☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「……」
 ミドリは正確に狙撃し、敵を撃墜していく。
 火力支援機であるミドリにとって、離れた位置取りは基本だ。それを、ブランの観測結果をもとに、攻撃先を決めていく。
「ミドリ! コウの支援をお願い! 3時の方向!」
 視線を向ける。やたらともたついたユニットーー紅機だ。
「ちっ」
 本人のパフォーマンスはともかく、キャンセリングは機能している。死角から迫っていた無人機を3体、立て続けに打ち落とす。
「数が多すぎる……」
 相手の数が多い。しかも、有人機が混じっている。
 有人機と無人機は、この距離からでは区別がつかない。どちらも機械で覆われているからだ。
 じっくり動きを観察すれば区別できるが、そんな余裕はない。今は、ブランの指示通りに撃つだけで精一杯だ。
「ああもう!!」
 虎の子の空対空ミサイルAAMまで使い、撃破していく。
「このままじゃあ弾切れするぞ!!」
 マイクに叫び、ミドリは無人機を打ち落とす。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 まさか、光学迷彩を用いた有人機なんて。
 なにもかもが想定外だった。シミュレーションさえしたことがない状況に、ブランもまた、パニックに陥りかけていた。
 なんとか均衡を保っているのは、仲間をサポートしなければいけないという義務感から。
 光学迷彩機を捉えるのは容易ではない。HUDには目まぐるしく表示が変化し、背中の演算装置はフル稼働。ECCMもECMも全開で稼動させ、なんとか敵を撹乱しようと試みる。
「っ!!」
 迷彩機を発見。紅の近く。ミドリの位置からは紅が射線に入るし、ハナダは遠い!
「このぉ!!」
 ブランは斥力装置をバーニア代わりに、空を舞う。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 紅は、突如として現れた有人機に動揺していた。
 機械を壊すのは、どこかゲーム感覚ではあった。自分の命はかかっていたが、それでもゲームと大きく変わらない気持ちがどこかにあった。
 他人を傷つけてーー他人の血を見て、初めて理解したのだ。
 これは、本物の戦いなのだ、と。
「あ、ぁぁ……」
 怖い。撃てない。
 銃が震える。こんなこと、今まで一度だってなかったのに。
 そのまま、どうしていいかさえ分からずにいると、
「コウ!! 上!!」
 はっ、と気付いた時には、突き飛ばされていた。
 目の前を、赤がよぎる。
「……え?」
 それが、流れた血であると気付いた時には、すでに遅く。
「ブラン、さん?」
 ふわりと舞う金色の髪が、赤く汚れる。
 あんなにも、綺麗だった髪が。
「ブランさん!!!」
「コウどいて!!」
 ミドリからの通信。反射的に体が回避機動を取る。直後、ミドリの射撃が敵機を落とす。
「ブランさん! ブランさん!!
 慌てて抱き留める。ブランの斥力装置が反応していない。飛翔力を失っている。
 飛翔ユニットは、本人が気絶していても起動する。エネルギーが枯渇でもしない限りは。
 だが、今、ブランからは飛翔力が失われていた。それが意味するところは……。
「ブランさん? 嘘でしょ? ブランさん!!」

 ーーユニットを起動させる者が、いないということ。

「ブランさん!!」
 何度も呼びかけているのに、反応がない。
 どうすればいいのか。どうしたいのか。何も分からず、ただ呼びかけることしかできない。
「コウ! 集中しろ!」
 と、そんな紅の腕を、ハナダがつかむ。そのまま空中を無理やり引っ張っていく。気付けば、周囲の敵機はハナダとミドリがあらかた片付けていた。
「ブランさん……」
 けれど、紅にとっては、そんなことはどうでもよかった。
 周囲も目に入らぬまま、自分の中で徐々に冷たくなっていく仲間を、ただ見つめることしかできなかった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

《通信。リーゼルドがやられました》
《確認している》
 青い画面。そこに光る白い点と、黒い点。
 白い点がひとつ消える。黒い点は大きく横に広がっているものの、動きはなかなか鋭い。
 その部屋は、明かりをつけていなかった。照明となるものは画面の光だけ。青い光が、その人物をぼんやりと照らしている。
 白い肌に、青い髪。青い瞳は、同じく青い画面をじっと見つめている。落ち着き払ってはいるものの、歳の頃からすれば、まだ20そこそこといったところだろうか。
 その女性、、は、ぽつりとつぶやく。
《ここまでだな》
《よろしいのですか?》
《戦線は伸ばせたし個別に落とせそうだが、反撃も喰らう可能性が高い。連中、なかなかユニットを使いこなせているな。威力偵察には十分だ。これ以上、こちらの被害が出る前に、撤退させろ》
《了解しました。総員撤退!!》
 伝播していく指示を聞きながら、女性は椅子に深く座り直した。
《なかなか一筋縄ではいかないか。未開の猿と聞いていたが、そうでもないようだな》
《学習能力がありますから。ユニットの開発を成功させたのは予想外でした》
《そもそも、最初の電撃作戦が失敗した時点で、こちらの方が不利なんだ。なんとかしなければな》
 その言葉には、確かな疲れがにじんでいた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「撤退していく……」
 攻撃範囲から敵がいなくなったことで、ようやくハナダは剣を下ろせた。
 海に去って行く敵の姿。擬装機体がいる以上は気を抜けないが、これでこちらも撤退に移れる。
「総員撤退。規定に従い、ブランに代わって私が部隊を指揮する」
 各班が撤収に入る中、ハナダは振り返る。
 ぐったりしたブランの体と、それを支える紅。それに、慌てて飛んで来るミドリ。
「また一人か」
 ぐっ、剣を握る。
 痛いほどの力で握っても、心の痛みは、ちっとも拭い去れなかった。