紅たちの戦いは、結果的に意味があった。
 敵船は鳥取の山間部に陣取り、そこから動かなくなった。自衛隊が遠巻きに敵機を囲み、防御陣を形成する。それだけの時間は十分に稼げた。
 もっとも、敵が本気で進攻を再開したら、ストライカーユニットを持たない自衛隊では、相手にもならないだろうが……。
 苦しい状況ではあったが、紅たちは兵庫に臨時の拠点を作った。
 兵庫からは緊急の避難命令が出され、大半の人々は関東地方へ避難している。そんな中、人影がほとんどなくなった市内で、小学校を借りることになった。
 重要なのは、ストライカーユニットのメンテナンスだ。ハナダ機をはじめとして、いくつかのユニットが中破・大破している。
 だが、関東にある工廠そのものを移動させることはできない。そこで、近くの協力してくれている企業から、設備を借りることになった。
 荒野をはじめとする整備班と、研究班の星が到着したのは、紅たちの戦闘から一昼夜経過した、夜半のことだった。
 到着早々、整備班は体育館に入り、そこでユニットの整備と修理を行うことになった。材料は、とにかく各地の協力企業からかき集める。
 すぐに、体育館はガンガンと騒々しい金属音が響くことになった。
 その間に、紅たちは星に呼出しを受けた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 校舎の一室。普通教室で、机を挟んで相対しているのは、星と紅、それにハナダとミドリ。
 三人を前に、星は鋭い視線を向ける。
「敵の有人機と接触したのでしょう」
「接触した。それが?」
 ハナダが代表する形で返事をする。
 星はますます視線を鋭くしながら、
「重要なことよ。敵の有人機から情報が得られるということは」
「……有人機など、米軍だって戦闘しているだろう。それに、先日の戦闘でも現れている」
「そうね。でも、得られている情報は少ない。いい? 有人機の存在は大事じゃないの。本当に大事なのは、無人機があれだけいるということよ」
「それが?」
「わからない? こちらは有人機でなければキャンセリングができないのに、相手は無人機でそれができているのよ」
 はっ、とした。
 そうだ。こちらは人間がいなければいけないから、わざわざストライカーユニットを使用している。なのに、相手は無人機で可能なのだ。
 もし戦闘機や戦車にコアユニットを搭載できるなら、戦闘はもっと楽にできるはず。
「相手には、こちらにない技術があるはずなの。それを知りたい。なんでもいい、何か言ってなかった?」
「言う、と言われてもな。戦闘中だったし……」
 ハナダが困ったように左右を見やると、紅は少しだけ表情を変えた。
「……あたし、聞いたよ。敵の声」
「本当? なんて言っていた?」
「なんて言っていたのかは、よくわからない……。なんというか、言語そのものが違う感じがした。ほら、英語とかフランス語とか、聞き取ることもできないじゃない? そんな感じ」
「なるほどね。そもそも異星人だから、言葉も違って当然、か」
 ぎしっ、と椅子を鳴らす。さすがに小学生用の椅子は小さすぎて使えなかったので、パイプ椅子だ。
「何かあるはずなのよ。敵がコアユニットを使いこなせる何かが」
「……あの。敵機って、人なんですよね」
「ん? まあ、人類と言えばそうなのかもしれないけど。異星人に、地球上の分類学が意味を持つかは疑問だけどね」
「そうですよね……」
 うつむく紅。その感傷は、星には関係のないことだ。
 だから、星は興味を示さなかった。かわり、ハナダを見る。
「他に何か気づいたことは?」
「そうだな。これは単純な疑問だが、なんで敵は人型兵器ばかりなんだろう」
 思い返す。
 巨大戦艦を用意できるくせに、攻めてくるのは、ストライカーユニットと変わらない人間サイズの敵機ばかり。
「無人機も同じ、有人機もそうだけど、もっと大きな兵器とか用意すればいいじゃないか。それこそ戦車の方が安全安心だ。兵士は装甲で守られるし、高速で移動ができて、しかも滑空砲の破壊力があれば大抵のものを破壊できる。これ以上の兵器はないはずだ」
「……それは、こちらもわかっていない」
「だが、戦艦でもキャンセリングをしているんだ。戦車や戦闘機が使えない理由はないはずなんだが」
「そうね。ただ、各国の戦闘状況を鑑みると、確かに乗り物は戦艦以外に発見されていないわ。それはただの事実。ただ、それ以上の理由が見えてこない」
「謎だらけ、というわけか」
 どこからともなく現れ、何の目的かもわからぬまま、ただ攻撃を続けるだけの敵。
 まるで映画の怪獣だ。人類は、ただ破壊し尽くされる。
「……」
 打てる手は、あまり多くない。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

《くそっ!》
 ガツン、と壁を蹴飛ばす。だが、怒りはおさまらない。
 島国の山間部で発生した遭遇戦。敵機はいくつか撃墜したし、戦果としては十分なものを得られている。
 だが、それでは足りていない。彼女の心が満たされていないのだ。
《あいつめ……!!》
 自室の鉄板に覆われた壁を蹴飛ばしていると、扉が開いた。
《随分と賑やかだな。ラーゼリア》
 開いた扉から入ってきたのは、女性兵士。
 その凛とした佇まいに、壁を蹴飛ばしていた士官ーーラーゼリアも口をつぐむ。
《総長。何か?》
《なに、エースの様子でも見ようと思ってな》
 そう言って、部屋を見渡す。
 戦艦の限られた居住区。この部屋もベッドを置いて、それきりの部屋だ。だが、かろうじて見えている壁には、あちこち蹴飛ばした跡がある。
《ご立腹のようだな》
《あんな戦闘させられたら、腹が立たないほうがおかしいでしょう》
 そう言って、ラーゼリアはそっぽを向く。
 総長は肩をすくめ、
《十分な戦闘結果だったと聞いているが? 敵機は3体落としたんだろう》
《けど、一人落とせなかった》
《その程度、誤差の範囲だろう》
《違うわ。落とそうとしたのに、落とせなかったのよ》
《……ほう》
 ラーゼリアは、この侵略軍において、最も良い動きをする本物のエースだ。
 タイマンで彼女に勝てる者は、軍にもいない。それだけの強さがある。
 そんな彼女から、逃げきった敵。
《気に入らない。気に入らないわ。総長、次の出撃はいつですか!》
《間もなくだ。時間を置く暇はないからな》
《行かせてください。今度こそ、あいつを殺す!!》
《……いいだろう》
 そう言って、総長はにやりと笑った。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 新しい拠点となった小学校の近くに、ホテルがあった。
 ビジネスホテルではあったが、客など入れられる状況ではない。その状況を利用し、組織で借りることになった。
 紅とハナダは、ダブルの相部屋となった。
「……」
 だが、紅はハナダと目も合わせなかった。
「コウ。食事は?」
「うん……」
 軽く離しかけても、生返事だけ。
 それだけ、戦闘というものが、彼女の中でしこりになっているのだ。それは、ハナダも理解していた。
「……」
 平和な日本。戦いなど無縁な世界で生きてきた人間を、いきなり鉄火場にほうり込んだのだ。
 無茶なことを言っているのは、ハナダも理解している。
 そのまま、なんとなくハナダも座り込む。それ以外にできることもない。
 重苦しい時間を過ごしていると、部屋の扉がノックされた。扉に近いハナダが返事をする。
「はい。誰だ?」
「……わたし」
 ミドリの声だ。扉を開けると、小柄な少女が顔を出す。
「ハナダ。それにコウも。少しだけ、時間ある?」
「時間なら、敵が出撃してこない限りいくらでもあるが。外出許可は?」
「たぶん出ないだろうから、こっそりとね」
 そう言って、ミドリは二人を招き寄せた。