みきれない。そのため、下手に射撃することができないのだ。
「コウ、上!!」
 ブランからの通信。紅は咄嗟に、狙いもつけずに上方に向かって射撃した。
 ヒットの感覚を得つつも、回避機動。
 敵影を改めて確認する。飛翔ユニットをかすめたようで、動きが鈍っている。チャンス!
「ふっ!」
 紅は銃を構え、流れる動きでそのまま射撃する。狙う先はどてっ腹!
 斥力装置で加速した金属弾は敵機を撃ち抜く。崩れ落ちる機体、そしてーー流れる赤い液体。
「え?」
 それは、どう見てもオイルなどではなかった。そもそも、さっきまで撃ち落としていた機体から、液体が出たことなど一度もない。
 たまたま当たり所が良かったから? いや。違う。
「にん、げん?」
 そう、考えてみれば、気付いて当然だったのだ。
 敵は宇宙から来た。機械だけの種族でもない限り、人間に近しい種類は存在するだろう。宇宙人だ。
 宇宙人がいるなら、宇宙人の兵隊だっているに決まっている。
 人間であれば、空は飛べない? そんなわけはない。自分たちはストライカーユニットという装備によって、空を飛んでいる。なら、相手だって同じことができるはずだ。
 その時になって、初めて気付いただけで。
 敵は、最初から機械などではなかった。
「敵は……。異種族、なんだ」

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「まさか、有人機!」
 ハナダは遅れて理解していた。
 機動がいつもと違う。フェイントを混ぜているのに、捉えきれない。
 機械には機械独自のアルゴリズムというものがある。得意があり、不得意がある。人間の動き、その感性に基づくものは、機械が完全に捉えられるようなものではない。
 センサーの範囲からいきなり離脱すれば、相手は索敵モードに戻る。その刹那、攻撃と索敵の合間にあるわずかな停止時間ーーそこがハナダの狙い目だった。
 直角に、瞬間的に加速できるハナダは、相手の索敵範囲から一瞬にして逃れることが可能だ。しかも、一瞬にして近寄ることもできる。
 1秒にも満たない時間を、ハナダは存分に利用する。だからこそ、一人でいくつもの敵を撃墜できるのだ。
 だが、有人機が相手では、そうもいかない。
 敵はこちらの動きを、センサーではなく勘で捉えている。間違いなく人間、それも訓練や経験を積んだ人間だ。
「軍人か!」
 面倒な相手ではある。だが、ハナダとて、素人というわけではない。
 剣を持って10年以上。間合いというものを違えるほど、新人ではない!
「せいッ!!」
 間合いギリギリからの斬撃。正確に捉えることはできなかったが、小手の一本を取った。
 剣道ならば一本で済む斬撃も、ストライカー同士ならば、それは切断だ。手先が飛び、血が舞う。
 もだえる相手へのトドメは味方に任せ、次の敵へ。直後、支援射撃が敵を貫く。ミドリの遠隔射撃だ。
 高火力型のミドリは、アサルトのハナダが斥力をキャンセリングしていれば、超遠距離から敵を貫くことができる。特攻タイプのハナダとは相性が良かった。
「粘れば……!!」
 前衛で粘れば、キャンセリングが反応する。そうすれば、ミドリの狙撃が可能になる。
 撤退は不可能だ。敵に背中を見せて、逃がしてくれるわけがない。となれば、ダメージを与えることは必須!
「なんとしてでも、落とす!!」
 ハナダの集中力は高い。目の前の敵を狙いながら、他の敵を視界に入れることだって忘れていない。
 だが、その目が探しているのは”敵”だけで……。味方の動きが見えているわけではない。
 ハナダは、味方がーー紅の動きが鈍っていることには、気付いていなかった。