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外観の広さから比べれば、その通路は驚くほど狭かった。 すれ違うこともギリギリほどしかない幅。そこを、ひとりの女性兵士が闊歩している。後ろに付き従うのは、この作戦が始まった時から一緒にいる部下だ。 やがて、通路が途切れると、部屋に出た。 そこはこの船におけるメインとなる部屋だった。大型モニターには様々な情報が並び、同時に外の景色をも映し出している。 いつもならうっとうしく飛んでいるカトンボも、今日は見当たらない。休憩中、といったところか。 《データを出せ》 《はい。出せ!》 部下の指示が、ルームの中に伝播していく。 それは、先日、島国で発生した戦闘の結果だった。 《適合者がこれほどに……。しかも、手練れときている》 《はい。有人機が落とされているのは事実です。》 《どう思う》 《可能性はあると思います。あれがあるから、適合者が多い。優秀な人材が集まる。そういう可能性です》 《……だな。いいだろう、どうせジリ貧だ。ピンポイントで狙うか》 咳ばらいひとつ、女性兵士は大きな声で言う。 《総員! 次の目標は東!! 島国を狙うぞ!!》 おう、という地鳴りのような響きが返る。 その様に、兵士は満足そうに頷くと、部下を見やる。 《おい。あいつも出撃させろ》 《ラーゼリアですか?》 《無論だ》 《……あいつは強い敵がいないと嫌がりますが》 《構わん。あの国なら、ラーゼの相手になる奴も一人くらいはいるだろう。いなければ、あいつはどうせ皆殺しにするだけだ》 構わんだろう、と言う上司に、部下は頷いて返す。 《承知しました》 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ その日は、いつか来る日だった。 けれど、なんでもない平日だった。 駅前の大通りには、たくさんの人が行き交っている。時刻は朝の8時前。通勤ラッシュの時間であり、通学する生徒も同時に行き交う、まさにピークタイム。 その中を、社会人になってはや5年目の楠井は歩いていた。 今日は何をしなければいけないか、などということを頭の中で考えながら歩く。その中で、ふと、楠井は顔をあげた。 「ん?」 それは、大きな鳥にも見えた。けれど、こんなところを鳥が飛んでいるはずもなかった。 そう、それは飛行機だった。それも、テレビでよく見るような戦闘機やジェット機とは、どこか雰囲気が違う。 異国というわけでもない。まさに、異世界の文化が入り混じったような、考え方の異なるフォルム。 思わず、多くの人々が足を止める中。その飛行機から、黒い影がバラバラと落下していく。 影は空中で向きを変え、四方八方へ散って行った。そのうちの一人は、楠井のすぐ近くに降下する。 人の形をしていた。黒い金属で、無駄のないフォルム。 金属人形の腕は、銃口になっていた。 「え?」 次の瞬間、楠井のすぐ隣にいたサラリーマンが、ミンチになった。 「……え?」 暖かい血潮を浴びてなお、楠井は動けなかった。何が起きているのか、頭が理解していなかった。 だから、楠井はそこで人生を終えることになった。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 組織のボスである関野は、その知らせを自室で聞いていた。 「九州が強襲された……!? 被害は!!」 「長崎、佐賀、福岡まで戦線が伸びているようです。飛翔ユニットに加え、大型の飛行船が来ているようですね」 秘書のアリサは情報を整理しつつ、画面に出す。 緊急要請もスクランブル要請も来ているがーー。 「ちっ! 間に合わない……!!」 ストライカーユニットの航続距離では、九州までたどり着くまでに燃料が切れる。 航空自衛隊の支援は不可欠だが、それを待って九州まで行っても、蹂躙されるのは止められない。もはや、現地にいる人間の生死は絶望的だ。 「しかも、今回、相手は……。いつもよりも人間を殺すことを重視しているふしがあります」 「どういうことだ」 「いつもの進行具合より遅いのです。そのぶん、ひとつの地域を念入りに根絶やしにしている可能性があります」 「九州の自衛隊は」 「戦いにならないことは、ボスが最もよくご存知では?」 「……ああ、その通りだよ」 自衛隊の兵器では、10式戦車でさえ、斥力装置の前では無力だ。そもそも、人間大の機動兵器を、戦車や戦闘機で狙うのは無理がある。人間を殺すために作られた兵器ではないのだ。 「どうしますか」 「……総員を、兵庫に展開させよう」 「そこまでの土地は?」 「捨てる」 それは、ここからたどり着いて、展開できるまでのーーギリギリの距離感。 「南九州は被害が少ないかもしれないが、そこにたどり着く前に、敵の本隊と出会ってしまう。山陰に展開するのも同じ、こちらが態勢を立て直す前にやられる可能性がある。ストライカーユニットは要だ。落とさせるわけにはいかない」 「当然、幕僚長あたりは批判すると思いますが」 「知ったことか。我々の役目は何だ? 最大限の人間を生かすこと、それが役割。必要な犠牲は払わなければいけない」 「人間の命でも?」 「わかっていて言っているだろう、お前」 「もちろんです。そういうことを言わないと、ボスはお怒りなので」 「ふん。すぐに空自へ協力要請しろ」 「もうしてあります。今回は時間がありませんので、30分以内に迎えが来ます」 「さすがは自衛隊だ。よし、総員出撃させろ!」 「アイ、マム」 |