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 一方、船の中では、一人の女性士官がユニットを装着していた。
《ふうん。やるじゃん》
 バイザーの中では、外の戦況が映し出されている。戦闘空域のグリッドマップと、そこに展開している機械兵士たち。有人機は、実はそれほど多くない。総勢10人ほど。それも機械兵士の指揮と主な機能とするサポーターで、アサルト系の装備をしている者はいない。
 だからこそと言うべきか、相手に押されていた。機械兵士では、相手を圧倒できないのだ。
《面白い。これなら、誰か一人くらいは相手になるかな》
 装着完了。
 右手には背丈ほどのソードを。左手には中距離を狙う銃を装着。飛翔ユニットは出力全開で。
《さあ、踊っておくれよ。雑魚共が!!!》

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 その時、船から一体の機械兵士が飛び出した。
 ハナダはその動きをしっかり見ている。超高速で飛び回り、無秩序な機動で銃弾をかい潜っている。
「有人機……!!」
 有人機を紅に任せるわけにはいかない。そう判断したハナダは、自ら敵機に迫る。
「でえええええええ!!」
 気合一閃。確実に狙える位置だった。
 だが、剣は空を切った。
「ッ!?」
 直前で軌道を変えられた。気づいた時には、蹴り飛ばされていた。
「ぐッ!!」
 すぐさま回避軌道。銃撃をギリギリでかわすが、弾丸は近くにいた、別の班を襲う。
「あっ!?」
 そのまま有人機は別班のアサルトに迫ると、あっさりと両断した。斬られた側も、決して遅かったわけではない。なのに、まるで軌道を知っているかのように、正確に捉えられてしまっていた。
「くそッ!!」
 落下する味方機を追いかける暇はない。さいわいにも有人機はこちらに背中を向けている、今がチャンス!
 一気に間合いを詰め、斬りかかる。だが、その間にも、敵機の動きはスローモーションのように見えていた。
「あ……」
 銃口がこちらを向く。背中を向けたままなのに、銃口は正確だ。
「ぐあっ!?」
 銃撃。致命傷はかわすが、飛翔ユニットに銃弾が当たる。出力低下ーーレッドゾーン。
「化物かッ!!」
 接近戦が主体のハナダ機にとって、飛翔ユニットの出力低下は死んだも同然。
 撤退するしかなかった。

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 ハナダがやられる瞬間を、紅は見えていなかった。
 一瞬だけ目を離した。その間に、ハナダ機はおかしな動きをしながら降下していく。
「やられた! 森に降りる!」
 耳元で聞こえるハナダの声。
 やられた? ハナダが?
 この部隊で最古参のハナダがーーこんなにあっさり?
 有人機はゆらりと剣先を揺らすと、今度は紅に向かって来る。
「ッ!!」
 それは、恐怖から来る反射だった。
 思わず銃撃しながら、すぐさま回避行動。敵機の銃弾はギリギリで回避する。
 続いて襲い来る斬撃。それを、ただ勘だけで回避していく。
 一撃でも浴びれば即死するような、超至近距離。近づき、離れながら、まるで互いに踊るように、空中を乱舞する。
「今までの相手と違う……!!」
 それは、感覚で理解できた。
 機械兵とは全然違う。もちろん、有人機とも違う。
 まさにエース級。一人が千人にも値するという、一騎当千の化物!
「くっ!」
 右。左。左から上!
 複雑に可変する剣の軌道。回避できているのは奇跡だ。
 バイザーに表示されるアラートなど当てにもならない。自分の勘だけを信じて空中を舞う。
 こちらも反撃で撃つが、元より気持ちの入っていない射撃。とても、こんなエースを捉えられるようなものではない。
 わずかにレティクルの中に捉えても、すぐさま逃げられてしまう。
「これが、経験の差……!!」
 あのハナダでさえ落とされたのだ。
 こんな相手。かなうはずはない。
 浮かぶ冷や汗に、紅はそっと唾を飲んだ。

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 ハナダからの通信は、当然、ミドリにも聞こえていた。
 慌てて目を向ければ、今度は紅が襲われている。黒い、流線型のようなフォルムの機械兵。
「……」
 紅が狙われている。助けなければ。援護射撃をするだけでも、接近用の武器はおいそれと使えないのでは?
 いつも通り銃を構え、いつも通りレティクルをざっくり合わせる。弾種は誘導性小型ミサイル。
 あとは引き金を引くだけ。その段階になってーーけれどミドリは、引き金を引かなかった。
 引けなかった。

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 ミドリの支援もなく、他の班も介入できないような、ギリギリの攻防。
 それを支えているのは、紅の才能だけだ。

 ーー見える。

 相手の動き。剣の軌道。
 どれほどシステムが進化しようとも、体構造は人間と大差ない様子。ならば、どれほど無茶をしたところで、足で剣を振るうなどという動作はありえない。
 ならば、かわせる。かわせるはず!!
 歯を食いしばって逃げつづける紅。その様子に、敵機は業を煮やした。
《ええい、ちょこまかと!》
「えっ!?」
 有人機から声が聞こえた。
 紅には、何を言っているか理解できたわけではない。ただ、苛立っているのだけを感じとる。
「相手にも感情が……」
 生まれそうになる躊躇。それを噛み締めて堪え、回避に専念する。
 相手はエースだ。それは、それだけ場数を踏み、手慣れているということだ。
 だが、それらも感情がすべて台なしにする。逸れば無用な動きが増え、それが隙になる。
 もちろん、相手の方が格上だ。このままでは回避しきれるものではない。ーーならば。
「ここ!!」
 相手の斬撃に合わせ、銃を振るう。剣と銃が斜めで噛み合い、刃こぼれする。
《馬鹿が! 捉えた!!》
 敵機の銃口が紅を狙う。その瞬間、紅もまた、引き金を引いていた。
「ッ!!」
 銃口が曲がっていたのだろう、衝撃はいつもより強かったが、これほどの至近距離ならば関係はない。
 銃弾は、相手の銃口に入り込みーー爆発していた。左腕に持っていたはずの銃はすでに残骸と化しており、とても射撃ができるような様相ではない。
「今!!」
 銃さえなければ、中長距離を狙う攻撃はできない。
 紅は相手に背中を向けると、全力で逃げに徹する。
《貴様!!》
 敵機はすぐさま紅を追い掛けようとして、動きが止まった。
《何!? 今それどころじゃ……ちっ!! 了解だ!!》
 敵機は銃を投げ捨てると、剣で紅を指しながら叫ぶ。
《貴様!! このままで済むと思うなよ!!》
 吠えるだけ吠えると、敵機もまた、撤退行動に入る。その姿に、紅はほっと息を吐いた。